第20話 空白の30年~前編~


 朝のそよ風……ぼくは好きだ


 このままほっとくのも、アレだったらイエイヌさんにみんなを運ぶの手伝って貰うお願いをしてみたところ


 「風邪ひくといけないですからね……」


 二つ返事でOkayしてくれた


 しかし、重力ってのはこんな時とても忌々しく感じる


 あらかじめ、運ぶお家のドアは開けておくことは忘れちゃいけない


 カラカルさん、サーバルさんは軽くて割かし早くベッドへ連れていくことができたんだけど、センちゃん、オルマーさん辺りから、かなり苦戦した


 「キュルルさん、作戦、立て違えましたね……行きますよ」

 「ごめん、ぼくもそう思った、うん」

 

 1、2の合図で「ぐっ」と力を入れて肩を持ち上げる


 脚はずるずる引きずる


 「っくぅ~、っ重い……!!」

 「き、キュルルさん、そんな変な声出さないで下さいよ!?力が抜けちゃいます!!」

 「チカラニナレナクテゴメンヨ……」


 ボスが謝った所でぼくは可笑しな姿を想像してしまう

 もしも、ボスが「ヒト」に近い姿を採っていたとしたら……?


       ぼわわん……


 「Oh……」


 いけない、いけない


 「どうしました?」

 「はぁ~……」


 思わず吹き出しそうになってしまった

 取り敢えず一呼吸おいてから


 「な、なんでもないよ!」

 「ふふふ、おかしなキュルルさん。いいえ、アイさん……!」

 

 知っている!

 ぼくの名前を!!


 「い、イエイヌさん!?」

 「……取り敢えず、魔王さま運んだら一杯いかがですか?」

 「相変わらず魔王さまなんだね……」

 

 「Zzz……」


 ラスト一人

 恐らく一番の大物、ホワイトタイガーさん

 身長がぼく達よりもちょっと、大きい

 あと、お胸がすごいデカい……


 「手伝ウカ?」

 「ッッ!?……あなたは?」

 「通リスガリダ、フレンドノオツカイ。……少シコイツココ置カセテモラオウ」


 ギリギリ聞こえる掠れた低い声

 ぼくの影から、薄暗い青のセルリアンさんが現れた


 その方は「アオカゲさん」と名乗った


 影から影へと移り……


 「ヨッコラセ……ット」


 二人より、三人!

 助けてもらって大分楽に運ぶことが出来た!


 「セルリアンさん、ありがとう!」

 「あ、よかったらお茶、していきませんか?」

 「礼ナラ、構ワン。ソレヨリ待タセテイル……サラバダ。マタアオウ……」


 「行っちゃった……」


 背中で語るはいぶし銀、そんな印象の方だった


       ザワッ……


 「イエイヌさん……!!」

 「ええ、なんで今なんでしょうね……」


 朝風の爽やかな風は一変して、纏わりつくこのイヤな感じ……

 湿気とはまた違うじっとりとした感覚


 「に、逃げよう……!」

 「大丈夫、わたしに任せて……ガルル……」


 ぼくの前に立ち、低く唸り声を上げる


 その瞬間、時間が止まったかの様に音が無くなった


 「……キュルルさん、来ます!!」


 空間に突然黒い雨が降り始め、地面にある「何か」を激しく叩き付けた!


 ぐにゃぐにゃ形造られ、その一つ目の化け物はぼく達をただ、見詰めている……


 張り付けにされた時間は


 「アイさん!ごめんなさいっ!!」

 

 襟を雑に捕まれて


 「おおっ!?」


 終わりを告げる


 何もない地面から突然「影」が現れ、ぼく達に襲い掛かって来る


 「ぐうぅ……!」

 「イエイヌさんっ!」


 くぅ、身体が動かない!

 飛ばされた時に、背筋を強く叩き付けられたらしい……

 思うように動かすことが出来ない事に、苛立ちを感じていた


 「立テルカ!?」

 

 「アオカゲさん!キュルルさんを安全な場所へ!!」

 「解ッテイル!ダガ……!!」

 「わたしの事は……!」

 「授カリシ命、簡単ニ投ゲ棄テルモノデハナイ!!」

 

     



     動け、動いてくれ!!


     今、動けなくちゃ……



     ダメなんだ……ッッ!



 「アイさん……やはり、あなた……!」


 光輝く「左腕」、お父さん、こんな都合の良いこと思ってごめんなさい……


     





     アイに、ユウキを……


     


     





     与えてくれぇっ!! 










  その時、不思議なことが起こった!


 (カワイコちゃんを守護れてこその漢だ、アイ、頑張れ!!)


 「その、声は……!」


 (今は、ゆっくりしている場合じゃないよ?さあ、行くんだ!!)


 姿は見えない、だけども、お父さんに背中を押してもらって立ち上がるぼく


 「キュルル!」

 「キュルルちゃん!」


 「カラカル!サーバルちゃん!!」


 騒ぎに二人、駆け付けてここから反撃開始だ!!


 「ふははははは!!我を忘れては居ないか!!!……臣下おともだちに手を出すとは、やぁれやれ……これは、お仕置モノだなぁ!!」


 手をバキバキ鳴らし、静かなる大激怒を露にしている!


 「さぁ来い!!」


 「センちゃん!オルマーさん!!」


 さらに駆け付けてくれて、フルメンバー!


 「影ハ押サエタ!今ダ!殺レ!!!」


 「皆の者!行くぞおっ!!……全力にて、ぶっ叩け!!」


 みんな一斉にセルリアンを取り囲み、瞳から「輝き」が溢れている


       せぇのっ!!


 「ギュッ!」と握り締めた拳

 

 ぼくも、しっかと大地を踏み締めて、腰を入れたストレートを叩き込む!


  

  


    


       パッカーン!!



 


 


 「や、やった……あはは……」


 弾け飛ぶ、怪物セルリアン



 「あんた、やればできるじゃない!」

 「なんで!?キュルルちゃん、なんでぇ!?」


 褒めてくれるカラカルさん

 確かに嬉しい

 だけども、サーバルさんの反応がぼくと一緒だ


 「ぼくは、一体……?」


 あの「一撃」を打ち込んだ後、輝きは引き至って普通の左腕へと戻る


 「答え合わせ……カラカルさん、交換条件ですっ!!」


     


   「にゃあにぃいッッ!!?」 

 

 


 ……と、言うわけでイエイヌさんのお家へ戻り、またまた二人きりになる


 「コレ」について教える代わりに、今日1日ぼくと遊ぶ事になった


 「ぐぬぬ……」と恨めしそうなカラカルさんだったけど、今回は言い争いになる事は無く


 「カラカルよ。減るモノでは無い、其奴の時間を貸してやるとよいぞ?」との魔王様ホワイトタイガーさんの一言でぼく達とは、別行動になった

 

 一緒に居たかったのは、山々だったんだけど……


 「あー、昨日の夜はごめんなさい。あんまりにも嬉しかったものですから……」

 「流石に驚いたよ……」


 後ろ手に頭を撫で、「てへぺろ」っとごめんなさいするイエイヌさん

 ぼくと一緒に暮らしていた子は、フレンズさんになったらどんな感じになるんだろう……?

 イエイヌさんは、シベリアンハスキーっぽい色使いのフレンズさんだ

 ハスキーと比べると色は少しばかり薄め

 近い感じはアラスカンマラミュートに狼を大分マイルドにした、そんな感じ

 そして、アムールトラさん並みに「ゴッ!」と目力が凄い……


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 「くしゅん!……ずぴ……」

 「どうしたのですか?」

 「うーん……だれか、うわさ、してるのかも……」

 「やれやれなのです」

 ________________


 朝の一杯、お湯が沸くまでの間


 「キュルルさんっ!」


 舌を出しつつしっぽをふりふり

 何かをお願いして欲しそうな仕草をしてくる

 

 思い出しながら取り敢えずやってみよう!


 「お手!」

 「はいっ!……ありがとう!久しぶりに出来て嬉しいですぅ!!」


 「ぽむっ……」と握り手で優しくタッチしてくれる


 「いえいえ」


 ここで、イエイヌさんじゃなくてニホンオオカミさんだったらきっと明後日の方向に的を外してドヤ顔なんだろうなぁ……

 

 フレンズさん、見た目は「ヒト」に近い

 だけど、やっぱり種族が違うんだなぁって改めて思った


 「うほぉあぁ……!?」

 「良くできたね!」


 頭を撫でてあげるととっても喜ぶ


 「やっぱり、ヒト、大好きですぅ!」

 「あぁ、懐かしいなぁこの感じ……」


 ぼくが眠りについて、あれから30年の月日が流れているらしい

 だけどこの感じ、つい最近の様に感じる


 「わたしもですぅ!……次は、なにをっ!?」


 うお!めちゃくちゃ喜んでる!!


 イエイヌさんは、すっくと立ち上がりベッドの下からごそごそ、おもむろに何かを取り出すと……


 「これを投げてくれませんか?」

 「フリスビー?」


 空いてる窓の外を指差し

 

 よおし……


 「あ、違います!こうです!こう!!」

 「アッハイ」


 手首を上手く使えてないっぽい……

 

 何度か「エアフリスビー」をした後、本番をやってみたらきれいに飛んでいった


 「うはぁ……まてぇいっ!!」


 イエイヌさんもフリスビー目掛けてまっしぐら!イエイヌさんまっしぐら!!


 「お?」


 窓から出ていった処で丁度「カチッ」と音がした

 

 どうやら沸いたようだ


 「ほぉう!!」


 そしてイエイヌさん、フリスビーを咥えつつ、窓から戻ってきた


 「おお、ワンダフル……」


 逆さ立ちの手から地へと華麗な「五点着地ファイブリスペクト」を決めながら


 「おっと、これはいけませんね……失礼しました!」

 「久しぶりだったからね、ぼくも楽しかったよ。ありがとう」

 「そんな……嬉しいですぅ!おーいおいおい……!」

 「なにも泣かなくても……」



 それからそれから、しばらくだらだら……

 

 窓に腰掛け、ぼくは絵を描いている

 構図は、こっちを見ながら紅茶を注ぐイエイヌさん


 ちなみに今は、テーブルに腕枕をして寝息を立てている

  

 程好い日差しと、時折「さあっ」と微かに吹く風が心地よい昼下がり……


 ある程度描き進めた処で、シーツを掛けて上げた


 あらら、ちょっとよだれ出ちゃってる……


 「キュルル」

 「なぁに?ボス」

 「コウイッタシズカナジカンモマタ、オツナモノダネェ……」

 「そうだね」

 「シバラクハコノジカンヲタノシムノモ、ワルクハナイモノダトオモウヨ……」


 空を見上げると、ゆっくりとした雲が流れていて


 「穏やかだなぁ……」


 ぼくは、思いを巡らせる

 何故だろう?

 「お父さん」の事は思い出せるのに、「お母さん」を思い出す事はなかなか出来ない


 イエイヌさんが持ってるで「あろう」答えにそこが有るのか、気になる処なんだけど……


 まだまだ、今日と言う1日は長い


 焦っても仕方の無いこと


 約束はしっかり守ってくれるハズ

 その時で良いかな


 今頃、みんな何をしているのか考えてみようと思ったけど……


 やっぱり止めにしたんだ……


 ←→↓→↓→→↓→←↓↓←→


 結局、暮れ泥む時間

 そろそろ起こしてあげよう


 「イエイヌさん」

 「あ、おはようございます。もう、こんな時間なんですね……」

 「あんまり遊んであげられなくてごめんね……」

 「いえ、良いんですよわたしにはコレで」


 今まで「ごしゅじんさま」を待ち続け、ずっと一人っきりだったと話すイエイヌさん


 「誰かがそばに居てくれる。それだけでわたしはいつもよりも、穏やかな気持ちで居られたんです。だからわたしは満足です!」

 「イエイヌさん……」

 「確かにアイさんは、ごしゅじんさまのナナさんには到底及びませんが」

 「うっ……」


 解ってはいても、こう、ド直球ストレートな表現だと地味にキツい……


 「ですが、あなたのおともだちもそうですが、ここにあの時のように沢山のヒトが来てくれた時を思い出す事が出来てとても嬉しかったし、楽しかったんです!」 


 「え……?」


 イエイヌさん、ぼくの手を取り


    「お願いがあります」


 とても簡単、至ってシンプル

 そのお願いは……?


 この、ジャパリが1日の終わりを迎える頃、ナナさんといつもやっていたお別れの挨拶

 

 「とは言っても、この隣のおうちがそうだったんですけどね?」とは、イエイヌさん

 コレが終わると、一緒にお晩を作ったり、他にもここに住んでるフレンズさん達とおしゃべりしたりと、そんな素敵な「もう一つ」の時間が始まりを告げる合図


 外に出て、少しばかりドアの前に立ち


 「言ってくれませんか?おうちにおかえりって……!」

 

 目を閉じ、そんな風景をイメージしながらぼくは言った   

  

    「おうちにおかえり!」


 イエイヌさん、涙が滲み溢れ、感極まったのか声にならない声を上げた


 とても、寂しかったんだと思う


 

 「ありがとう……ありがとうっ!!」


 

 ぼくはしばらくこのまま、寄り添うだけしか出来ない……


 「今までよく頑張ったね、イエイヌさん……」


 蟋蟀や、鈴虫達が夜の始まりを教えてくれる

 もう、そんな時間……


 「アイさん、今日は一日、本当にありがとうございました!」

 

 にっこり笑うイエイヌさん、なんだかぼくも嬉しいな!


 「いえいえ、どういたしまして」


 そんなやり取りをしていたら丁度


     「ふははははは!!」


 あの高笑いが聴こえて来たから、みんな帰ってきたみたい

 

 様子を見て、ぼくは驚いた!


 「ふー、良い湯でしたねぇ……」 

 

 みんなそろってほっくほく!

 いつにも増してお肌がつやっつや!!


 「もう済んだかしら?」

 「か、カラカル?一体何があったの!?」


 なんでも、ここからは離れた場所で源泉を堀当てる事に成功したんだとか!


 「もう、大変だったんだから……」


 みんなでわいわい、報告もたけなわに


 お家がたくさんのこの「居住エリア」

 その中心地には、大きめの建物が有る


 「ささ、みなさんこちらへ……」


 そこへ向かう


 歩いていると嬉しい事が


 「オマタセ!」


 10体程のボス達がぼく達を出迎えてくれた

 

 お食事じゃぱりまんを持ってきてくれたボス達は、相変わらず「基本的にはしゃべっちゃダメ!」らしいから、ジョリーさんを通してありがとうを伝える


 チカチカおめめが光り、ぞろぞろと林の中へ消えていった


 イエイヌさんの案内で中へ


 施設はしっかりとお手入れがされている


 明かりが点くと、そこは大部屋

 

 「さて、わたしが分かる事についてこれからお話します……」


 イエイヌさんは、静かに口を開き始め……そして、意外な質問をぼくにしてきた


 「キュルルさん、あなたが普段何かをする時、どちらの手をよく使いますか?」


 「え……?」






 しゅっぱつしんこー!ジャパリパーク!!

 

 

 

 


 


  

 

 


 


 


 

 

 


 


 

 





 


 

 


 


 

 


 


 

 

 


 


 


 

 


 


 


 

 

 

 


 


 


 

 

 


 


 


 


 


      


 




 



 


 


  

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