第6話 ほんとのきもち

この状況は飲み込めない。 何が何だかさっぱりだ。

トラックに跳ねられた後悔が頭をよぎる。数々の思い出が心に刺さる。

落ち着くことなんて、出来ない。

「もう・・・どうしようかな。どうでもよくなってきた。」


「なら、水浴びでもどう?スッキリするわよ♩」


「はあ?」

(これだからこの人は・・・。全く、こっちの身にもなってほしい。)


 ・・・苦しいのに。でも今、逃げ場はない。


———もうなにを考えたって無駄だ!


「———少しだけなら。」


「そうこなくっちゃね!」


■□■


悔しいが、意外とスッとする。残念だが、彼女の言うことが正しかった。

『服を着たまま』というのは引っかかったが、

『前の世界でできなかったことをやっている』と考えると心が晴れ晴れとする。

不思議な感覚。逆転の発想とかいうやつ・・・なんだろうか。

思いっ切り水を掛け合ったら、今度は太陽の下で思いっ切り寝そべってやった。

草原の絨毯は、暖かくて。輝いていて。下手すれば、うちの布団より心地がいい。


こんな感覚初めてだ!! ———でもなぜだろう。違う。


 ・・・やっぱり焦ってた私が間違ってたんだろうか。


えない顔してますわね。」


「えっ!?ああ・・・見てたんだ。ええっと、いつから?」


とっさに質問して話を紛らわそうとする。私ったらなにしてるんだろ?


「『本当の自分が何なのかわからない。』といったところかしら?

 水浴びで吹っ切ることができても、まだそのモヤモヤだけは残ったまま。

 一体自分はどうするべきなのか?なにを考えていればいいのか?

 本当にわからなくなってる。 違う?」


(そう。半分合ってる。私はここに突然送られて、姿が豹変ひょうへんして、

 自分が誰か、もう分かんない。分かんないんだよっ・・・!!)


  でもっ・・・でもでも!!そんなことっ!!!!




『今はそんなこと!!! 全ッ然どうでもいいんだよおっ!!!!!』




———気がつけば、腹の中の力を全部振り絞って叫んでいた。息が苦しくなる。彼女は口をポカンと開けて、立ち尽くしていた。

きっと彼女もまた、状況がわかっていない。 静寂が続いた。

頰が熱くなる。視界がぼやける。私、涙なんて・・・。


「ハアッ・・・ハアッ・・・ごめんなさい。本当に。

 気遣ってくれてたのに。突き放したりばっかりで。

 色々知ろうとしてくれたのに、なにも答えなくって・・・!

 いっぱい優しさをくれたのにッ!!! ううっ・・・」


「・・・フフッ。」


「———ふえっ?」(思わず変な声が漏れた。)


『アハハハハッ!!!やっぱり!あなたは本当に面白いのね♩』


 気がつけば唖然あぜんとしていた。涙はこぼれたまま。

 彼女は続けた。

「ここはたくさんのフレンズが頻繁ひんぱんに生まれやすい場所なの。

 だから、あなたみたいな子とは何回もお話ししてるのよ?

 あんなこと慣れちゃってるし、そういう時だからこそ

 優しくしてあげる。そうするって決めてるの。

 でもまさか、あなたの口から謝ってくれたなんてビックリしちゃって。

 ・・・昔のあなたの話は、正直ちっともわからなかった。

 そこは私からも。ごめんなさいね・・・。

 でも、わかることが

 あなたの周りにいたお友達はきっと。

 ・・・いいえ。絶対に!幸せだったと思うわ。」


———気がつけば彼女と。・・・いや『カバ』と。

お互いを抱きしめあい、私だけが泣きじゃくっていた。






    私たち、いい友達フレンズ・・・以上になれたかな。

 

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