シーカー養成学校編
13.シーカー養成学校
遂にこの日がやってきた。シーカー試験の結果発表日である。結果発表は郵送で通知されるものであり、わざわざ再びノアの移民船に行く必要は無い。今朝、届いたばかりの大きく分厚い封筒を机に置いて、ジンは緊張して向かい合っていた。
「いよいよ結果発表か……」
「去年を思い出すなぁ。クインは受かったけど」
カノンは娘であるクインの受験を思い出していた。ジンは受かったかどうかの確証は持てなかったが、ある都市伝説を思い出して心を落ち着ける。
「これはネクノミコの言い伝えなんだがな、就職試験の採用通知は大きな厚い封筒で不採用は小さくて薄い封筒なんだ」
「どういうことだ?」
小さな頃からシーカーとしての生き方しか知らないクインはいまいちピンと来なかった。現在十四歳でその一年前、十三歳という若さというより幼さでシーカーになったクインには分からない世界もまだ多い。特にシーカー以外の生き方というのは。
「あ、そっか。会社に入る時ってたくさん書類書かないといけないもんな」
カノンはジンの言わんとすることが何となくわかった。そう、不採用なら『ご活躍をお祈りします』と書いた紙を入れるだけで済むが、実際に会社へ入るとなれば給料の振り込み先など、書くべきものが多数存在する。加えて就業規則など読んでおくべき書類も発生するので自然と封筒は大きく、厚くなるのだ。そこからネクノミコではジンの言う様な都市伝説が出回っているのだ。
「そそ、というわけで期待して開けるぞー!」
ジンは一応、受かっている可能性が高いと信じて封筒を開ける。最近買った気合の入ったレターセットに付いてきたペーパーナイフで封を切り、中身を取り出す。このレターセットはネイチャールで出会ったお怜との文通のため買ったものだ。
合否が書かれているのは、一枚目の紙だ。
「どうだ?」
「これは……」
ジンは一応字が読めるが、あまり難しいことは読むのに時間が掛かる。紙に目を落とすと、『不合格』の字が見えた。結果は不合格である。
「何ぃー!」
「あぁ、やっぱそうだよな」
ジンはこの結果に納得がいかなかったが、クインは予想通りだった。ジンの様に特筆して戦闘能力が高いわけでも、学があるわけでもない人間が若いうちからシーカーになるなんて難しいだろう。クインも受かったのは小さい頃から銃が傍にあって亜人種の襲撃も身近だったため射撃の腕が優れていたという事情がある。
ワナワナと震えるジンに、カノンが声を掛ける。
「残念だったな。まぁ、来年頑張りな」
「来年もやらせる気? 店の手伝いは?」
クインは店の手伝いをやらせるためにジンを引っ張ってきたのでカノンの方針には反対だった。ジンがシーカーになって英雄になる活動に集中したのなら連れてきた意味がない。
「いいじゃねーか。男の子ってのは夢を追ってナンボだよ?」
「こいつの場合夢というより動機が不純なんだよ」
ジンの夢はシーカーの英雄だが、それは贅沢な暮らしをするため。夢と呼ぶにはあまりに俗っぽい。だからクインはジンのシーカー資格取得に反対している節がある。
「じゃあこの書類は一体……!」
ジンは残された書類に目を移す。不合格だというのならこの大量の書類はなんだというのか。取り出してみると、そこには『シーカー養成学校の案内』と書かれていた。
「シーカー養成学校?」
「へー、最近こういうのあるんだ。ちょうどいいじゃん。あんた学校出てないし行っときなよ」
ジンよりもカノンが先に食いついた。彼女の反応からして、カノンの世代には無かった精度と思われる。
ジンは確かに学校を出ていない。加えてギアズなど多くの惑星で義務教育は十四歳までで、もう十四歳になっているジンはこれを受けることが出来ない。これはいい機会かもしれない。
「別に字が読めない計算できない訳じゃないからいいだろ。シーカー養成学校なんて普通の学校じゃないぞ?」
クインはあくまで反対の立ち位置を取る。しかしカノンには彼女なりの考えがあったのだ。
「あたしだっていつまでこの店やってられるか分かんないし、ジンにはもっと別の生き方を探してほしくてね。まさか店を継がせるって訳にもいかないし」
「こいつの稼ぎで高等学校なんか行けるのか?」
クインは金銭面の心配をした。ジンは店の手伝いでお給料を貰っているが学校に行けるほどは溜まっていない。まさかカノンが立て替えるとでも言うのか。しかしそれは心配いらなかった。
「見てみ、これ。最終選考まで残ったジンは入学試験、入学金、学費が免除だ」
説明の紙を見ると、またと無い好条件。まさか天がジンに味方しているというのか。行けという神託が下ったこの状況に、クインは頭を抱える。
「なーんかジンと出会ってから状況がこいつに味方している様な気がしてきた……。主人公補正ってのが現実にあったらこんな感じなんだろうな……」
これには彼女もジンをネクノミコから引っ張り出した責任を果たすため、腹を括ることにした。
「よしわかった。まずは説明会っての行ってみようぜ。こーなったらあたしも先輩シーカーとしてとことん付き合ってやるよ」
「よし、決まりだな。説明会は……ライブ配信?」
ジンは説明会の日程を見て驚愕した。インターネットの公式ページによる生配信。なんとも未来的な匂いがする方法だが、惑星四つ分のあらゆる場所に説明会をしようと思えばこの方法しか無いのだろうか。
「マジか、今こうなってんのか」
「クイン、シーカーなのに知らなかったのか?」
クインもこれには驚いていた。彼女は試験から直接シーカーになったので、養成学校のことは聞いていても詳しくは知らない。カノンもクインも知らないライブ配信説明会、果たしてどんなことが待ち受けているのか。
@
惑星オーシアは水の惑星である。惑星の約九十パーセントが海で構成されており、人々は残された陸地に固執することなく海での生活を選んだ。この海に浮かぶ巨大な軍艦もその生活の工夫である。かつては陸地に寄り添って生きて来たが、半魚人の襲来など危険が多かった。そこでノアが提供したのがこの軍艦の技術である。基礎の技術は移民船ノアと同じだ。
藍蘭が住む軍艦、龍驤は今日も安定して海に浮かんでいる。軍艦の中でも空母に類する形状をした龍驤、その飛行甲板は航空機の離着陸のためというより、人々が日光や海風を浴びるためのスペースとなっている。
内部は空母らしからぬ広さで、コンビニや理髪店、アパレルショップもある充実ぶりである。基礎はノアの移民船の技術が使われているだけあり、船の中とは思えないほど揺れも少なく、快適な空間だった。
惑星オーシアにはこの様な軍艦が多数存在しており、陸地に頼ることの無い生活を促進していた。先住民、ウォーマンは水中でも生活が出来るが、高い文化レベルを実現するには水から出る必要はどうしてもあった。
そいう意味では、地球の移民船によって最も大きく生活様式が変化した惑星とも言える。
「やったー! 合格してた!」
自分の部屋で合格通知を手にした藍蘭は全身で喜びを表現していた。彼女の部屋は年頃の女の子らしく、カーテンやベッドカバーに可愛げが溢れ、ぬいぐるみもいくつか置かれていた。部屋着も猫耳の付いたパーカーと可愛らしい。愛用の刀三本は壁に立てかけられていた。
生活軍艦では居住スペースが限られているので、個室は存在しない。ベッドも二段で部屋も同居人との共用。こうした窮屈さからの脱出も藍蘭がシーカーになった理由だ。
ガントータスとの戦闘で負った傷もすっかり癒え、いつでも戦闘に出られる状態だ。
「よかったじゃん」
同居人の少女も藍蘭の合格を祝っていた。別に仲が悪いわけではないが、年頃の少女にとってプライバシーは重要。寂しくもあるが一時的に自分の努力無しで個室を得られるのは悪い話ではない。
「ここも寂しくなるなぁ。短い間だったけど楽しかったよ」
「そんなすぐいなくならないよ」
女の子らしく姦しく冗談を言い合う二人。若い彼女は未来への道を開き、明日へ向かおうとしていた。
@
惑星ネクノミコのシーカー支部は暗闇のエリアに存在する。宇宙港も兼ねており、アークウイングの支配、その最前線であるこの惑星へシーカーを送り込むため、ひっきりなしに宇宙船が行き来する。アークウイングの支配が強いということは、シャドウの運用も活発に行われているということである。
その支部にはこの星に駐留するシーカーの為に、居住区域がある。サクヤはそんなところに住んでいる。個室は無駄なものがなく、すっきりと纏まっていた。なんとも個性を感じられない部屋になっていた。
「やはり、合格か」
合格の通知を見て、サクヤは喜ぶこともなくさも当然のことの様に受け止めていた。自分の父親は優秀なシーカーだったのだ。その息子である自分が試験などで躓くはずもないと信じていたのだ。
「シーカーになって人々を救う、それが俺の使命だ」
シーカーになるために書くべき書類を取り出し、机に向かって記述を始める。
@
ノアの移民船、ハクロウの新大阪。かつて地球にあった都市の名前を引き継ぐこの町に、その男はいた。新大阪の名物である新通天閣もランナーが描かれた巨大な看板も無い、そんな華やかな街からかなり離れた場所、そこにはシーカーの事務員が暮らす宿舎があった。
「うぃいいいっす! どうもジミーでーす! 今日はこのシーカー試験の合格通知を開けていきたいと思います!」
リビングで一人テンション高くカメラを回すのは、ジミーであった。ジンの不合格通知よりも小さく薄い封筒を手に、なにやらまた動画の撮影をしている様だ。ジンの手によって粉砕された眼鏡とサングラスはまだ新しいものを購入できていない。
「いつもは家で動画撮るなって言われてますが今日はNG出てないのでこのまま進めまーす」
三十五歳無職のジミーに、親も困り果てていた。シーカー事務員というコネを活かして試験を受けさせたものの、結果は醜態を晒すだけになってしまった。試験の時撮影した動画も当然の様に投稿したが、シーカーによって削除されてしまっている。そもそも試験を撮影しようというのが非常識的な行いであるという事実にジミーは気づいていない。
「では、早速この合格通知を開けていきたいと思います」
封筒を手でビリビリに破いて、ジミーは中身を見る。封筒の中には紙が一枚入っているだけであった。それは、大方の人間が予想する様に不合格の知らせであった。ジンには届いていた養成学校の資料も入っていない辺りお察しのレベルで不合格となった。
「あれ? 不合格? おかしいで?」
あれだけ役立たずの足手まといを演じたのにも関わらず、本人は当然合格したものと思っていた。この薄っぺらい封筒を合格通知だと思っていたところにそれは現れている。
「何がいけなかったんですかねー……。チームの運ですかねー」
しかも自分が悪いとは一切考えず、チームのせいにするという有様。今日はノリノリで合格を動画にする予定が、計算外の不合格ですっかり萎れてしまった。
しかし、この動画はお蔵入りすることなく投稿された。ここから、ジミーのある意味伝説は始まることになる。
@
ライブ配信説明会の日、ヘッケラータウンのシーカーズカフェには珍しいもの見たさでいつものメンバーが集まっていた。説明会を受けるのはジンなのに、店にスクリーンを出して画面をプロジェクターで映し、ざわざわと見守る。
「っていうと落ちはしたが最後まで残ったのか」
「何がダメだったんだろうね」
鍛冶屋の爺さんとガンショップのおやっさんが話をしていた。ジンがシーカーになるまでには何かがもう一押し足りなかったのである。
「始まるぞ」
それはともかく、説明会である。クインとジンは画面を注視する。画面には見覚えのある人物が映っていた。ジン達の試験を監督したシーカー、ガイア・アーノルドである。
『今回説明をさせていただく、ガイア・アーノルドです』
「あ、お久ぶりです」
「向こうには聞こえてないからなー」
つい挨拶をしてしまうジン。だが当然声は向こうのガイアに届かない。代わりに、クインがキーボードを使いタイピングでコメントを打ち込む。ジンはキーボード慣れしておらず、その都度疑問に思ったことや聞きたいことを打ち込めるコメント機能を十分に活かせない。そこでクインが代行してコメントを打ち込むことになったのだ。
『うむ、あの時マジックミラーを見抜いた受験者か。思えばシャドウの出現は災難だったな』
コメントはジンの言葉として反映され、向こうのガイアに届く。
『試験ではあと少し、磨けば立派なシーカーになれる逸材を取りこぼしてしまう。そこで教育部が考えたのがこのシーカー養成学校だ』
ガイアは学校の概要を説明する。確かに、試験だけでは惜しい人材は取りこぼすだけで一種の青田狩りは行えない。そこで学校へ誘導し、教育や訓練を施してシーカー足りえる人材にまで育成するのが学校の目的だ。
『現役のシーカーによる多彩な授業、充実のトレーニングスペースを備えた全寮制の学校、それがシーカー養成学校だ』
画面には講堂やトレーニング施設などの画像が現れる。試験で見た様な場所もあり、あの施設は学校のものだったことがジンにも理解できた。
『この学校に通えば、時間は掛かるが確実にシーカーへの道が開かれる。そう思ってくれればいい。ただし、入学試験に合格出来ればな。シーカー試験受験者はその結果に応じて、試験の免除、学費や入学金の控除が受けられる』
既に学費の控除まで決まっているジンには明るい話であった。学校に入れば、シーカーになれるというのならもうなったも当然という段階である。
『カリキュラムは生徒個人に合わせて決定される。入学のタイミングが同じでも、努力次第ではそれだけ早くシーカーになることも可能だ』
「おお、頑張り甲斐があるな!」
ジンはガイアの言葉に目を輝かせていた。クインには意外な光景であった。てっきり、ジンは努力や頑張ることが苦手な人物だとばかり思っていたからだ。しかし思い返せば学校に行っていないというハンデを背負いながらも試験勉強に店の手伝いをしながら打ち込んだり、クインが外に出てしまう都合あまり見てはいないが案外努力家なのだろう。
(結構頑張り屋なんだな)
そうでなければ泥棒の技術を磨いて盗みで食っていくことなどできないだろう。
『更に、実習ではドゥーグがお前達の活躍を見守り、危険生物やシャドウの討伐にはシーカーと同じだけ報酬が出るぞ』
「おおー!」
お金の話をされ、ジンはますますやる気を見せる。今まで彼は亜人種の襲撃に立ち向かってもお金が出なかったが、これからはシーカーと同じ様にお金が貰えるのだ。
『ここまで明るい話をしたが、現実の話もしよう』
しかし、ガイアは突如真剣なトーンになって話を変える。現実の話、とは一体どういうことなのか。
「現実の話?」
『何故教育部がシーカー養成学校など作って人材の確保を行っているか、分かるか?』
それは養成学校の設立に関わる話であった。そこまでしてシーカーを育てなければならないからこそ、養成学校が生まれたのだ。
『原因は慢性的なシーカーの人手不足にある。シーカーには危険な任務も多い。故に、殉職するシーカーも少なくは無い』
問題は人手不足にあった。人がいないということはそれだけ既存のシーカーに負担が掛かり、結果的に殉職、人手がさらに減って負担増という悪循環に陥ってしまう。従来の選抜方式では人手を増やしたくても簡単にはいかない。また人が欲しいからといってシーカーの水準を下げるわけにはいかない。シーカーの緩い入出国検査はその実力と信頼によって成り立っている。
『シーカーの任務というのは、本来それだけ命懸けということだ。試験を受けた人間なら理解できただろう』
ガイアの言う通り、シーカーの任務は命懸けだ。任務の戦闘で命を落とすならともかく、宇宙を移動している最中に不慮の事故で亡くなる場合さえある。まさにジンがクインと出会ったのがその状況であった。あそこでジンに出会えていなければ、クインも今ここにいるかどうか分からない。
『シーカーの任務は各惑星を探査し、シャドウの痕跡を発見したら即座にこれを殲滅すること。また、様々な惑星そのものの調査と危険生物の討伐も任務に含まれる。決して平坦な道ではないぞ』
これは言わば、先輩シーカーからの忠告であった。例え学校を出てシーカーになったとしても、待ち受けるのは険しい試練の連続。それでも、シーカーになるつもりがあるのか、覚悟を問うているのだ。
『それでも構わない者だけが、この学校の門を叩け。説明は以上だ』
ガイアはその忠告で説明会を締めた。これにはジンも何も言えなかった。試験での危機を考えれば、本番のシーカーがどれほど窮地に身を置いているかは分かった。クインは先輩シーカーとして、ジンに告げる。
「これは言っておくぞ。引き返すなら今の内だ。ゴージャスな暮らしがしたいってのもわからなく無いが、それは命あってのものだ。わざわざ命を危険に晒すくらいなら今の生活でも十分じゃないか?」
「そうか……」
確かに今の暮らしは、かつてのジンにとっては十分ゴージャスなのかもしれない。だが、それだけではない理由が今の彼にはあった。
「なぁ、カノンさん」
「何かな?」
ジンは以前、彼女に言われたことを思い出していた。
「前に俺にこう言ったな。『なんでゴージャスな暮らしをしたいかは、なってみないと分からない』って」
「そんなことも言ったね」
カノンは少し前の会話を思い出す。ジンの夢について聞いた時の率直な感想だった。今は彼の事も少しは分かってきて、その夢を目指す理由にも心当たりがある。だが、それは彼自身が見つけるべきものだろうと黙っていた。
「だったら、俺は確かめてみたい。ゴージャスな暮らしを手に入れて、俺がなんでそうしたいって思ったのかを。だから、なるよ。シーカーの英雄に」
ジンは覚悟を決めていた。ゴージャスな暮らしというネクノミコで泥棒をしていた時から追い求めていた夢へ向かって、その夢を目指す理由を求めて。シーカーとは探索者の意味。何も探索するのは惑星だけではない。自分の道も探索するものなのだ。
数週間後、三度ジンはノアの移民船、ハクロウを訪れた。一度目はクインの帰還についていくため、二度目はシーカー試験を受けるため。そして三度目の今回はシーカー養成学校に入るため。荷物もリュックだけではなく、トランクを用意するほどになっていた。
養成学校は全寮制の学校。そのため、卒業までの期間は寮で暮らすことになる。今回の大荷物はそんな理由があった。ジンは試験の時と同じビルに入っていく。養成学校はシーカー本部の中にある。
「まぁ、クインの話によるとノアのハクロウ自体が本部みてーなもんなんだとか……」
ジンは地下に広がっていた広大な施設を思い出した。ビルの見た目以上に、シーカー本部は大きい建物だ。ビルは一般人がアクセスするための目印でしかない。
「よし、行くぞ」
ジンは緊張しながら、本部の中へ入っていく。とはいえ、試験の時と違って案内は出ていない。養成学校には特定の入学日などは無く、今日もただの平日だ。ジンは受付にいるお姉さんに用件を話して取り次いでもらうことにした。
「すみません、シーカー養成学校の入学の件で来たんですけど……」
「入学希望の方ですね。しばらくお待ちください」
しばらく待っていると、若い男性がやってきた。特定の制服など着ていないが、養成学校のスタッフだろうか。
「あなたが今回入学のジン・クレッシェンドさんですね。ではこちらへどうぞ」
その男性はジンをエレベーターまで案内する。地下へ潜っていくエレベーターの中でジンは軽く説明を受けた。事前に書類などのやり取りは交わしていたので、基本スムーズに事が運ぶ。
「まずは長旅お疲れ様です。このシーカー養成学校では、まずカリキュラムの作成を行います。詳しい話は明日のカリキュラム作成で行います。まずは疲れを癒すために、あなたが使う部屋まで案内します」
エレベーターが止まり、扉が開く。そこにはホテルの様にいくつも扉が並んだ廊下があった。ここが寮なのだ。数人の生徒が、廊下でおしゃべりをしている姿が散見される。
「このフロアが男子寮です。基本、異性の寮への出入りは禁止されていますのであしからず」
説明を受けながら歩いていくジン。そして、案内の男性がある扉の前で脚を止める。ここがジンの部屋なのだろうか。
「部屋は二人一組で使います。カリキュラムに差があるのでルームメイトが在学中に何度か入れ替わる場合もあるでしょう。ここの人は……その、変わった人ですが悪い人ではないですよ」
「なんか含みのある言い方だなー……」
「では、私はこの辺で……」
案内の男性が言葉を濁す。考えても仕方ないと、ジンは扉をノックして部屋に入る。
「失礼しまーす」
「ふっ……お前が俺の新しい同胞か……」
部屋の外観をチェックする前に、ジンは同室の人間に面喰らうこととなる。銀髪に所々十字架が散りばめられた黒い服装、右目の眼帯に右腕の包帯と個性的な服装をしていた。
「我が真名はキョウヤ……宵闇に生きる孤高の亡霊だ」
個性的なのは服装だけではない。喋り方もいろいろおかしかった。案内の男性が言葉を濁すのも分かるというものだ。これから先、ジンを待ち受ける試練とはいかなるものか、この出会いはその序章に過ぎなかった。
最低野郎の探索者 級長 @kyuutyou00
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