第16話 共闘

薄暗い洞窟の中で、剣と剣がぶつかる金属音があちこちから鳴り響く。


そしてまた、苦痛に悶える悲鳴も、鳴り響く。


「ぐあぁあああ!!」


「大丈夫か!?」


どうやらあちらの方で仲間の冒険者がゴブリンに切りつけられたみたいだ。


しかし今僕は目の前のゴブリンに集中しなければいけない。


「キェァアア!」


ゴブリンがその右手に持った錆び付いた剣を振りかぶった。


[ガキン]


それを僕は剣で防ぎ、ゴブリンとの力勝負になった。


「くっ……」


ジリジリと押され始める。ここで力負けしたら確実に死ぬ。


僕は片方の手を剣先に押し当て、両手で力一杯押し返した。


「こんのぉおおぉ!」


体制を崩したゴブリンの腹に、僕はすかさず剣を突き刺す。


「グ……グガァ……」


刺されたゴブリンはそのまま後ろへ倒れ込み、そして絶命した。


「まずは一匹……」


なんとか倒せたが、奥に座っている親玉ゴブリンは依然として僕らの戦いを眺め、嘲笑している。


奴にとって仲間のゴブリンはただの手駒に過ぎないのだろう。


僕はそれがたまらなく憎らしく思い、激しい怒りが込みあがってきた。


「絶対にあの親玉ゴブリンを倒す……!」


僕は真っ赤な血で濡れた剣を携え、決死の覚悟で前に進んだ。


「ま、待てベラ君!」


突撃する僕を見たテリルさんが呼び止めようとしたが、もう遅い。


こいつは絶対に僕が倒す。


親玉ゴブリンの元へたどり着いた僕は、剣を振り上げ、思いっきり振り下ろした。


「うぉおおおおお!!!」


[ガキン]


「くそっ」


僕の決死の一撃は、親玉ゴブリンが隠し持っていた、僕と同じくらいの背丈がある大剣によって防がれた。


そしてその流れで軽々と僕を薙ぎ払い、吹き飛ばした。


体が宙に浮いた。完全に体制を崩してしまった。防御が……間に合わない!


次の一撃が、来る!


「グォアアァ!!」


親玉ゴブリンはけたたましい咆哮を上げ、その大剣を僕に振り下ろした。


あぁ、死んだ。


確実に。


僕は切られる直前に死を悟り、その瞳を閉じた。







[ガキン]


「!?」


僕は斬られずにそのまま床に激突した。


しかも剣と剣がぶつかる音が聞こえた。


まさか僕、助かった!?


目を開けるとそこには僕を守る一人の男が映っていた。


その背中は五年前のあの時……そう、両親を殺された時に僕を守ってくれた、アドベットさんに、どことなく似ていた。


しかし、その男の声を聞いて僕は驚きを隠せなかった。


「何してんだお前、無闇に突っ込むなよ……!」


「ま、まさか、ソルディ!?」


助けてくれたのはゾルディだった。


まさかと思ったが、間違いない。赤くとんがった髪で、やんちゃそうな目。そしてあまり聞きたくないと思っていたその声。


間違いなくゾルディだった。


「な、なんで僕を!?」


「り、リーダーの命令だ! 誰も欠けるなと言われたろ!」


「そ、そうだけど……」


「細けぇことはいいんだよ! はやく体勢を立て直せ! このでけぇゴブリン、力が強すぎるんだ……よ!!!」


確かにゾルディはジリジリと押されていた。


「わ、わかった!!」


僕は剣を手に取り、立ち上がった。


「いいか!? 俺だけじゃこいつに勝てねぇ! お前だけでもだ! だから連携するぞ!! これから言うことをよく聞いてくれ!!」


「う、うん」


「俺がこのゴブリンの攻撃を防いでる間にお前はやつを攻撃しろ! そしたらやつは必ずお前の攻撃から身を守ろうと、お前の方にターゲットがいく。そしたら俺がやつに攻撃をする! 分かったか!?」


「わ、わかった!!」


僕は親玉ゴブリンの攻撃を防いでる蘇ルディを横目に見て、もう一度突撃した。


やつを真っ二つにする勢いで僕は剣を思いっきり振り上げた。


するとそれに気づき、その大剣を僕のほうに向け、防御の構えになった。


そこですかさずソルディが前進し、僕の剣と親玉ゴブリンの剣が衝突するタイミングとほぼ同時に、ソルディはそのスキルの名を叫んだ。


「亜人斬り!!!!!」


一度聞いたことのあるスキルだった。


あの日僕をゴブリンから助けた時と同じスキル。


そのスキルを叫んだ途端、ソルディの剣が淡い緑色に発光した。


「うぉぉおおおお!!!」


そして力一杯、親玉ゴブリンを斬った。


「グォオアアアァ……!!!」


親玉ゴブリンの腹からは血飛沫が飛び、床に膝をついて項垂れた。


「行け!!! ベラ!!! トドメだ!!!!」


「わ、わかった!!!!」


僕は言われるがまま、項垂れている親玉ゴブリンの後頭部に思いっきり剣を突き刺し、親玉ゴブリンは絶命した。







「倒……せた……」


僕は、倒れてピクリとも動かない親玉ゴブリンを見てポツリと呟くと、一気に愉悦感が湧いて出てきた。


その気持ちを押し殺し周りを見ると、仲間たちが全てのゴブリンを倒したところだった。


「あのゴブリンを……君たちが……」


僕たちを見てそう呟いたのはフラメさんだった。


その顔は驚愕の二文字で埋め尽くされていた。


「まさか……あのゴブリンは難度五十はある魔物だったのに……」


難度が五十もあるなんて知らなかった。でも今回あの親玉ゴブリンを倒せたのは僕の力だけではない。ソルディの力がなければ成し遂げられなかったことだ。


「これはすごい新人が入ってきた……」


フラメさんはそう呟き、剣を鞘に入れ、僕たちに歩み寄った。


「君たち二人は凄いことを成し遂げた! 難度五十の魔物をこんな若い少年が二人で倒したなんてとんでもないのことだ! ぜひ、帰ったら君たちをギルドで祝わせてくれないか?」


そんなに凄いことだったのかと、初めて実感がわいた。


ちょっと照れくさかったが、頷いた。


「君もいいかい?」


フラメさんがソルディに聞くと、ソルディも少し照れくさそうに頷いた。


「よし! じゃあ素材だけ回収して今日はさっさと帰ろう!」


僕たちはゴブリンからいくつかの素材を回収して、街に帰った。







「ねぇ、なんで僕のこと助けてくれたの?」


街へ帰る途中、僕はソルディにそう質問した。


するとソルディは下を向き、少し考えてから僕に言った。


「たまたまだ」


「たまたまかぁ。たまたまでも、ありがとう」


僕が少し照れてそう言うと、ソルディは頭をかき、少しだけ照れくさそうに言った。


「べ、別にたまたまだから礼なんていらねぇよ」




そして街に帰った僕たちは、ギルドにクエスト達成の旨を報告した後、直ぐに宴を始めた。


その宴をしている最中、僕はソルディの顔を見て、あることを決心した。





そして翌日、僕はソルディを街の外へ呼び出して言った。


「ソルディ、僕と決闘してくれ」

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