【怖】祖父の死
母方の祖父は、私が中学生の時に亡くなった。具合が悪くなって、二日ほどでころりと逝ってしまった。身近な人の死が初めてだった私は混乱の中にいた。
火葬を終え、セレモニーホールの空きが出るのを待っている状態だった。祖父の大腿骨は恐ろしいほど太く重く、脂汗が滲んだのをよく覚えている。祖父母の家は仏壇はあるものの物置と化していたため、簡単に片づけをして祖父の遺骨を仏壇の中にしまった。その日は私の父が「じいちゃんが一人じゃあ、かわいそうだろ」と言い、仏間で眠り、私たちは別の部屋で休んだ。
ところが、その夜は騒々しかった。
皆が床に就き、しばらくしてからのことだったと思う。バタバタと足音と話し声がして私は目を覚ました。横に寝ていたはずの母も祖母もおらず、なにやら仏間に灯りがつけられ騒がしい。寝ぼけ眼を擦りながらも私もそちらへ向かった。
すると、閉めていたはずの仏壇の扉は開き、花を生けた花瓶が倒れて仏壇の中は水浸しになっていた。
仏間で寝ていた父は、物音で目が覚め、その時にはもう仏壇の中はびしょ濡れだったと話した。
なぜ、閉めていた仏壇が開いたのか。
なぜ、外側に倒れるはずの花瓶が仏壇の中に倒れたのか。
今思えば、祖父は自分が死んだことに気が付いていなかったのかもしれない。話しかけても皆が応えないから、物を動かすことで語りかけたのかもしれない。
その後、不可思議なできごとは起きることなく七回忌を迎えた。
祖父は休みのたびにどこかしらに出かけたり、夜は飲み屋を渡り歩いたりとじっとしていない人だった。お墓参りに行っても、なんとなく、空っぽな気がするのだ。
「身軽になったから、好きなように外出していて留守だろうね。」
お墓参りの時は、必ず誰かがこんなことを言う。人付き合いの上手だった祖父。きっと友達を大勢連れて、今日もどこかを観光していることだろう。
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