第3話 初戦
はぁ、やれやれとんだ迷惑だ。
さっきから涼しい顔をして隣を歩いている遥さんを見ながらつくづくそう思う。
それにしても、さっきから、全く会話が続かない。気まずい。気まずすぎる。
何とかしようと思って足元を見てみる。すると、遥さんが綺麗な色のミサンガを足首につけているのが見えた。青と紫と紺色。3色がとても良く合っていて綺麗だ。
「そのミサンガ、綺麗ですね。」
すると遥さんは少し間を置いて、
「ありがとう。」
と笑顔で言った。
「これね、昔作ってもらったの。ほら、私髪も瞳も紺色だから、青系が似合うって言って。」
「へぇ……」
そんなことを言うんだから、もしかして恋人に作ってもらったんだろうか。いや、それとも家族?
そんなことを考えているうちに、祭りが行われる競技場に着いてしまった。
「ほら、ここだよ。」
遥さんにそう言われ、辺りを見渡すと、見渡す限りの人、人、人。
そろそろ昼休みの時間だろうに、スーツ姿は1人もおらず、全員職業不詳だ。
「今日お仕事の人は1人もいないんですかね?」
「え?どうして?」
「え、どうしてってスーツ姿の人が1人もいませんし……」
と、私が言うと、遥さんは何故か不思議そうな顔をした。
「仕事をする時はみんな私服だよ?その、スーツっていうの、何なの?」
…………
うわー、まさかの文化が違うパターンかぁ……。まぁ仮にもここは異世界な訳だし、有り得なくもない、けど。でもそういえば建物は日本とおなじだったけど、さっきから制服やスーツの人は1人も見てない。
その代わり、街の至る所に防空壕のような穴が沢山あったような……。
「あっ、すみません、やっぱり気にしないでください…」
ふーん、と遥さんは気にしていないような素振りを見せた。
「おっちゃん!この子参加するって!!」
「え!?遥ちゃん、流石にこんな子を連れてくるのは可哀想なんじゃ……」
「だーいじょーぶだって!この子なかなか強いから。」
本人が目の前にいるのに、さっきからこの人は本人抜きで話を進めている。
「あっ、そうそう。名前、聞いてなかったよね?」
「あぁ、そう言えばそうですね。えと、私はかき…じゃなくて荻原零っていいます。」
「なるほど、零ちゃんだね?よし!よろしくね、零ちゃん!」
すごく今更感のある話だったけど。名前のことは本当に忘れていた。本当に。
「えぇーと、祭りはトーナメント制だから、零ちゃんの初戦はこの子だね。」
そういった遥さんの指が指し示しているところに、「河内 颯太」という名前が記してあった。
「零ちゃん、歳はいくつ?」
「16歳です。」
「おお!この子と同い年だよ!」
歳が一緒と言うだけでこの盛り上がりようである。まぁけど、私としても同い年で助かった。年上でも年下でも、変な気を使うことになるから。
「零ちゃん達のところ、第1試合だからあと少しで始まるね。」
「え!?もう始まるんですか!?」
「エントリーに手間取っちゃって……ごめんね?」
と言って、遥さんはペロッと舌を出す。
いやいや、普通エントリーに時間がかかっているなら後に回すだろうに。何故そうしなかったのか疑問で仕方ない。
1人で考え込んでいるうちに、何やかんやで試合の時間が来てしまった。
『これより、第1試合、荻原零 対 河内颯太の試合を開始致します。』
場内アナウンスがそう告げると、会場は完成に包まれた。無駄に広い競技場に、これでもかと人が押し寄せている。
対戦相手の河内颯太は少し不機嫌そうな顔をしている。黒髪でよくアニメにいるいわゆる猫系男子だ、と思う。多分。
『それでは、カウントダウンを開始します。場内の皆様、ご一緒にカウントダウンをしてください。』
すると、10、9、8……とカウントダウンが始まった。これがゼロになったら始まる、という事だろう。
『4、3、2、1……開始!!』
開始の合図と共に、10数メートル離れた所にたっていたはずの男の子が、私の目の前まで、一瞬で距離を詰め、その右手には握った拳の周りに竜巻のようなものが起こっている。
反射的に私が顔の前に手をやると、彼は驚いたような顔をして1歩下がった。なんと、私の手にも炎が渦巻いていたのだ。
いきなり始まった闘いに、会場全体がワァーッという歓声に包まれる。
私はこう見えても現役のバスケ部だったのだ。運動神経と反射神経には多少の自信がある。
するとすぐさま彼がまた反撃を仕掛けてきた。そのスピードが速すぎて、私は反応が遅れ、腹に思いっきり拳がヒットした。頭が一瞬にして真っ白になり、そこからの記憶は全くない。
意識が戻り、起き上がると、ズーンという鈍痛が全身を襲った。そこは病室、では無く歓声に包まれた競技場だった。
私の先に、数メートル吹っ飛んだ河内颯太の姿が見えた。どうなったのか状況を理解しようとしている所で、再び場内アナウンスの声が響いた。
『両者とも、同時に戦闘不能となりました。第1試合は引き分けと致します。』
会場全体が一瞬静まり返った後、よくやった!!子供なのにすげーぞ!!という声があちこちから聞こえた。
とりあえず起こした方がいいかと思って、河内颯太に手を差し伸べる。
しかし、彼は私の手を弾いて自力で起き上がった。そして、
「ふざけんな!!!」
と叫んだ。
その怒りを含んだ声に、再び場内が静まり返る。
「俺は引き分けが1番嫌いなんだ!!そんな中途半端な終わり方、あのクソ親父と一緒じゃねぇか!!!」
観客も、私も、何も言えない。
この子がそんなに大きな声で叫ぶなんて思いもよらなくて、少し、怖いとさえ思った。
けれど。
「それは、違うんじゃないかな。」
と、私の口が勝手に動いていた。
彼の、鋭い眼差しが私を捉えて、息も詰まりそうになる。
「私は、引き分けは中途半端な終わり方だなんて思わないよ。」
「……」
私の口は、止めようとしても止まってくれない。
「引き分けっていうのは、どっちかが勝ったとか、負けたとかは確かにない。それだけ見れば中途半端なのかもしれない。けど、引き分けでも、一生懸命戦った結果でしょう?
だから私は、引き分けってのはどっちも負けて、どっちも勝ってるんだと思う。」
私の言葉が響いたのか響いてないのか、どっちかは分からないけど、彼は再びその場に座り込んだ。
転生先が選択制だったので魔法の現実ってとこに転生してみた。 優華 @yuukausa
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