ガマにいた

 修学旅行といえば、学生のうちの一大イベントと言っても過言ではないだろう。その時の不思議な体験をお話ししようと思う。


 俺たちの修学旅行は贅沢に海外……なんてはずもなく、例年通り公立高校らしく沖縄への旅行となった。きれいな海を目の前にしても、入ることを禁止されていた俺たちは真っ白の砂浜で遊ぶだけ。それでも浮足立っていたのは間違いない。


 沖縄には、戦争を知り平和を学ぶという名目で修学旅行が組まれたようで、戦争体験者の話を聞いたり、有名な白百合の塔を見学したりと、普段触れることがないことを見聞きした。それで俺の感覚が鋭くなっていたのだろうが、その時は知る由もない。

 ガマに入ったのは、恐らく二日目のことだったと思う。ガマというのはいわゆる自然に頼った防空壕だ。その中で何人もの人が亡くなったらしく、普段は立ち入り禁止になっている場所だった。

 懐中電灯を片手に案内のおじさんにわらわらとついていく。不謹慎ながら、ちょっとした冒険気分で足元の悪い暗闇を進んでいった。

 暗闇の中はじとっとしていて、湿気を多く含んだ空気が体中にまとわりついてくる。サラサラと水の音が聞こえ、ああ、川が通っているのかとぼんやり考えていた。


――それにしても暑い。


 12月だというのに少し汗がにじむほどに暑い。それほどまでに厚着をしていないのに、動いたせいか。そこまで考えて、先ほどの川が温泉だったのではないかというところに思考が追いついたとき、先頭のおじさんは足を止めた。

 生徒が揃ってから話始めるおじさん。それにしても話を聞いていないやつがいるのか、ひそひそ話す声が岩肌に反響して耳障りだ。誰の声かと見回すけれど、薄暗いせいでそれはかなわない。真面目な話をしているのに、なんて不届き者だ。

 おじさんの説明はしっかり聞いていたはずだが、あまり頭に残っていないのは俺も不届き者だったってことだろう。ごめん、おじさん。あの時はちゃんと聞いてたんだよ。


 地上に戻った時、一気に涼しさを感じ、光に目がくらんだのをよく覚えている。

ホテルへのバスの中で、友達に話しかけた。

「ガマの中に温泉わいてんだな、めっちゃ暑くなかった?」

「は、温泉?何言ってんの」

「え?」

 友達が怪訝な顔をしているのだが、俺には一向にそれが理解できない。理由を問うと、横にいた別のやつも口を揃えて言った。



「ガマの中すごい寒かったじゃん」



 いや、確かに汗をかいたし、熱気を感じた。みんなが寒かったというなら、俺は一体何を感じていたのだろう?もしかしてガマの中で亡くなった人の体温――と、そこまで考えて俺は話を変えようと必死になった。

「てか、おじさんの説明のとき喋ってたやつ誰?」

 また、友達がおかしな表情になる。

 まずいことを言っただろうか。



「誰も喋ってなかったよ」


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ゆめうつつ くさったしたい @yaku-pwq

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