第2話

 次の日から、京子は日記に書かれてある通りに、友達と一緒にバンドのメンバー集めを始めた。

 音楽の知識を学び、空いてる時間はバンドの練習に当て、彼女はすっかりその道にはまってしまった。初めてのステージでは苦い経験をしたし、友達と衝突することもあった。

 しかし彼女は止まらなかった。やっと、自分が夢中になれるものを見つけたから。

 そしてあの日からちょうど一年後。文化祭。このバンドでの最後のステージ。

 地道に活動を続けていたせいか、最初で最後の文化祭のステージでも、多くの観客たちが京子たちの噂を聞きつけて演奏を見に来てくれていた。

 ボーカルを担う京子の手には、一年前に受け取った日記があった。この一年肌身離さずお守りのように持っていたが、不思議な日記だった。日記にあるその日に、書かれてあることと同じようにすると、事の顛末まで同じことが起こった。春休みにはひょんなことから大きなチャンスが舞い降りたし、夏祭りではちょっとした事件もあった。筆者が身を持って体験したことを、京子も体験してしまうのだった。

 この事実に恐怖せず、またネガティブに捉えないのが京子の良い所だろう。

 彼女は日記の最後のページになる今日――文化祭当日、書かれてある通りに満足してバンドを解散できることを望んで日々生活してきた。

 おかげで充実した一年間になったと彼女は思う。良き仲間に出会えたし、色々な経験を積むことができた。

 この素晴らしいトンデモ体験を、他の誰かにも知ってもらいたい――。

 正真正銘、最後の曲。バンドのメンバーも観客もヒートアップし、ステージは最高潮の盛り上がりを見せる。

 全身の血が熱い。喉の調子は良好で、気持ちの良い汗が止まらなかった。

 これまで生きてきたなかで、最高に気持ちいい瞬間に違いない。

 曲が終盤にさしかかった頃、京子は一年前の観客席からの光景を思い出していた。

 大きく息を吸い込み、最後の歌詞を歌い終えると、彼女は手に持っていた日記を観客に向けて放った。


 もし私たちに憧れてくれる人がいるのなら、どうかこの日記が届きますように。

 その人にとって素晴らしいと思える人生の、分岐点になりますように。

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時をかける日記 トモイチ @tomoichi5513

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