第15話 それは都市伝説にすぎないのではないでしょうか?

 大学時代、印象に残る講義があった。


 それは、教養でとっていた社会学である。教養の講義だったので専門的なものではなく、基礎的な事柄を解説しつつ、ときには面白い雑学が紹介されるというものだった。

 教官は非常に真面目な人で、講義の5分前には教室に入り、壇上で資料を整理しながら時間になるのを待っていた。毎回、授業開始とともに問題用紙が配られ、教官の話を聞きながら解答欄を埋めていかなくてはならなかった。講義の最後に問題用紙を提出することによって、出席が認められるというシステムだったので、真面目に聞いている学生が多かったように記憶している。


 ある日、授業開始が開始されると、教官が何枚かの資料を学生たちに配布した。

 英語で書かれた論文のコピーのようで、図表も丁寧につけられている。自慢ではないが、私は今も昔も英語が苦手であった。

「今日の講義では、ユニークな着眼点を持ちながら、埋もれてしまい日の目を見なかった論文について解説したいと思います。論文は英語で書かれていますが、要点は私が説明します。もちろん、読める方はそのまま読んでもらってもかまいません」

 英語が読めない私は、教官の説明に集中することにした。

 講義で説明された論文は、今までに聞いたことのない変わったものだったが、奇妙な魅力があって面白い。ときおり、教官がポイントになる部分を強調するので、資料に赤線を引きつつ問題用紙の空欄を埋めていった。

 講義の時間が残り15分ほどになったところで、教官が急に改まった態度で言った。

「わかっていた方もいるようですが、先ほどまで私が説明していた論文というのは偽物、まったくの作りものです」


 さすがに私は驚いたし、周囲の学生たちもざわついていたように思う。

「先ほどの論文が本物だと信じた人もいるのではないでしょうか。それには2つの大きな要素が関係しています」

 学生たちとは対象的に、壇上の教官は落ち着いた様子で話を続けた。

「まずは、権威ですね。今回だと、大学という場で教授の職にある人間が講義する、ということが該当します。学生のみなさんは、余程のことがない限りは講義の内容を疑うことはないでしょう。2つ目は、もっともらしい外観です。先ほどの論文は、偽物とはいえ、きちんと正式な論文の様式を備えて作成されていました。それなりの外観を整えれば、それだけで信憑性はぐっと上がるものなのです」

 教官は、残り時間を確認すると講義のまとめにはいった。

「今日の講義の要点は、権威とそれらしい外観が揃えば人は容易く信じてしまう、ということです。配布した問題用紙は、演出のためのものですので、回答の必要はありません。今回は、講義の感想と質問を記入して提出して下さい」



 講義を受けた直後の私は、怪しげな知識や仮説などには騙されないぞ、と思ったのだが、全くだめであった。うっかり勘違いしたり、変な知識を信じてしまって恥をかいた経験というのは山ほどある。しかも、それはいい年になった今でも続いているのが悲しい。


 最近では、ネットで「サブリミナル効果」はどうも効かないらしい、ということを知った。

 この「サブリミナル効果」は一昔前に有名になったものである。どんなものかというと、動画に気づかないほどの短時間の画像を紛れ込ませると、知らないうちに人間の意識に影響を与えることができる、というものである。昔に聞いた例では、映画の中にほんの数コマのコーラの画像を紛れ込ませると、映画を見終わった後に、コーラを買う人が増えた、というような話だったように思う。この手法は、洗脳にも通じるものがあるとして禁止された、という情報があったような気がしたのだが、実は効果のほどは怪しいらしい。


 このエッセイを書いている今でも「サブリミナル効果」が正しいのかどうか知らない。だが、よく考えてみれば、効果があるという根拠も、ないという根拠も、甚だ不確かなものである。これが大学の授業であれば「ネットで見た程度を、根拠とは言わない」「出典は明確に」とあきれられてしまうだろう。


 何事も疑いすぎると陰謀論に陥ってしまったりと困った事態になるのだが、全く疑いを持たずに信じてしまう、というのも同じくらい危険である。

 自分が正しいと思っていた事柄が、実は都市伝説だった、ということだって起こり得るのだから。

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友人の知人に聞いたような曖昧なオカルト談義 野島製粉 @kkym20180616

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