魔法札は紙とペンで作ろうよ

咲兎

魔法札作り

 これは、ある異世界の地球の物語。

 その地球では、魔法という超常現象を起こす事の出来る力が存在した。

 そして、その魔法を扱える人間、通称魔法使いもまた多く存在した

 そんな地球には、1人前の魔法使いになる為の魔法学校が世界中に存在しており、多くの人々が通っているのであった。


 そして、これは、そんな魔法学校の1つ、日本の東流魔法高校に通う2人の魔法使いのお話。


「なぁ、藍ちゃん。思ったんだけどよ……」


 夕方、夕焼けで赤く照らされる廊下の中には、2人の生徒が歩いていた

 その内の1人、やや長身の細身な男はもう1人に向かって話しかけた。


「どうしたの、卓兄」


 そう返すのは、一般的な女子高生よりやや背の高い茶髪の女生徒アイである。

 彼女は、共に歩く男、卓矢の妹であり、先程、卓矢と帰りがたまたま同じになったので、共に廊下を歩いている。


「うちの家系ってさ。札を作る魔法を代々受け継いでるだろ? そんで、作った魔法の札を売ったりしてるじゃん」

「それが、家業みたいなものだからね」


 彼らの家系、藤堂家は魔法の力がこもった札を作っている。

 魔法の札とは名前の通り、魔法に使う札の事である。それは、魔法使いが大魔術を使う時の道具の1つである。


「アレってさ、作るの阿呆ほど面倒臭いだろ。まず、汚れを払う。次に儀式。そして、1枚1枚の札に筆で手書き! どう思う!?」

「仕事だから仕方ないでしょう?」

「かー! お前、そんなんで良いのか! 将来アレやる事になるんだぞ!」

「あぁ言うのは、男の方が作るの向いてるから、継ぐなら卓兄だよ」

「くそぅ!」


 そう言って、卓也は悔しがる。だが、すぐに切り替えてある事を話し始めた。


「そんで俺、思ったんだけどよ」

「くだらない事でしょ。私、先帰ってるね」

「あー、待って! 聞いて!」


 先に、帰ろうとするアイを止める卓也。完全に相手にされていなかった。


「いや、あの札ってさ。

 何もあそこまでしなくても、別に形式さえ真似れば、そこら辺にある紙とペンで作れるんじゃねって思って。あそこまでする必要ないんじゃねぇかってな」

「そんな訳ないでしょ。それだったら、魔法使いみんな札自作してるよ。それが出来ないから買ってるんだよ」


 だが、そのアイの意見を聞いても卓也は考えを改めなかった。


「いや、俺の考えが正しければたぶん行けるって。そんで、家の札の描き方で魔法特許でも取って一儲け出来るって!」


 魔法特許は、魔法に関する特許にして、一種の発明が認められた証であり、取得しただけでその発明の度合いに比例して、開発者に金額が授与される制度である。


「いや、そんな事ある訳ないでしょ……」


 数分後、空き教室にて


「あっ、発動した!」

「嘘!」


 卓也は教室にあったプリントの裏紙を使って、シャープペンで模様を描き、札もどきを作った。そして、それを使って卓也は試しに教室中を光らせる魔術を使ったのだが、これがなんと発動した。


「えっ!? どうして?」

「へっ! ちょっと、変えたからな!」

「卓兄にそんな才能が!?」

「ちょっと、同じクラスの誠一にコツを聞いたんだ」

「あぁ、あの、校長の親戚だっていう人? へー、コツで上手くいくものなんだ」


 そう言って、アイは光輝く教室を眺める。


「これで特許をとり、俺は家業からおさらばするぜ!」

「そうはいかないぞ、卓也!」


 その時、どこかから声がした。


「なっ、その声は親父!」


 その声は、2人の父親辰人だった。


「そう私だ! 今、お前が札を簡易札を使った事が分かったので、私もお前のカバンの中に潜ませている札の中から会話している!」

「何ぃ! 俺らのカバンの中に札だと! 余計な事を!」


 カバンの中に札、それは札を通してプライバシーが筒抜けになるという意味である。それを、聞いた瞬間、アイは一心不乱にカバンの中を漁り始めた。


「……こうなったら、燃やすか」


 探っても、札が見つからなかったアイはカバンごと魔法で燃やすという強硬手段に出ようかと考えていた。後、親父も燃やそうと考えていた。


「お、おい、親父。藍ちゃんのカバンの中にも札は入ってるのか?」

「お前と一緒にするな。入れる意味がない」

「燃え、危な!」


 アイは、慌てて手を止めた。だが、少しカバンが若干焦げた。


「ちっ」

「……あー、その親父。そんで、その簡易札ってのは今俺が作った札の事か? 親父も作ったことがあんのか?」

「勿論だ。だが、それは質が悪い。上位の魔法に耐えうるものではない」

「いや、普通の札と同じように使えてるけど」

「何? ちょ、ちょっと待て、その札見せてくれ、あぁ! 課長! ちが、これは! あぁー!」


 そのまま、父親 辰人からの通信は途絶えた。


「……何だったんだ、親父」

「とりあえず、父さんにはカバン弁償してもらうよ」

「親父何もしてないのに、理不尽すぎんだろ」


 その後、2人の自宅にて。辰人と話をしていた。


「確かに……これは、普通の札として使えるな。よし廃業して、これで魔法特許取るか」

「えぇ!? 父さんまでそんな事!」

「いや、考えてもみろ。今の時代、もう札を使った魔法を使う奴なんて少ない。

 大手魔道会社にはニーズがあるが……その手の奴はうちみたいな個人には依頼してこない。見ろ、家業とか言っときながら、父さん普通の会社で働いてるんだぞ」

「うん、そうだね。何なら、魔道研究士の母さんの方が年収多いね」

「……それは、言うな」


 落ち込む辰人。そこに、元気づけようと、卓也が声を掛ける。


「安心しろ! これで、魔法特許とればセーフだ! 

 ……にしても、魔法特許取ったら、どうすっかな……あっ、思いついたぞ?」

「なんだ、どうした?」


 笑う卓也に問いかける辰人、すると、卓也は待ってましたと言わんばかりに答えた。


「聞いてくれ、親父。この札の描き方を本や動画にして一般に公開するんだ! 

 この地球に魔法が全く使えない奴はほぼいない。でも、藍ちゃん、いなかったか? 中学校の頃、魔法の授業が苦手で困ってる奴」

「え? 私? まぁ確かにいたけど、英語や数学が苦手な人と同じ位」

「だよな! でも、魔法は世間で必要とされてるんだぞ! 

 世界は魔法技術化が進んでいる! その内、魔法が使えなければ、ドアを開ける事すら出来なくなるかもしれない! だったら、この札は魔法が苦手な人の為に使われるべきだ!」

「つまり……どういう事だ?」


 そう聞いた辰人に卓也は、静かにこう答えた。


「札には色々な効果があるだろ。魔法を使う手助けをする役割もある。これで、魔法を習得しやすく出来て問題解決ができる。

 それに、札には魔法の力を込める事も可能だろ。この模様は、炎の魔法て感じにな。これで、魔法が苦手な人間でも疑似的に魔法が使える」

「その為に、描き方を公開するって事か?」

「特許認定されてる奴なら、他の札書きもどうこう言ってくる事はないだろうし、金も認定された時に入るから問題ないはずだぜ」


 卓也はそう自信満々に言ったが、辰人は微妙そうな表情を浮かべた。


「うーむ、だが、札であるという時点で他の札書きから文句は言われるだろう。というか、第一、特許をとった技術を拡散しても他の者には使えないのでは?」

「使えないから、文句を言われないんだろ。でも、魔法を使いたい人間はこっそりパクる! いや、パクらせる!」

「なんで、特許志願者がパクリ推奨なの」


 呆れるアイ。そして、辰人はため息をついて、こういった。


「お前の魔法が苦手な人々を簡易札で助けたいという考えは良いと思う。だが、現実的ではないな」

「くっ」

「……だが、まぁ、私もできる限り協力してやろう。そもそも家業と言っても、ほぼ収入なかったしな! 廃業しても良かったしな!」

「ぶっちゃけすぎでしょ、親父……」


 アイはため息をつきながら、その場を立ち去ったのだった……。


 後日、東流魔法学校、校長室にて。


「クハハハ! まさか、貴様が現れるとはなぁ! 辰人!」


 その1室には、やけに騒がしい大柄の中年がいた。この男こそが、東流魔法学校の校長である。ちなみに髪はヅラである。


「久方ぶりですね、朝比奈校長。今日は、1つ儲け話があってまいりました」


 その男と対峙するのは、藍と卓也の父、辰人である。


「休日に商談とは、ご苦労である! して、どのような内容か?」

「実は、当家で新たな技術を開発したのです。それが、こちらの簡易札。どの紙に書いてもこの模様であれば、同じ魔法札同然の効力を発揮します」

「なっ、何!? それは、素晴らしい発明ではないかっ! しかも、その模様。誰でも書けるような簡単な模様ではないか! 本当に、それで出来るのか?

 試しにこの紙とペンでやってみせい!」


 校長は、そういってその場にあった紙とペンを手渡す。辰人はさらっと、模様を書き込み簡易札を完成させると、その札を使って室内を照らす魔法を発動させた。


「ほ、本物だと……」

「この他のも、いくつもの模様のパターンが存在しまして、軽く魔力を込めるだけで炎が発生するものや、魔法の修行を補助するもの等存在します。

 どれも、誰でも描きやすい模様ばかりです。私は、今からこの技術を貴方に売りたいと考えております。ですが、交換条件があります」

「……ほぅ」

「1つは、この技術を貴方がこの学校のカリキュラムに導入する事、一部の模様で構いません。もう1つは、この技術の拡散に貴方が協力する事。

 そして、この技術を拡散させた事による責任の全てを貴方が背負う事です」

「容易い。して、いくらだ。3億か、4億か? それ以上か? この技術にはそれだけの価値があると見るが……」


 それを聞いた辰人は、静かにこう答えた。


「お代は一切頂きません。元より、大して金にならない仕事。息子の願いをかなえる事が報酬です」


 ……1月後、簡易札のいくつかの模様は、SNSなどを通して日本中に広まっていた。

 その描きやすさ、そして苦手を克服できるという事もあって、多くの支持を集めていた。


「これで、少しは魔法が苦手な人が減ると良いんだけどなぁ」


 卓也は夕暮れの空き教室で静かに呟いた。

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魔法札は紙とペンで作ろうよ 咲兎 @Zodiarc2007

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