〇〇五
情報屋を後にした君たちは着々と冒険の準備を進める。
君は冒険の中で戦闘を担当することが多いため、特に装備に手をかける。
盾の金具を固定していたネジを取り換えて締め直し、剣の柄と擦り切れかけていたベルト、それにブーツの靴ひもを新調して万が一のことが無いように備える。
ロヴァは情報収集を継続しながらローランダルクまでの旅の手配を抜かりなく進めている。
準備は順調であった。
しかし、出発を明日に控えた晩、馴染みの酒場でロヴァはふとこんなことを君に漏らすのであった。
「なぁ、やめるなら今の内だぜ。相棒とは長いけどよぉ、無理に俺の冒険にまで付き合ってくれなくていいんだぜ……?」
痛飲したロヴァは、泣き出しそうな顔で君を見つめている。
またか、と、君は思うだろう。
土壇場や重大な決断、何か大きなことを前にした時、ロヴァは極端に脆くなる。普段は明るく頭のまわる男だが、心の奥底に不安や後悔を抱えているらしく、事あるごとにそれが表に滲み出してくる。
だが、それでいいと思って君はロヴァと組んできた。
ロヴァが担当する冒険の手配や道具の備え、情報収集や偵察に抜かりはなく、そうしたマメな仕事は君の最も苦手とするところだ。
逆に修羅場や視線を潜ることは君にとって息をするのと同じことなのだ。
持ちつ持たれつ、それが君とロヴァの在り方なのである。
だが、ロヴァの弱気に君も少しウンザリしているかもしれない。
多少の危険に尻込みするような君ではないし、そもそも冒険は始まってすらいないのでる。
「そうだぜ相棒、俺なんか見捨ててくれ、俺なんかヨォ……」
ロヴァは突っ伏して泣き出してしまう。
だが、これも慣れたことであった。
適当に肩を擦ってやっていると、ロヴァはしばらくすすり泣いた後にすやすや寝息を立て始めた。
すると、ロヴァは寝言に何事かを呟いた。
「ごめん、ごめんよ……待っていてくれ、フィリア……」
聞いたことの無い名前だった。女の名だろうか。
そういえば、と、君はふと気が付く。
亡都ローランダルクにおわすというマダラメイア神は、巡礼者の願いを叶えるという。ならば、しるしを得たロヴァは一体何を願うのだろうか。
富や名声ならば今までのような冒険でも手に入るだろう。
真に危険な冒険に出向くほどの願いを、ロヴァは抱いているのだろうか。
いつか聞く機会があるかもしれない。君はその疑問をそっと胸にしまい込んで一人で酒をあおるのであった。
どうせ急ぐ旅でもない。二人して寝坊しようが誰も構いやしないだろう。
さあ、夜が明けて日が高く昇ったならば旅立ちの時だ。
【〇一一】に進みたまえ。
【https://kakuyomu.jp/works/1177354054888453186/episodes/1177354054888478891】
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