〈interlude〉ACT 1

【ACT・1】

※リプレイ形式(会話のみ)です。


・グラッド……《闇竜》所属の暗殺者アサシン獣人族ナーウェア狼の部族ウェアウルフ

・ジェイス……現 《闇竜》の纏め役。獣人族ナーウェア黒豹の部族ウェアパンサー。(男性です)



??? 「おや、戻って来ていたんですか? グラッド」

グラッド 「……! ジェイス、居たのか」

ジェイス 「ええ、偶々ですがね。どうしましたか? こんな時間に」

グラッド 「たまたま、だと。……嘘をつけ。まぁいいさ、なんでもない。気にするな」

ジェイス 「いいんですか? 知りたい事はまだ見つけられてないんでしょう?(笑)」

グラッド 「…………別に、忘れ物を取りに来ただけだ」

ジェイス 「そうですか。私はてっきり、宝玉の効果に興味を持ったのかと思ったんですが」

グラッド 「…………」


ジェイス 「転売でもされていましたか? 彼は纏まった金額を必要としていたようだし、市場に流れてしまえば、形状を知らずに探すのは困難ですからね」

グラッド 「ジェイス、おまえ、何か事情を知っているのか?」

ジェイス 「今更な事を聞かないでくださいよ、グラッド。盗まれた宝玉の形状を説明しようと言った私に、彼の居場所なら一日で見つけられるから時間の無駄だと言ったのは、あなたでしょう」

グラッド 「ああ、確かにそうだ。魔族ジェマと言えど行った事のない場所へは跳べんし、魔法力だって限界がある。……が、少し事情が変わった」


ジェイス 「グラッド。何を隠してるんです?」

グラッド 「おまえこそ、何を隠しているんだ。ジェイス」

ジェイス 「私は何も隠していませんよ。聞かれなかったから答えなかっただけの事。状況確認が不十分なまま飛び出して行ったのは、あなたでしょう。だから、あなたは考えナシだと言うんです(笑)」

グラッド 「今回ばかりはそう言われても仕方ない。だがジェイス、申し訳ないが、俺は初めからあいつを殺す気は無かったんだ」


ジェイス 「まぁ、そんな所だと思いましたがね。どうせ、捕まえた後の事を何も考えずに、追い掛けたんでしょう?」

グラッド 「俺は、事実を確かめて、それに基づいて考えたかっただけだ」

ジェイス 「彼はあなたにとっては弟みたいな者ですからね、気持ちは解りますよ。ですが、自分の立場と私情をごっちゃにして貰っては困ります」

グラッド 「……なら、なぜ俺を行かせたんだ」

ジェイス「他の者に殺させても良かったんですか?」

グラッド 「……っ」

ジェイス 「あなたを遣わすと決めたのは、私です。それに伴うリスクくらい、覚悟してますよ? ……感謝しなさいとは言いませんが、そのくらい汲んで欲しいですね」


グラッド 「……。ジェイス、あの宝玉は何だったんだ?」

ジェイス 「『隼の舞』という名の、三つ一組の暗殺具ですよ。あなたの持っている『追跡の地図』はその一つで、形状と色の全く同じ風硝球があと二つあるんです。【エスケープ】の『風魔の翼』と【クリティカル・ショット】の『死の導き』がね。風属の高位魔法に匹敵する魔法道具ですから、巧くさばけば娼館の一つや二つ、買えるかもしれませんよ」

グラッド 「……!? ジェイスおまえ、知って……!!」


ジェイス 「繰り返しますが、隠していた訳ではありませんからね、グラッド。あなたは日頃から、何事も鵜呑みにし過ぎるんです。……まぁ、知っていたからと言って何かが変わったとも思えませんが。今の《炎纏いし闇の竜フレイアルバジリスク》に、《黒鷹くろたか》の怒りをなせるだけの力が残っているとは思えませんから」

グラッド 「どういうことだ」


ジェイス 「《闇の竜》の名で、《黒鷹》を出し抜いて欲しいとね。無論断りましたが。先代グレビス様の生きていた時分なら、威嚇か挑発の程度で済んだでしょうが、《黒鷹》で申し出た金額を上回る身請け金も、獲物を掻っ攫われた事に対する怒りを向けられるのも、今の《闇竜》には負担が過ぎます。たかが女一人のために、そんな危ない橋は渡れませんよ」

グラッド 「どうして俺に言わなかった! ……いや、俺が聞かなかったのか?」

ジェイス 「言っていれば何かが変わりましたか? それに、あなたが留守中の事です。彼だってもう子供じゃないんですから、自分の言った事がどれほどリスクを伴うか、理解できない訳ではないでしょう」


グラッド 「……っ、それで、あいつは裏切りを選んだって事なのか?」

ジェイス 「それくらい自分で考えなさい。彼だって、悩んだ末の行動でしょうし、その決断を罵る気はありませんよ、私だって。無論、情けを掛ける気もないですがね」

グラッド 「ジェイス、これだけ聞かせてくれ。俺の任務は変わらず、なのか?」

ジェイス 「彼を殺して宝玉を取り戻して来なさい。――変わらず、ですね。私はあなたを選び命令を下した、……それに対し従うか、彼と共に裏切るか、覚悟の上であなたが決めなさい」

グラッド 「――解った」


ジェイス 「ああ、それと。彼に関しては、あなた以外の追っ手は掛けません。ただでも人材流出著しいのに、手間掛けさせないでくださいね」

グラッド 「……ジェイス」

ジェイス 「無論、あなたが裏切れば、私があなたの元へ赴きますよ。それがどういう事かは解りますよね」

グラッド 「ジェイス、また考えナシと言われるかもしれないが、……おまえが奴の盗みを阻止しなかったのはなぜだ?」

ジェイス 「偶々、前日に質の悪い酒を飲まされて、頭痛が酷かったんですよ(笑)」

グラッド 「嘘をつけっ、浴びるほど呑んでも全く酔わない癖に」

ジェイス 「安い火酒を飲んだ事ありますか? 匂いで死ねますよ。私でそうだから、あなたは尚更でしょうね」

グラッド 「誤魔化すな。俺はおまえほど情報精査が得意でないから、はぐらかされると感謝していいのか解らなくなる」


ジェイス 「感謝なんてしないでください、それこそ気味が悪い。別にね、命懸けで《黒鷹》の眼から逃げると決めたなら、その決意に水を差すこともないと思っただけです。宝玉が市場に流れたのなら、その先で取り戻せばいいだけですし。まさかあの宝玉でロン・クリシュナを暗殺しようなんて、馬鹿なことを考えてるはずもないでしょうしね」

グラッド 「……阿呆。そんなこと話されたら、本気で感謝していいのか恨んでいいのか解らんだろうが……!」


ジェイス 「どちらも要りませんよ、まったく。……そうですね、どうせなら恨んでください。私が彼を切り捨てたのは事実ですし、あなたに伝えずあなたが手を貸す機会も与えなかったんですから。私なりに譲歩はしたし、選択の余地は与えたつもりです。長い付き合いですから、あなただって私の性質はよく知っているでしょう」

グラッド 「いいのか、ジェイス。そんなことを言うと、俺はもう二度とここには帰って来ないかもしれんぞ?」

ジェイス 「あなたがそれで楽になるのなら、好きにしなさい。あなたに恩を売れるだけの事をしてやった覚えはないし、私だって狼の性質くらい熟知してますからね」


グラッド 「……解った。恐らく俺はここには二度と戻らん。だからといっておまえを裏切ろうとも思わない」

ジェイス 「私に情けなら不要ですよ、グラッド。半端な忠節心も馴れ合いの友情も迷惑なだけです。私にとっても、相手にとってもね」

グラッド 「誰のことを言っている?」

ジェイス 「そうですね、噂の《星竜》とか? まぁ、あなたが自己満足の義理立てをするとしても、私は容赦しませんが。あなたが裏切れば刺客を向けますし、あなたが大切にする関係を崩すため働きかけるでしょうね。……解っているでしょう?(笑)」


グラッド 「本当に、そんなことまでどうやって調べるんだおまえ」

ジェイス 「私は小心者ですからね。足下を確認してからでないと動きたくないんです」

グラッド 「ああ、そうだったな(苦笑)」

ジェイス 「……さて。少し話し過ぎたようですね。私はもう寝ますよ。さ、行ってらっしゃいグラッド」

グラッド 「…………」


ジェイス 「なんて顔してるんですか。そうですね、それじゃこうしましょう。あなたが自分の使命を果たし、宝玉を三つ一揃いで持ち帰らない限り、《闇竜》への帰還は許しません。それでいいですね」

グラッド 「………解った」

ジェイス 「では、良い幸運を」

グラッド 「……ああ、――またな」


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