夢の城。

タッチャン

夢の城。

山元英樹の父親は三ツ星ホテルの料理人として有名であった。

料理番組や雑誌の取材にと忙しい毎日を送っていた。

幼い頃の英樹は殆ど家に帰ってこない父親に対して10%の憤りと20%の寂しさと70%の尊敬を抱いて過ごしていた。

彼の友達は週末になると、父親とキャッチボールをしただの、遊園地に行っただの、映画を一緒に見に行ったなどと、小学校の3年3組で行われるいつもの自慢話大会にいつも参加出来ずにいた。

だが彼は仲間外れにされても悲しむ事はなかった。

気にも止めなかったのである。

何故なら、たまに帰ってくる父親は朝から晩まで、彼と一緒にキッチンに立ち、料理の素晴しさ、食の偉大さ、大切な人に料理を振る舞う愉しさを語りながら、面白おかしく様々な料理を作るのだ。

彼にとって、遊園地やキャッチボールより、父親の隣で包丁を握り、キッチンの前に立つ事の方が何倍も好きだった。


この流れを何年も繰り返して、彼の将来の夢となったのは父親と同じ、料理人だった。

カテゴリーは一緒でも細かな部分は違った。

彼は料理の世界で有名になりたいとは思わなかった。

彼が思い描くビジョンは、自分の城を持って、細々と生活する事だった。

自分の手料理を自分の店で、自分の目の前で客に食べて貰い、幸せな表情を見たいと願う様になった。


中学校を卒業した彼は高校に行かず、父親のコネを使って、父親の隣で修行の毎日を送っていた。

それは彼の想像を越える程の厳しい毎日だった。自宅のキッチンで楽しく教える父親とは違い、鬼の様な眼差しと、怒鳴り声が彼の神経をすり減らしていったのだ。

挫けそうになった。それも何度も何度も。

だが彼は負けなかった。

彼を支え立ち直らせる源は夢の城を築く夢だった。

彼はその夢の為に何度も立ち上がった。


10年後、その夢は現実となった。

彼の店は15人が入る程度の小さなレストランで、毎日常連客や口コミで広まった噂を聞きつけて来店する新規の客で賑わっていた。


彼はこの夢の城を「こたつ広場」と名付けた。

こたつに入りながら洋食を食べるスタイルは奇抜で尚且つ父親から学んだ味が人気となったのだ。

このレストランは10月から次の年の4月までの寒い時期に期間限定でオープンしていた。


店を閉めてる間、彼は幼かった頃と同じ様に父親の隣で楽しくキッチンの前に立ち、ホテルの客に食の偉大さを伝える為に腕を振るっていた。

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夢の城。 タッチャン @djp753

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