柘植の櫛
wave1
友人の協力による短編、リプレイ形式(会話のみ)の構成となっております。
本編完結後の時間軸、《黒鷹》側から今回の一件を回想する流れで、約一万字ほど。
【人物紹介】
・ロン……
・ナナシ……「飲む打つ買う」が大好きな、
・ヒビキ……
・イェリオ……人見知りで、おとなしい性格の
・ユキ……主に子供たちのお世話をしているジェパーグ出身の女性。ジンと明らかに両想いなのに二人揃って自覚がないため、周りから面白がられている。
・ジン……
・ルイス…《黒鷹》お抱えの医者で、
***
ナナシ 「(踵を鳴らして)【渡り鳥】ナナシ。ただいま戻りました!」
ロン 「報告を」
ナナシ 「キャラバンは無事国境を通過、ジフォードへの入国を確認しました」
ロン 「ご苦労。被害は?」
ナナシ 「二名重症、五名軽症ですが、命に別状なし。物品は辛うじて無傷で済んだ模様」
ロン 「相手は?」
ナナシ「そこそこの腕のが五人×二チームと伏兵が三人。ご命令通り魔術師を先に潰しておいたのが効きましたね。長引いていたら形勢がひっくり返ってたかもしれません。おかげで一人も逃がさず済みましたが、捕虜にするほど余裕はありませんでした」
ロン 「ダミーはどうだった?」
ナナシ 「微妙……ですかねぇ、さすがに素直には喰いついてはくれない……という印象ですか」
ロン 「そうだろうな。……解った、詳細は本隊が戻ってから合わせて聞くとしよう」
ナナシ 「イェス、サー(敬礼)」
ロン 「……で、『おつかい』の方はどうなった? ナナシ。」
ナナシ 「それはもう、お陰様で。おおいに手こずりましたよ、ってむしろ本題より時間を食ったくらいでさ。でまぁ、これはぜひ、『おだちん』を弾んで頂かないと……」
ロン 「ゼルスの人間としては、まず現物を見てからでないと何とも言えんな。……ほぅ、それか。……む、思っていたより小さいんだな。逆に丁度いいかもしれん……あぁ、いい。そのままお前が持っていろ」
ナナシ 「……? 直接手にとって見なくてもいいので?」
ロン 「ああ」
ナナシ 「大体、情報がなさ過ぎなんでさ。転売、転売の繰り返しで、それもあのクーファルの質屋ときたらゴウツクだわ、頑固だわで、初めはさっぱり手がかりも集まらずですね……」
ロン 「それでもこうして持ってこれたんだから、総じてお前を選んだ俺の目は正しかったという事だろう? まぁ、ゼルスで竜と鷹が揉めた元凶みたいなものだからな、質屋も巻き込まれたくなければ口も堅くなるだろうさ。」
ナナシ 「……はぁ? ……一体、俺が留守の間に何があったんで?」
ロン 「大したことじゃない。気になるなら……そうだな、では『コレ』も一緒にユキの所に持って行って、その辺の誰かに聞いて来い。では、持って行くまでが『おつかい』としようか(何かを投げる)」
ナナシ 「まぁ……ここまで来たら、最後までやらせて頂きますがね。……っと、こっちは一体何です?」
ロン 「ああ、袋から開けていいぞ。……見たとおり、ただの
ナナシ 「ご冗談を。見るからに最高級の柘植だってのと、この手触りといい……その辺の量産品じゃねぇってのはバカでもわかりまさ。それに……ちょっと弄ってもいいですかい?」
ロン 「ククッ、好きにしろ」
ナナシ 「ただの『櫛』にしては……少々重さがおかしいですぜ、大将。……っと、こうか?(小さな突起を押すと、もう一つ櫛がスライドして出てくる)……これはこれは、こっちは形が……てぇかずいぶんと目の荒い櫛ですなぁ」
ロン 「見覚えはないか?」
ナナシ 「生憎。人より毛が太い……てなわきゃねぇし。一体こりゃ何に使うんです?」
ロン 「お前、相変わらず
ナナシ 「何です、唐突に。……まぁ別に選んでるわけじゃないですが、気がつくとそうなってるってだけでして。それに大将と比べられる程、この小市民は大した戦歴は持ち合わせておりませんとも。……んで、それとコレとは一体何の関係が?」
ロン 「さっき少しだけ惜しかったんだがな。正解はユキに聞いてみろ、今はわかるはずだ」
ナナシ 「そりゃないぜ、大将~〜~!?(恨みがましく見上げる)」
ロン 「あぁ、それから。その上下の突起を同時に押すといい事があるぞ」
ナナシ 「……? ……ぅ、わっつ!? ……なんだこりゃ!?」
ロン 「見たとおりだ、最大限軽くなるよう細工はしてあるが、正真正銘の刀を仕込ませた。急所を狙えば人も殺せるぞ。」
ナナシ 「まったく、なんて物作らせてんですか……ってーか今度はどんな女に目を付けたんで? ……女にこんな物贈ったら気に食わなくなった途端、後ろから刺されちまいますぜ、大将。」
ロン 「(苦笑)……できるものならな。受けて立つさ、『死にたがり』よりよほどマシだ」
ナナシ 「まーったく……結局、これもユキに聞けってことですかい?」
ロン 「楽しみは、後のほうが面白いだろう?」
ナナシ 「俺もまぁそんなに若くないんで、『もたれる』前にさっさと消化しちまいたいんですけどね」
ロン 「謙遜するな。あぁ、そうだ。ちなみに今夜『蝙蝠亭』に行ってもアニー嬢はいないぞ。休暇を使って三屋の若旦那とトリナ湖までボート遊びに行くそうだからな。どうせ金を使うなら、メインストリート脇の『ティンクルスター』で、久々にバカラでもして来い。中堅のバーテン二人がウチに引き抜かれて補充がまだだ。その人手不足を補うため、メインのディーラーが風邪を押して出てきている。フロアマネージャーにさえ気を付ければ、今夜はイカサマし放題だぞ」
ナナシ 「……さすが、大将……。全部お見通しってわけですかい……(滝汗)」
ロン 「なに、お前のオフがわかりやすすぎなんだ。まぁ、本気にするかどうかは知らんが、ユキにそれを届けたら出納に寄れ。追加の『おだちん』分含め、多めに出すように話は通してある。無論、現金でな」
ナナシ 「……さすが、大将。話がわかるぅ!」
ロン 「どう使おうと、誰に借りようとも勝手だが、月末ガキどもに金をタカるのだけは、みっともないからやめろよ」
ナナシ 「……以上!【渡り鳥】報告を終了します! 失礼いたしましたぁっ!(脱兎)」
ロン 「………………(半眼)」
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