第29話

 29 一日目、夕食準備




 午後になり、簡単なウォークラリーやらをこなす内に、夕食の準備の時間となった。

 夕食は、バーベキュー。

 炊事場にいるのは、我が友市川、リア充外神とがみ、そして俺。

 女子は何かと時間がかかる生き物のようで、宮坂えりかと赤堀香恵アロマはまだ来ていない。


 昼と同じように米の準備から始めていると、着替えを終えた宮坂と赤堀が現れた。

 美少女二人、特に宮坂の登場に、周囲の男子たちがざわめく。

 それもそのはず。

 制服以外の宮坂を見るのは、ほとんどの連中にとっては始めてなのだ。

 ましてや薄手のサマーニットやら七分丈のスキニーデニムなんて出で立ちだから、身体のラインがくっきりはっきりなのである。


 案の定というか、到着早々絡んできたパーマが立ち上がって、宮坂に手を振ってアピールしている。

 が宮坂はそれを一瞥して、こちらに真っ直ぐ歩いてくる。

 てかパーマたちの班、また隣かよ。


香恵アロマ、宮坂さん、こっち」


 市川が、立ち上って宮坂を出迎える。

 俺は食材を目の前に、どうしようか考えていた。


「遅くなりました」

「おう」


 並べられた食材を見て、宮坂は頷く。


「バーベキュー、ですか」

「そうらしいな」


 まあ、それ以外のものも作ろうと思えば作れる。が、あえてそんなことをする必要はない。

 宮坂は、野菜を手に取る。


「遅刻してしまったお詫びに、夕食は私が」

「やたっ、えりかっちの手料理だよっ」


 チラリと視線が俺に向いた。軽く首肯すると、薄く笑顔で応えてきた。


「え。えりかっち、笑った??」

「ん、ああ、こいつ別に無表情じゃないぞ」

「もう、言わないでください」

「わ、悪かった」


 微妙に頬を膨らませる宮坂に軽い詫びを入れる。ふと赤堀を見てみれば、なぜか俺たちを見つめていた。


「むむむ、なんかあやしい雰囲気……」


 やめろ赤堀、客観的に見たらお前の方が怪しいから。


 ちらりと隣の班、パーマとドリルの方を見ると、やはり調理には参加していない。残った二人は、慣れない手つきで調理を続けていた。

 市川も、それに気づく。


「あいつら、舐めてるなぁ」

「明らかに格下に見てるからな、他の二人を」

「それもあるけどさ、おれが言ってるのは、自然を舐めてるってこと」


 市川は真顔で語る。

 食は、命を繋げる大事な行為であり、アウトドアでは特に重要である、と。

 確かにそうだ。

 極論、風呂に入らなくても死にはしない。が、食事は命に直結する。


「よし、ちょっとついて来て高望たかもちクン」


 火の番を任せるね、と赤堀に告げて立ち上がった市川は、地面の砂利を踏み鳴らしてパーマ&巻き髪ドリルの班へと歩いていく。


「よう、晩メシだけ合同で料理しようぜ」


 市川はパーマたちに妙な提案をしている。


「合同?」

「そ、合同。見た感じ、お前ら全員料理出来ないだろ?」


 パーマとドリルは互いに顔を見合わせて、苦笑した。


「うわちゃー、バレてた?」

「女子力低いのバレた……」


 ん?

 パーマとドリルの印象がすこし違ってみえた。

 市川を見れば、器用にウインクしてくる。


「あいつら、悪いヤツらじゃないんだよ。ただ、口下手なんだよなぁ」


 市川が言う。

 赤堀は快諾した。


「いいよー、えりかっちはどうする?」

「私も、構いませんよ」


 一瞬宮坂と視線が合った。が、宮坂は軽く頷いて赤堀に続く。


「おい、宮坂」

「見ていれば事情は理解できます。要は、あの働かない二人を何とかすればいいのですね」

「まあ、そうだけど」


 ということで、今回限りのメンバーのシャッフルが行われた。


 あちらの班には赤堀と元ボーイスカウトの市川がヘルプで入り、こっちには外神とがみ、パーマ、巻き髪、俺。

 宮坂は、基本はこちらの班。状況を見ながら市川たちにも適宜手を貸す係となった。


「さあ、戦闘開始だよ」


 意味の分からない気合いを入れた市川が、高らかに宣言した。

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陰キャ能力者のアオハルノート 若葉エコ(エコー) @sw20fun

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