第18話 決着

ソルディの一振によって吹き出した僕の赤い血が、地に咲いている白い花へ勢いよく飛び散り、真紅の花へと変色させた。


何が起こったのかわからないほどにそれはほんの一瞬だった。


切りつけられた傷口からはドクドクと血が溢れ出ている。


「い、一体……なにを……?」


僕は片膝を地面につけ、開いた傷口を手で押さえ痛みに必死に耐えながらソルディに尋ねた。


「スキル《瞬足》を使ったんだよ。身体強化魔法の一種だ」


ソルディはまるで全てが当然かのような冷静さでそう答えながら、剣に付着している血をさっと振り払った。


「勝負ありだな」


ソルディは痛がる僕を見てそう言うと、右腰に携えている鞘に剣を収めた。


そして僕に歩み寄り、一言、捨て台詞のようにこう言った。


「こんなもんか」


その言葉を聞いた瞬間、僕の心臓がドクンと激しく脈打った。


それはまるで竜の雄叫びかの如き衝撃だった。


だんだん鼓動が速くなり、消えかけていた燃える闘志が再び僕を鼓舞する。


気が付けば痛みは不思議と消えており、残っていたのは……そう、絶対に負けないという気持ちだった。


僕は地面に転がった剣を手に取り、それを杖代わりにしてプルプル震える足をなんとか持ち上げ、立ち上がった。


「おいおい、嘘だろ……?」


それを見たソルディは二、三歩後ずさりしてそうポツリと呟いた。


「まだ……勝負は終わってない……!」


僕は剣を構え直し、きっとソルディを睨んだ。


ソルディの顔が少し歪み、たじろぎしている。


完全に油断している。


「うおおぉぉおおおお!!!!」


ソルディが慌てて剣を引き抜くその前に僕は雄叫びを上げながらすかさず間合いを詰め、剣振り上げた。


「やべ!」


ソルディは慌てて防御の構えをするが、もう遅い。


全身全霊を篭め青白く発光した僕の剣がソルディの右肩をざっくり切りつけた。


「がああぁぁああぁあっ!」


ソルディの右肩から勢いよく鮮血が吹き出す。


最後に全力を出し尽くした僕はソルディが倒れるのを薄目で見届け、ドサッと倒れた。







次に気がついた時には宿屋の二階の部屋のベッドの上だった。


横腹の傷は嘘のように無くなっており、痛みも全くない。


僕は起き上がると何があったのかをゆっくり思い出す。


確かソルディと決闘していて─


[ギィ]


思い出した瞬間、部屋の扉がゆっくり開いた。


部屋に入ってきたのは、この前のゴブリン戦の時に指揮をしてくれたフラメさんだった。


「お、ベラ君起きたのか。体調はどうだ?」


そう言うと両手に持っていたお粥の入った茶碗と水入りコップを側の机の上に置いた。


「体調は良いです。もしかして、フラメさんが僕を運んできてくれたんですか?」


「いや、君を運んだのは俺じゃなくてソルディ君だよ」


僕の頭の中は疑問でいっぱいだった。ソルディがあの場で倒れたのを確かに見たからだ。


しかしふと目に入った、フラメさんの腰に掛うんかっている存在がその疑問に答えてくれた。


ポーションだ。


「そうなんですね…」


「いやぁそれにしても、つい先日親玉ゴブリンを倒した二人が決闘するなんて……。一体何があったんだ?」


「あぁ、えっと……」


僕は言葉に詰まり、少し俯いた。


僕が言いたくないことを察したフラメさんが慌ててフォローに入る。


「あ、いや別に言いたくなければいいんだ。少し気になっただけだよ」


「あ、ありがとうございます。助かります」


僕はそう答え、ベッドからのそっと起き上がった。


「もう起き上がって大丈夫なのか?」


「はい、もうすっかり良くなりました」


僕は元気な証拠に右腕をぶんぶん振り回して見せた。


「ははは、元気なようだね。良かった。」


部屋の中の雰囲気が少し明るくなったように感じた。


「ちなみに君はこれからどうするつもりなんだい? やっぱりこれからもここで冒険者をするのかい?」


「……実は暫くしたらここを出ようと思うんです」


「それはどうして?」


僕の過去について、そして僕の野望についてを打ち明けようとしたが、重い話になりそうだったのでやめておく。


「それは……言えないです。でも必ずここへ戻ってきます。その時はまたよろしくお願いします」


僕はぺこっと頭を下げ、誠意と感謝の意を示す。


「そうか、期待の新生だと思ったんだが、寂しくなるなぁ。でもまぁまた戻ってくるなら安心だな」


「そう言って頂けて嬉しいです。また機会があれば一緒に冒険したいですね」


「そうだな……」


フラメさんはそう答えて自分の開いていた手を強く握り締め、言った。


「じゃあ俺はもう行くよ。そこに置いてあるお粥食べといてね」


「分かりました。色々とありがとうございました」


「いいってことよ。じゃあな」


フラメさんはそう言い残し、部屋を去った。


「ゾルディに会いに行くか……」


僕は窓越しから見える美しい青空を眺め、そう呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Bera's revenge ~両親を殺された最弱の村人が冒険者になって魔王に復讐する物語~ 遊津レイ @asozu_rei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ