第3話 夢の続き
家を出るとしばらくは狭い路地に似たような家が何件か並ぶ。
何人か年の近い子ども達も住んでいて、その子たちとこの狭い路地でボール遊びをしてよく親たちから怒られたものだ。
路地を抜けると川が流れていて川沿いには昔良く通っていた駄菓子屋や小さな郵便局がある。
少し歩くと気のいいオヤジがいる酒屋や飴をくれる優しいおばさんがいる総菜屋など住民の生活に欠かせない商店街がある。
活気があるとは言えないが暖かい商店街だった。
商店街を抜ければ一時間にニ本か三本くらい電車が来る小さな駅がある。
子どもの時はほとんど町を出たことがなかったのであまりその電車には乗ったことがないが通る電車を眺めていたのを覚えている。
川を山がある上流の方に登っていくと老舗の温泉旅館があってそこまで多くは無いがそれなりには宿泊客がいるらしい。
温泉は宿泊客以外にも有料で開放していて何度か入ったことがある。
ちなみにいくつか温泉はあるがこの旅館で一番大きくて綺麗な露天風呂は混浴だ。
まぁ、混浴に入っているのは年寄りばかりで若い子は皆無と言っていいが。
この町の観光名所と呼べるのはこの旅館と近くの山とその山の麓にある古い神社くらいで他には何もない。
町おこしにために商店街や地元住民で色々な催しをしていたがそこまでの効果はなかったらしい。
この町は嫌いではなかったが当時のオレは所謂都会に憧れていて学力的に手頃な大学選び合格した後、高校卒業と共に町を飛び出し上京した。
まぁ、結果は波に上手く乗れず憧れだった輝かしい東京生活は送ることができず、無事に都会の海に一人漂うことになったわけだが。
・・・今はそんなこと忘れてしまおう。
その後もフラフラと歩き回りながら久しぶりに見た町は何故だか寂しく感じた。
長いこと東京で過ごしていたということもあるのだろう。
高いビルもマンションも一つもない。
空は東京よりも圧倒的に広く綺麗だった。
こんなにもゆったりと落ち着いた世界が広がっているのに自分の心は荒波のようにざわつく。
涙が出そうになるのを必死に堪えながら歩く。
なぜ自分は悲しんでいるんだろう。
こういう時はいつも決まって行く場所がある。
川を上流方面に向かうと旅館のある辺りに石橋がある。
小さな河川敷から降りる階段があり橋の下に行ける。
いつも嫌なことがあるとその陰に座って時間を潰すのだ。
あの昨夜の夢で見た場所である。
いつも通り橋の下に降りると今日は珍しく先客がいた。
川のすぐ近くにしゃがみ膝を抱えて水中を眺めていた。
少し近寄るとオレに気付いたのか顔をあげこちらを見る。
「あ!やっと来たね。もう来ないかと思った。」
それは白いワンピースとリボン付きの白い帽子の少女。
夢で見た少女だった。
「君は夢の・・・どういうことだ・・・。」
昨夜の夢以降、この子とは会ったことは無かったはずだ。
やはりこれはあの夢の続きなのだろうか。
少女はオレが呟いた言葉に首をちょこんと傾けながら立ち上がり近づいてくる。
「う~ん、夢?ごめんね、何言ってるのかはわからないけど君の事待ってたんだよ?」
「待ってた?・・・なんで?」
オレの疑問に彼女は頬をぷくっと膨らませてさらに詰め寄ってくる。
身長が殆ど変わらないので顔の真ん前にまで膨らんだ風船は近づいてくる。
近い、近いよ・・・。
「え~昨日約束したでしょ?明日山の方で大きいお魚見せてくれるって!」
約束・・・?あの夢の続きでそんな約束をしていたのか?
もう一度夢のことを思い浮かべてみると何故か知らないはずのその続きであろう時の光景が浮かんできた。
Nostalgic~湯けむりに咲く白い花~ @naito8810
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