wave2


ナナシ 「ユキちゃぁ~ん! 助けてくれぇ、大将がいい年こいておぢさんをいぢめるんだ~~!」

ヒビキ 「あ、ナナシだ! おかえり! どこいってたんだ!?」

イェリオ「……おかえりなさい、ナナシ……」

ナナシ 「おぅ、ヒビキにイェリオ。お前らも男くさいメンツの中にわずかな『癒し』を求めて来たのか。だよなぁ、やっぱなぁ……大将は他で補給できるからいいとして、ここは普段女の子率低すぎだよなぁ……」


ヒビキ 「なんだ、元気ねぇなぁ……ナナシぃ、また財布の中身全部スッたのか?」

イェリオ 「……ご利用は……計画的に……」

ナナシ 「だからな、大将には一刻も早く『ラッキーの天女様』と一緒になって頂いて、そのおこぼれで俺が……って、違ぅって! 俺は今傷ついたブロークンハートをユキちゃんに慰めて貰いに来たんだっつぅの! ジャリンコ共には今の俺の中に吹き荒ぶオトナの悲しみなどわかるまい……。アニーが何だ! 年の差がが何だ! ウチにはもっと気立てのいい『ユキ』ちゃんという……ぁいてっ!」


ルイス「五月蝿いぞ、ナナシ。医務室で騒ぐな」

ナナシ 「……ぁー痛ぇ、久しぶりなのに挨拶もなしかい、ルイスセンセー。医者がさっそく危害加えちゃいかんだろう」

ルイス 「ショック療法というやつだ。それにこれ以上悪化する可能性はない」

ナナシ 「おいおい、そりゃないぜ~」

ヒビキ 「なぁなぁ先生~、ユキちゃんまだか!?」

ルイス 「……ああ、お陰で一山超えた。今の処置を終えたら上がっていいと言った所だ。もう少しそこで待っているといい」

ナナシ 「はぁーい!」


ナナシ 「行っちまった。ホントいつ見ても淡泊なやっちゃなぁ……」

イェリオ 「……先生、今日混んでるから……忙しいんだと、思う……」

ナナシ 「ん? 何かあったのか?」

ヒビキ 「また『銀闇ギンヤミ』が密偵送ってきたんだってさ。オレも良く知らねぇけど。でもとりあえず大丈夫だったみたいだって、さっきジンさんがってた」

ナナシ 「お前らの保父さんはなぁ……まぁ、スイッチ入るとライオンも刺身にしちまう男だからなぁ……」

ジン 「『賽の目』切りが本望だと言うなら善処しますが? ナナシ殿(笑顔)」

ナナシ 「……ぅぉあ! びっくりしたぁ! ……いたのか、ジン!」


ジン 「お久しぶりです、ナナシ殿。ご無事でなによりでした。……で、私がなにか?」

ナナシ 「ナンでもねぇけど、心臓に悪いから無駄に気配消すのはヤメロ(汗)」

ヒビキ 「ジンさんがライオンも……ムガッ!?」

ナナシ 「(ヒビキの口を塞ぎながら)それよりお前、なんでまた一番無縁そうなココにいるんだ?」

ジン 「あ、酷いですねぇ……人を化け物か何かみたいに……」

ナナシ 「大して違わねぇだろうが。あぁ、そうかお前もか……。つーかお前らほぼ公認なんだからいいかげん早くだなぁ……」

ユキ 「……あら、皆さんお揃いで。楽しそうですね、どうかしたんですか?」

ナナシ 「おぉ、待ってたぜ! 我らがマドンナ!(拝)」


ヒビキ 「終わったのか、ユキちゃん! 待ってたんだぜ! 早く俺に九九くく教えてくれ、早く!」

ユキ 「……九九ですか? ……いいですけど。そんなに急いで、何かあったんですか?」

イェリオ 「……さっき、行商の菓子屋で……ヒビキが三クラウン、多くとられた……」

ヒビキ 「ヒデェんだぜ、あのオヤジ! 後で行ったら『取引はすでに終了しました』とかってさァ!」

ジン 「散々教えたのに結局覚えなかったお前も悪い。証拠にイェリオはあれでちゃんと覚えたんだからな」

イェリオ 「……『歌』みたいに、フレーズで覚えると楽だ。九九ぐらいできないと、この街では困る、ってロン様も……言ってた。」


ナナシ 「見るからにバカっぽいからカモられたんだよな~ヒビキちゃん?」

ヒビキ 「ナナシが横で、面白がってデタラメ言うから覚えられなかったんだろ!?」

ナナシ 「意志が強いヤツはそれでも大丈夫なんだよ。……なぁ、イェリオ?」

イェリオ 「……いいよ、解るところは、僕が……教え、られるから……。」

ジン 「そうか、助かる。ありがとうな、イェリオ(頭を撫でる)」

イェリオ 「……(照)……でも、七の段は、僕も……あんまり……」

ユキ 「じゃぁ、もう一回、七の段をやりましょうか。そしたら復習でまた一の段から」

ヒビキ 「おう!」

イェリオ 「……はい……」


ナナシ 「あ、あー! ちょっと待て。その前にユキちゃん、ちょっといいか?」

ヒビキ 「ナナシぃ、順番はオレ達の方が先だぞ~」

イェリオ 「……横入り……ずるい……」

ナナシ 「……ぅっ(汗) ちょっとだけ、ちょっとだけだから、な、な?(拝)」

ジン 「これから懐が暖かくなる超・太っ腹なナナシおじさんが、後で好きなものを好きなだけご馳走してくれるそうだから、二人とも、もうちょっとだけ、待っててくれないか?」

ナナシ 「ぇ? オイ(汗) ……ジン、お前、何を勝手に……」


ジン 「(小声で)二人ともすっかり忘れてるみたいですけど、先月末二人に借りたお金……まだですよね?」

ナナシ 「……わーったよ。奢ればいいんだろ、奢れば! 俺も男だ、コノ際だから、大船に乗った気で好きなだけ食いやがれコンチクショー!」

ヒビキ 「え、ホント! ラッキー!」

イェリオ 「……ありがとう……(笑顔)」

ユキ 「ええと……それで、……私がどうかしたんですか? ナナシさん」

ナナシ 「あー、ユキちゃん。大将から何か聞いてるか?」

ユキ 「え? 何をですか?」


ナナシ 「これ、大将が二つセットでユキちゃんに届けろってサ。……あー、それで『この二つは本人が持てるようになるまで、誰にも渡さず持っていろ』とか妙な事言ってたっけな」

ユキ 「……これって……まぁ、可愛い! 小さい水晶玉と……櫛ですね」

ナナシ 「んで、その櫛の上の出っ張りを押してみ?」

ユキ 「……あら……これって!」

ナナシ 「あぁ、スライドしてもう一個変な櫛が出るんだ。んでもってそりゃ一体何に使うモンなんだ?」

ユキ 「……まぁ……ロン様ったら……(櫛を胸に抱きしめる)」

ジン 「もしかして、この前の『出張』と関係あるのか? ユキ」

ナナシ 「……なにぃ? ユキちゃんが『出張』? ……珍しいな。ドコ行ってきたんだ?」


ユキ 「はい。先日ロン様と、ラークの外れ『隻翼のばばさま』の所へ」

ジン 「……何で私を見るんですか、ナナシ殿」

ナナシ 「……いや、いい。ムフフが無かったのは解った。んで? 我らが御大将直々に……それもユキちゃんまで連れて、一体何しに行ったんだ?」

ユキ 「はい、七日ほどしかいられませんでしたけど、ばばさまのお家に『ほーむすてい』というのをしてきたんです。」

ナナシ 「はぁ? 『ホームステイ』? ……まさか、大将もか!?」

ユキ 「ロン様は……行く時だけ一緒で、後は別な用があるからと先にお帰りになったんです。……でも、ちょっとの間でしたけれど、色々な話をして下さって、とても楽しかったんですよ!(笑顔)」

ジン 「……だから、何でいちいち私を見るんですか、ナナシ殿」


ナナシ 「お前、遠回しにからかわれてるんだっつー自覚はないわけだな……。まぁ、いいや。んで? そのババ様っつーのはウチにとって何の得になる人なんだ?」

ユキ 「得……かどうかわかりませんけど……風習とか、文化とか、考え方とか、日常の事とか翼族ザナリール独特の美しい所作とか、儀式とか。そういうのを漏らさず勉強して来るように、と仰って。あ、あとばばさまの身の回りのお世話とかも」

ナナシ 「……? ……全然、話が見えねぇ……。そもそも何でそんなトコに? って、まぁウチの御大方のコネクションと思考回路が理解不能なのは今に始まった事じゃねぇんだけども……(ブツブツ)」


ジン 「気の回らん男親が二人では、年頃になって聞けない事もあるだろうと……ユキがロン様から特命を受けたんですよ」

ナナシ 「……ハァ?」

ユキ 「そうなんです。だから、私、頑張ります! ロン様はお優しいし、今までも私なんかに色々して下さって……とても、とても感謝しているんです。でも、何だか……私の勝手な思い込みなんですけど……これで、やっと認めて貰えたような気がして……私、凄く嬉しくて……(涙目)」

ジン 「……ユキ……」


ユキ 「ドレン様から聞きました。名前は『ラァラ』ちゃんって言うんだそうです。……とっても素敵な名前だと思いません? だからロン様が仰ったように、『何処に出しても恥ずかしくない、翼のレディとなるように』私、精一杯お手伝いしようと思って!」

ヒビキ 「だからさナナシ、俺、やっと念願の『アニキ』になれるんだぜ!」

イェリオ 「……レディは……アニキ……って、呼ばないと、思う……」

ナナシ 「……えーと、待て待て。何でそこでまた翼なんだ? 何で子供でレディで……櫛なんだ?」


ヒビキ 「あれ、ナナシ知らねぇのかよ?」

イェリオ 「……今、帰ってきた……んだから……知らないと、思う……」

ナナシ 「ぁあ?」

ヒビキ 「ボスと狼と、ジンさんと星竜の、天下分け目の大決戦だったんだぜ! 狼が大暴れして、竜が炎を吐いて、それをボスとジンさんがズバババーって!」

ナナシ 「……な、星竜……?」

ジン 「……あー……微妙な解説ありがとう、ヒビキ。ええと、ナナシ殿。実はですね……」




《 中 略 》


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