第17話 戦士
「急に呼び出してなんて言うかと思ったら、決闘だぁ?」
「うん。僕と決闘して欲しい」
僕は昨日の宴で決心したことを告げた。しかしソルディは見るからに乗り気では無さそうだ。
「なんでお前と決闘しなきゃなんねぇんだ」
「あの時の約束が果たせてなかったから」
そう、僕がソルディにぎゃふんと言わせるために交わした、どちらが先に青銅帯に上がれるかという約束だ。
その結果は引き分けで終わってしまった。
昨日達成した、ゴブリンの住処を襲撃するというクエストをソルディと一緒に受けてしまったためだ。
引き分けではソルディにぎゃふんとは言わせられないため、決闘しようと決心したーーという事では全く無く、約束を交わすときに考えなしで言ってしまった"負けたやつは勝った方の言うことを何でも一つだけ聞く"という、ソルディに約束を交わさせるための理由付けが目的で決闘を申し込んだ。
「約束か……。そういえば引き分けだったな」
「うん。だから決闘で決めようと思って」
僕がそう言うと、二、三秒考えてからソルディは言った。
「……分かった。決闘しようじゃねぇか」
ソルディは僕から少し離れたところまでゆっくり歩いて進み、こちらに振り向き剣を抜いてこう言った。
「さぁ、始めようか」
ソルディの目つきは鋭く、まるで魔物と対峙したかのような、真剣な面持ちだった。
「う、うん」
僕はそのオーラに少し気圧されつつも、負けじと剣を抜き、構えた。
互いに構え、睨み合うその静寂は時間にしてほんの少しだった。
しかし僕にはその一瞬が永遠に感じられた。
どのようにして間合いを詰めようかと考えたその瞬間、ソルディが一気に間合いをつめてきた。
「!?」
あまりに唐突だったが、僕は咄嗟に剣で上段からの一振の攻撃から身を守った。
[ガキィィィィン]
平穏な野原一帯に、剣がぶつかり合う金属音が鳴り響く。
ソルディとの力勝負になった。
「ぐっ」
僕は本気で必死に剣で押し返そうと力を入れるが、ソルディがじわじわと、剣で僕の体を真っ二つにせんと上から力でねじ伏せてくる。
「つよ……」
僕の思わず口から出た言葉だった。
「そりゃ鍛えてるからな」
口振り的にソルディにはまだ余裕がありそうだった。
それを感じとった僕は、より一層下から上へ押し返す力を強くした。
「おいおい、決闘を申し出ておいてこの程度の力か?」
その小さな体には到底釣り合わない馬鹿力がソルディから放たれる。
「ぐ……おぉぉお!」
どんどん力で下に押される。
僕は耐えきれず体のバランスを崩し後ろへ二、三歩後退して尻もちをついた。
空ぶったソルディの剣がまっすぐ縦に空を斬り、先が地面に突き刺さった。
するとメキメキと、刺さった地点から数メートル離れているであろう僕の足元まで亀裂が走った。
「なんて力……」
さすがは戦士だからなのか、単純な力の差が僕と開いている。
いや、開きすぎている。力勝負なら確実に負けると思った僕は、戦略で勝ちに行くことにした。
とは言ってもなかなか戦略が思い浮かばない。
そうこうしている内に、ソルディは地面に突き刺さっている剣を引き抜き、言った。
「もう一度いくぞ」
その瞬間、ソルディの姿がふっと消え、見えなくなった。
そして気付いた時には僕の右脇腹から血が吹き出していた。
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