第13話 渦中の声


私はそっと立ち上がり、シスターの閉めたドアの持ち手を回してみたが、ガチャガチャと音がするだけで、やはり鍵がかけられていた。



「───鍵がかけられてる。どういうことやろう」



みんなの元に戻ると、自然とみんなは話し合いをするかのように、円を描いて体育座りをしていた。



「俺達が変に動き回ると危ないからじゃないのか?」


「そうね、そうに違いないわ。とりあえず、みんなで静かにして待っていましょう」



ゼパールにそう同意したさネルは、さすが年長者というべきか、まだ不安がる小さな子たちを慰め、皆で静かに待つ姿勢をとらせる。




本当にそうなのだろうか。


ひとまず周囲に合わせて私も大人しく膝を抱えたものの、この状況にもやっとした不穏な空気を感じていた。

考えてみれば、おかしな点はいくつも点在していた様な気もする。


孤児院の割に上質な住まい環境。


神父の時折見せる仄暗い瞳。


そして、外出させてもらえない私。


というか何よりも、

出資している貴族とは、こうも頻繁に視察に来るものだろうか。


ゼパールが来るのは割と楽しみだったので今まで特に何も思わなかったが、週一の視察って、あんまりに多過ぎないか。



「……ベラ、リベラ!!」


「うわっ」



考え込んでしまっていた私は、突然ゼパールに話かけられて驚いてしまった。



「……大丈夫か?不安なのか」



そう言って覗き込んでくるゼパールの新緑色の瞳をみて、心配かけてしまったなと慌てて否定する。



「大丈夫、大丈夫、ちょっと考え込んじゃっただけ」


「……そうか………」



そのまま2人で黙り込む。



(き、気まずい……。何、この空気…。)



なんだかさっきから何も言わずに、ゼパールがチラチラと此方を伺いながら何か言いたげに口を開けたり閉じたりを繰り返している。



「何なん、さっきから……」



痺れを切らした私がそう問いかけると彼は首筋まで顔を真っ赤に染め、手を伸ばして私の手をぎゅっと握った。



「あ、あのな……俺は、まだリベラより弱いけど、

いざとなったら、その……」


「?」


「俺がお前を守っ」



────ピシッ



「「え」」



突如響いた場にそぐわない音に、なんだか大事っぽい話の途中だったにも関わらず、2人して思わず声を漏らす。



────ピシッ


────ピシピシピシッ



今度は確かに聞こえた。


周囲のみんなにも聞こえた様で、みんな音の発信源──天井を見上げた。



「…………亀裂!?!?」



天井には既に複数の亀裂が入っていた。


そうこうしている内に、亀裂は天井全体に広がっていき、次いでパラパラと壊れた天井の破片が降ってきた。



「ええ!?天井が!?」


「まだここ築10年だよな!?」


「ふぇぇぇぇえ、シスタぁぁぁぁ」


「うわぁあああん」



壊れた天井にリンクするように皆の不安も爆発し、その場は混乱した。



泣きわめく小さな子たち。


右往左往する子達。


何故か今年で築何年になるのかを混乱のままに真剣に考え出す子達。



最早何がなんだか分からない状況の中、



「みんな、落ち着け!!!!ひとまず部屋の隅に寄って、皆で固まれ!!」



ゼパールの落ち着いた掛け声に年長者たちが我に返り、続々と隅に固まり出す。



「ゼパール様、ありがとう。ちょっと私も混乱してたわ」



咄嗟に指示が出せなかった、と悔しさを滲ませながら礼を告げるサネルの肩を気にするな、とゼパールは軽く叩き、彼女も皆の元に促す。



「大丈夫だ、何かあっても俺が守るから。」



私が崩落してくる天井を見上げていると、私が不安に思っていると思ったのか、ゼパールはその小さな腕で私を抱き締めて背中を撫でながら、そう囁いた。



そうは言われても、本当にこのままではヤバい。


ゼパールが私を守るも何も、このままでは皆生き埋めだ。



ヤバい、どうしよう、とぐるぐる考えている内に、本格的に天井が部屋の中心部から崩落してきた。



(せめて、物理防御のシールドが張れたら……!!)



何故もっと真剣に魔法の練習をしてこなかったのか、と唇を噛み締めるが、張れないものは張れない。




とうとう私達の上も崩壊が始まった。




───このまま死ぬのかな。




そう考えてしまったら、死ぬ、ということに囚われ、短い今世に想いを馳せる。



転生してまだ6年しか経ってないのに、早い終わりだった。

あの世には、死んでたら前世の母親と、それから、今世の────。





「まだ死ねないっ…………!!」





今世の、母さんの顔を思い浮かべたら、そんな思いが強く湧き上がってくる。



「リベラっ……!?」



私はゼパールの腕の中から無理矢理這い出でると、子供たちの中心に片膝立ちに座り込み、床に両手のひらをつく。


(シールド、シールドっ…)


ひとまずいつも通りに薄い膜で子供たち皆を包み込む。


(そして、変質…………)


物理防御、と考えながら膜に流れる魔力の質を変えようとするが、全然上手くいかない。


(なんでっ……!?)



あせれば焦るほど、頭がごちゃごちゃになっていく。




とうとう天井が崩壊し、私達の上に降ってきた。



(…………誰かっ)



(助けてっ…………!!!!)



そう強く願った瞬間、崩落の衝撃に身構えて強く瞑った瞼の向こうで金色の光が弾けた。



『──やっと呼んでくれた~~!!ハイハーイ、おまかせあれ!!!!』



私の脳内で陽気な声がした途端、シュパッという軽い摩擦音の後、



───ガラガラガラッ



天井が崩れ落ちた。



「………………え?」



落ちてきた天井の破片は私達を覆う金色のシールドに弾かれ、


────私達はみんな無傷だった。




******


超お久しぶりです。ようやくひと段落しそうです。人生がね!







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転生ヒロインは方言がなおらない! 玲於奈 @leona-8970

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