Sexしよっ♪

谷兼天慈

Sexしよっ♪

「ねぇ、彼氏とどんなSEXしてんの?」

「は?」


 あたしはギョッとしてAの顔を見つめた。

 Aは同じ事務所のいっこ下の女の子。

 今年一緒に入社して、彼女は20、あたしは21。

 もうそろそろクリスマスというこの次期。

 入社したその瞬間から男探ししてあっという間に彼氏を作った彼女とは違い、あたしはつい最近やっとのことで彼氏をゲット。


「やった。これでクリスマスはバッチリね」


 けれど、まだ彼とは出会ったばかりで。

 Aとは違う他の部署の女の子たちと行った合コンで、一番タイプな人だった。


「顔はいいけどー、背低いじゃん」

「…………」


 初めてのデートの時、偶然出会ってしまったAに、次の日言われた。

 確かに彼は背が低い。

 一応あたしよりちょっとだけ高いのだけれど、ヒールはくとどうしてもあたしの方が背高くなっちゃう。

 Aは、もちろん顔で男を選ぶ女なんだけど、背もなくっちゃいやっていう人で。

 別にいいじゃん、背くらい。

 あたしは全然気にしないぞ。

 彼も気にしてないと思う……たぶん。


「君ってカジュアルな格好が似合うよね」

「…………」


 それって、なんですか。

 ヒールはくなってことですか?

 めちゃめちゃ気にしてる?

 あたしはこれでもジーンズなんてはいたことなかったし、バリバリ少女趣味な格好をしていた。

 それがかわいいねって言ってくれた人もいたけれど、なぜか男は寄ってこなかった。

 てことは───


「似合ってなかったってことなのね」


 そうか、そうだったんだ。

 あたしは大いに納得した。

 というか、そういうことではなくって。

 

「ねぇねぇ、どんななのお?」

「なんでそんなこと聞くのよ」


 だからー、あたしたちまだそこまでいってないのにー。

 そう叫びたかったけれど、次の言葉で何も言えなくなってしまった。


「まさか、まだヤってないってことないわよねぇぇ?」

「ぐっ…!」

「出会ってすぐGOなんてザラよぉ。やっぱ付き合うんならSEXの相性よくなくっちゃねぇ」

「あ…合わなかったらどおすんのよ」

「そりゃー、即バイね」

「えー?」

「そおよお。顔が良くたって身体が相性よくなかったら苦痛じゃん」

「そうかなあ?」


 そんなもんだろうか?

 別に顔がどうとかっていうことじゃなく、キモチいいことしてくれるからってわけじゃなく、あたしは好きだなって思ったらそれだけで満足なんだけどな。

 それに、あたしは好きだったら、きっとキモチいいって思うんじゃないかな。

 どんなにヘタだって。

 というか、ヘタなのかどうなのかあたしにはわかんない。

 だって、実はあたしまだ……。


「ねえ、もしかしてあんたってまだ処女?」

「!!」


 思わず飲んでたコーヒーを吹きかけた。

 そんなあたしに向けられる喫茶店の客たちの好奇心の目。

 まったく、もっと小声で言いなさいよっ。


「そっかー、そうなんだぁ」

「ちょっ…待って……」

「でも、ちゃんと彼氏できたんだからさ、良かったジャン、これでバージン捨てられるんだからさ」

「なっ…何言って……」

「ということはー、イヴの夜は……あいつと……」


 あたしの言葉も聞こえないくらい、すっかり、彼女は自分の世界に入り込んでいた。

 まったく───

 けど、実はあたしもちょっとドキドキしてたりして。

 確かに彼はあたしにはもったいないくらいいい男で。

 背は低いけど、ステキな声だし、物知りだし、ジョークも言える素敵な人。

 なんであたしなんかいいって思ってくれたのか知らないけれど、あたしはこの人だけは逃すまいと思ってる。

 できたら、そのまま結婚───なんてことになったらいいよなあって。


「…で、お願いね」

「へ?」

「へ?じゃないわよお。処女喪失の感想と、彼氏のテクニック教えてね」

「は?」

「あたしキョーミあるのよねぇ」

「だから、何に?」

「自分の男はヤってる時にこーだあーだってわかってるわけだけどー、他の人の彼氏ってどんな顔してヤってんのかなあって」

「はああっ??」


 この女、いったい何考えてんだか、わかんない。



 で、結局あたしと彼はヤってない。

 もぉ、はしたない。

 ヤってないなんて言葉あたしが使うなんて。

 興味あるあるなんて言ってたけど、興味あったのは彼本人で、別にSEXに興味あったわけじゃないのね。

 まったく、あたしってバカだったわ。

 横からかっさらわれちゃったわけだもん。

 さっさとイヴが来る前に、彼とヤっちゃったA。


「ごめーん。だってホントにあんたたちヤってなかったなんてさー、思わなかったんだよー」

「…………」


 なんか、それいい訳にもなってないんだけど。

 ヤってなかったからって、それがなんで彼氏奪うことになるかなあ? 

 てゆーか、どうやら彼は最初のデートの時に偶然出会ったAに心が変わってたらしい。

 いいわよ、ふん。

 男なんてもう知らない。

 どーせあたしはつまんない女ですよ。

 どーせあたしはおもしろくない女ですよ。

 どーせあたしはAほどいい女じゃないですよ。

 どーせどーせ……



「オレとSEXしない?」

「はあっ?」


 イヴの夜。

 あたしはデパートの玄関に飾られたツリーの前に立っていた。

 外ではチラチラ雪が降り出して。

 人の流れをボーっと眺めてて。

 そしたらいきなり目の前に立ちはだかった男。

 見上げるような背の高さ。

 髪が金髪で立ってて、耳にピアスがジャラジャラで。

 目が切れ長で、ちょっとヤバそうな感じ。

 げっ、マジ?


 だけど、なんでかなあ?

 あたしはその男についてっちゃった。

 自暴自棄になってたのかなあ?

 あたしってそんな女だったんだと、びっくりしたけどね。


「オレ、マジだから」

「へ?」


 なんかあたし、「へ?」って言ってばかしみたい。

 どうしてこうもあたしの周りってヘンなのばっかり寄ってくるんだろう。

 まあ、あたしが一番ヘンなのかもねっ。

 彼はSinって名乗った。

 ラブホでコトをすませたあと、彼は「マジだから」って言ったけど。

 それってどーゆーことよ。

 それよりも、あたしはホントに初めてで、なんもわかんないままバージン捨てちゃったわけだけども。

 あれが果たしてちゃんとヤったってことなのかどうかわかんないけれども。

 いちお、顔に似合わず乱暴じゃなかったし、それなりに……キモチよかったし……ちょっと痛かったけど。


「あんたバージンだった」

「そっ、それがどーしたってーのよ、なんかモンクある?」


 あたしがそう言って睨んだら、意外と彼がニコって微笑んだ。

 あら、かわいい。

 よく見るといい男じゃん。


「あんたさ、売り場で売り子してんだろ」

「へ?」


 あ、また言っちゃった。


「オレ、よくあそこのデパート買いモンに行くんだけどさ。あんたを売り場で何度か見て、いいなあって思ってたんだ」

「売り場で?」

「あのお高い女どもの中でさ、あんただけだったぜ、年寄りとかに親切に根気強く説明してただろ」

「…………」


 あたしは黙ってしまった。

 あたしは売り子じゃない。

 ほんとは売り子として売り場に立つはずだったけど。

 あたし、話ベタで。

 客商売が大好き、人と話すために生まれてきた───なんて豪語してたAとは違って、ほんっと対人恐怖症なとこがちょっとあって。

 だから、あのデパートで経理に回されたときは喜んだ。

 けど、やっぱり忙しい時なんかは売り場に出されちゃって接客しなくちゃならなくて。

 あたしはすごく売り場応援が大嫌いだった。

 いやいや応援に出てたんだ。

 

「いつもじゃないけど、忙しい時を狙っていくと、必ずあんたいたし。いっつも見に行ってたんだぜ」

「知らなかった」

「そりゃそーだろ。あんたすげー一生懸命だったもん。周りのことなんか目に入ってなかったんじゃない?」

「そっか…」

「でも、ほんと驚いた。まさかほんとにオレとしてくれるなんてさ。しかも、オレが初めてだったなんて、なんかラッキーって感じ」

「そういうもんなの? だって、あたしの友達言ってたけど、男って初めてな女はメンドーだって」

「オレはちげーよぉ。こう見えてもオレってレトロな頭の持ち主なの」

「ぷっ…」


 あたしは吹き出した。

 だって、顔と言ってることが一致しなーい。

 けど、なんかこういうのっていい。

 すごーくいい。

 だから言った。


「ね、もいっかいSEXしよっ♪」

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