柘植の櫛

wave1


 友人の協力による短編、リプレイ形式(会話のみ)の構成となっております。

 本編完結後の時間軸、《黒鷹》側から今回の一件を回想する流れで、約一万字ほど。



【人物紹介】

・ロン……吸血ヴァンパイアの部族の魔族ジェマにして、ゼルス裏組織 《黒鷹》の頭領。別名「常夜の魔王」。態度はデカいが意外とマメ。

・ナナシ……「飲む打つ買う」が大好きな、人間フェルヴァーのダメおやじ。本業は、凄腕の運び屋『渡り鳥』の元締め。

・ヒビキ……いのししの部族の獣人族ナーウェア。特にジンに懐いている元気な男の子。将来は強くてカッコイイ「ニンジャ」になりたいが、まだ本物を見た事はない。

・イェリオ……人見知りで、おとなしい性格の鱗族シェルクの男の子。昔は一切喋らなかったが、ヒビキにつられて少しづつ喋るようになってきた。ヒビキといる時は主にツッコミ担当。

・ユキ……主に子供たちのお世話をしているジェパーグ出身の女性。ジンと明らかに両想いなのに二人揃って自覚がないため、周りから面白がられている。

・ジン……人間フェルヴァーの剣士で、ジェパーグ流剣術「居合」の使い手。普段はおっとりしているが、怒らせると誰より怖いと噂のメガネ。

・ルイス…《黒鷹》お抱えの医者で、人間フェルヴァー。腕は確かだが、人を「病人」「非病人」でしか区別していないため、ロンにも容赦なく何でも言える胆力を持つ貴重な人材。



***



ナナシ 「(踵を鳴らして)【渡り鳥】ナナシ。ただいま戻りました!」

ロン 「報告を」

ナナシ 「キャラバンは無事国境を通過、ジフォードへの入国を確認しました」

ロン 「ご苦労。被害は?」

ナナシ 「二名重症、五名軽症ですが、命に別状なし。物品は辛うじて無傷で済んだ模様」

ロン 「相手は?」

ナナシ「そこそこの腕のが五人×二チームと伏兵が三人。ご命令通り魔術師を先に潰しておいたのが効きましたね。長引いていたら形勢がひっくり返ってたかもしれません。おかげで一人も逃がさず済みましたが、捕虜にするほど余裕はありませんでした」


ロン 「ダミーはどうだった?」

ナナシ 「微妙……ですかねぇ、さすがに素直には喰いついてはくれない……という印象ですか」

ロン 「そうだろうな。……解った、詳細は本隊が戻ってから合わせて聞くとしよう」

ナナシ 「イェス、サー(敬礼)」

ロン 「……で、『おつかい』の方はどうなった? ナナシ。」

ナナシ 「それはもう、お陰様で。おおいに手こずりましたよ、ってむしろ本題より時間を食ったくらいでさ。でまぁ、これはぜひ、『おだちん』を弾んで頂かないと……」


ロン 「ゼルスの人間としては、まず現物を見てからでないと何とも言えんな。……ほぅ、それか。……む、思っていたより小さいんだな。逆に丁度いいかもしれん……あぁ、いい。そのままお前が持っていろ」

ナナシ 「……? 直接手にとって見なくてもいいので?」

ロン 「ああ」

ナナシ 「大体、情報がなさ過ぎなんでさ。転売、転売の繰り返しで、それもあのクーファルの質屋ときたらゴウツクだわ、頑固だわで、初めはさっぱり手がかりも集まらずですね……」

ロン 「それでもこうして持ってこれたんだから、総じてお前を選んだ俺の目は正しかったという事だろう? まぁ、ゼルスで竜と鷹が揉めた元凶みたいなものだからな、質屋も巻き込まれたくなければ口も堅くなるだろうさ。」


ナナシ 「……はぁ? ……一体、俺が留守の間に何があったんで?」

ロン 「大したことじゃない。気になるなら……そうだな、では『コレ』も一緒にユキの所に持って行って、その辺の誰かに聞いて来い。では、持って行くまでが『おつかい』としようか(何かを投げる)」

ナナシ 「まぁ……ここまで来たら、最後までやらせて頂きますがね。……っと、こっちは一体何です?」

ロン 「ああ、袋から開けていいぞ。……見たとおり、ただの柘植つげの櫛だ。」


ナナシ 「ご冗談を。見るからに最高級の柘植だってのと、この手触りといい……その辺の量産品じゃねぇってのはバカでもわかりまさ。それに……ちょっと弄ってもいいですかい?」

ロン 「ククッ、好きにしろ」

ナナシ 「ただの『櫛』にしては……少々重さがおかしいですぜ、大将。……っと、こうか?(小さな突起を押すと、もう一つ櫛がスライドして出てくる)……これはこれは、こっちは形が……てぇかずいぶんと目の荒い櫛ですなぁ」

ロン 「見覚えはないか?」

ナナシ 「生憎。人より毛が太い……てなわきゃねぇし。一体こりゃ何に使うんです?」


ロン 「お前、相変わらず人間フェルヴァーの女ばかり選んで遊んでいるんだな(苦笑)」

ナナシ 「何です、唐突に。……まぁ別に選んでるわけじゃないですが、気がつくとそうなってるってだけでして。それに大将と比べられる程、この小市民は大した戦歴は持ち合わせておりませんとも。……んで、それとコレとは一体何の関係が?」

ロン 「さっき少しだけ惜しかったんだがな。正解はユキに聞いてみろ、今はわかるはずだ」

ナナシ 「そりゃないぜ、大将~〜~!?(恨みがましく見上げる)」


ロン 「あぁ、それから。その上下の突起を同時に押すといい事があるぞ」

ナナシ 「……? ……ぅ、わっつ!? ……なんだこりゃ!?」

ロン 「見たとおりだ、最大限軽くなるよう細工はしてあるが、正真正銘の刀を仕込ませた。急所を狙えば人も殺せるぞ。」

ナナシ 「まったく、なんて物作らせてんですか……ってーか今度はどんな女に目を付けたんで? ……女にこんな物贈ったら気に食わなくなった途端、後ろから刺されちまいますぜ、大将。」

ロン 「(苦笑)……できるものならな。受けて立つさ、『死にたがり』よりよほどマシだ」


ナナシ 「まーったく……結局、これもユキに聞けってことですかい?」

ロン 「楽しみは、後のほうが面白いだろう?」

ナナシ 「俺もまぁそんなに若くないんで、『もたれる』前にさっさと消化しちまいたいんですけどね」

ロン 「謙遜するな。あぁ、そうだ。ちなみに今夜『蝙蝠亭』に行ってもアニー嬢はいないぞ。休暇を使って三屋の若旦那とトリナ湖までボート遊びに行くそうだからな。どうせ金を使うなら、メインストリート脇の『ティンクルスター』で、久々にバカラでもして来い。中堅のバーテン二人がウチに引き抜かれて補充がまだだ。その人手不足を補うため、メインのディーラーが風邪を押して出てきている。フロアマネージャーにさえ気を付ければ、今夜はイカサマし放題だぞ」


ナナシ 「……さすが、大将……。全部お見通しってわけですかい……(滝汗)」

ロン 「なに、お前のオフがわかりやすすぎなんだ。まぁ、本気にするかどうかは知らんが、ユキにそれを届けたら出納に寄れ。追加の『おだちん』分含め、多めに出すように話は通してある。無論、現金でな」

ナナシ 「……さすが、大将。話がわかるぅ!」

ロン 「どう使おうと、誰に借りようとも勝手だが、月末ガキどもに金をタカるのだけは、みっともないからやめろよ」

ナナシ 「……以上!【渡り鳥】報告を終了します! 失礼いたしましたぁっ!(脱兎)」

ロン 「………………(半眼)」

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