第9話 『ヴァムシの息子デイルワッツ様だ!』

 後は最大の問題点である、魔界で生き抜く事だ。

 本当は人間界でこもっていれば安全なのだが、それでは悪魔達を人間界に襲わせる様に仕組めない、もっとも私がそう仕向けるようにしないといけないが……まあ悪魔は単純だからどうにかなるだろう。

 現在の魔界の実力者の誰かと接触して固有魔法を死霊術とすれば戦力増加として私を配下におくだろう、タブン……いや、そうならないとまずい、全てが終わってしまう。

 ただアブソーヘイズを作ったジュラージだけはやめておこう、恐らく頭が回る奴だ。隠れ家の中に隠し通路を造ったり魔剣を製作しと悪魔の中では異質な行動をとっているからな。

 

「そうなると……」


 まずは邪魔な頭の輪を消して……この白い羽……これは切り落とすしかないよな……。


「ぐっ!! あぐっ!!」


 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。


「ぜぇぜぇ……クス、これで、ますます、天界への、復讐心に、火が付いた、わ……」


 止血して後はアルムガムを出るときに拝借したローブを……ん? 文字が縫ってあるな、アナネット? この持ち主の名前か? どうでもいいか、もらったものだし。

 ……あ、しまった。普段から白を基準にしていた服装していたから無意識で白のローブを持ってきてしまった! 魔界でこんなの着ていたらすごい目立つぞ、今から取り替えてって羽切り落としたから飛べないし! 私の馬鹿!! ……仕方ない、ここで転がりまくって……このくらい汚れてれば多少誤魔化せるかな? ええい、後は魔界でその場その場で誤魔化そう。



 魔界に来たのはいいが……なんだこれは、あたり一面めちゃくちゃじゃないか、山までえぐれているし…。


「えーと……どうしてこうなった?」


 この数日の間に魔界で何が起こったというのだ!? わけがわからんぞ!

 誰か説明をしてくれ! って辺りには誰もいない……しょうがない歩くしかないか、そのうち誰かに会うだろう。たぶん……。


 歩けど歩けどあるのは穴ぼこだらけ、いい加減疲れた……ますます羽を切った行為が悔やまれるな。しかしこの跡は何か戦闘があったようにも見えるが……。

 ん? あそこに見えるのは人影か? あ、荷物を持った悪魔がいる! よし、現状の事を聞き出してみるか。



「ちょっとすまない、話を聞きたいのだが」


「ああん? あんた誰だべ? この辺りじゃ見ない顔だけんど……というよりフードで隠れて見えな、でどこの者だべ? そんな汚れた白いローブなんか着て……あやしいべ……」


 やっぱりそうなるよな……どう誤魔化すか。


「えーと、私はエ――」


 ここで本名を名乗るのは避けた方がいいよな、適当な名前、名前……あ、ローブの持ち主の名前があるじゃないか、ちょうどいい。


「……私はアナネットという者で地下に住んでいた死霊術師なのだが、えと……そう、最近地震がすごくてな! 何事かと久々に地上に出て来たんだ」


 これは苦しいだろうか?


「なるほど、だからそんなにドロだらけなんだべな」


 苦し紛れでドロだらけにして良かった!!


「で、地上に出てきたらこんなにもこんなに地面がめちゃくちゃになっていたのだが、何があったんだ?」


「ああ、これな。天界で何かあったらしくでな、名のある上位悪魔達が攻めに行ったらしいんだけどんど、結界に阻まれて入れなかったらしいべ」


 リカルドが作り出した結界の事だな、やっぱ入れなかったのか。


「そんで、天使達も出てこない事もわがってでな、名のある上位悪魔達がこん魔界を自分のもんにしようとあちこちで戦いだしたんだべ。まったぐひっそりと暮らしてたオラには迷惑なことだよ」


 やっぱり戦闘の跡だったのか、相当激しかったようだし上位悪魔達はどうなったんだろう。


「それで、その上位悪魔達はどうなったんだ?」


「上位悪魔達べか? そんなのお互いがお互いを潰しあってもうほとんど生き残ってねぇべ」


 ……マジ? じゃあ私の今までの行動って無意味?


「……………………」


「ん? どうしたんだべ?」


 ……嫌だ! そんな事になってたまるか!!


「その生き残ったのは誰なんだ!? 名前を言え!」


「ちょ!? くっ苦しいべ! そんなに服を、引っ張ると……首が……しま……る……」


「あ、すまない。つい……」


 私としたことがつい熱くなってしまった。


「げほ、げほ、まったぐ……あ~苦しかったべ……えーと、生き残ったのはたしか……ヴァムシだろ、ザイディに……後はジュラージの3人だな」


 ジュラージ!? よりもよってあいつが生き残っていたとは……いや、奴だからこそ生き残ったと考えるべきか。

 となるとますますジュラージは避けなければならないな、そうするとヴァムシかザイディのどちらかになるのか……うーむ、2匹とも力のある実力者ではあるが……。

 ヴァムシは脳筋の鬼族だから騙し易いだろうが力のない者には興味を示さないだろう、今の私を力のない者と見てきそうだ。死霊術を力として考えるかどうか、むしろ興味を持つかどうかもわからん……。

 ザイディの方は他の2匹より遥かに魔力が高い悪魔だ、アブソーヘイズで魔力吸収候補として一番上にいた、だが……見た目がな……虫人族で蜘蛛のような姿をしているだよな……私、蜘蛛は苦手。


「うーん……」


「さでと、おめぇが何を考えとるかわからんがオラはもう行くからな。まだ戦が続いでいるからきぃつけてな」


「……ん? ああ、すまない助かった」


 ここに居ても仕方ないし私も動くか。

 はてさてヴァムシに会いに行くか、ザイディに会いに行くか……これは運命の分かれ道だな。



 結局ヴァムシのいる洞穴にきてしまったが、どう死霊術を力として認めさせるか……――っ!? 城の中から強大な魔力を持った奴が近づいてくる、ヴァムシの奴か!?


「ん? 何だお前は? そこにいると邪魔なんだが」


 ……なんだ鬼族の餓鬼か、驚かせっ――て魔力の正体がこいつだと!?


「おい、聞いておるのか?」


「……………………あ、すまない」


 驚きのあまり固まってしまった。

 この魔力成長すればどれだけ高まるのか、末恐ろしい餓鬼だな。


「怪しいな、お前名は? ここに何をしに来た?」


「え? えー私はエ……アナネット、ヴァムシ……さまに会いに来た者なんだが」


「親父に? それならこの奥にいるぞ。チョハ、せいぜい食われないようにな」


 親父だと? そうするとこいつヴァムシの息子なのか?

 何処かに出かける様だが、確認をしてみるか。


「ちょっと待ってくれ、君はヴァムシ……さまのご子息なのか?」


「あん? 我輩か? そうだ、ヴァムシの息子デイルワッツ様だ! 覚えておくがいい、いつか親父を超えこの魔界を征服する王の名前だ!!」

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