第8話 『ではこの人間界に祝福あれ!』


 ここが人間界【ディネッシュ】か、そういえばはじめて来たな。

 それは今は置いといて、この森の中ならひとまず安全だろう、これからの事を考えなければいかんな。


「アブソーヘイズ、自然回復で私の魔力が前くらいに戻るのにどれくらいかかる?」


 今まで魔力がなくなった事なんぞなかったからな、見当が付かん。


『そうですね、マスターの魔力は相当ありましたから……約1000年といったところでしょうか』


「1000年だと!? 何故そんなにかかる!?」


『それほどマスターが生まれから今まで蓄積してきた魔力が多かったという事ですね』


 生まれてきてからの蓄積か、私は確か1000年ほど前に生まれたから……ちょうどその分をシルバに吹き飛ばされたわけか。しかし、それでは時間がかかりすぎる、魔力のない今の私では天使はおろか魔族にすら太刀打ちできん、人間の魔力を吸収しても途方がない。

 うーむ、自然回復も駄目、他の者からの魔力吸収も駄目、どうすれば…………。


「…………」


 今の自分の力では無理……。


『マスター? どうしました?』


 では、今後の自分なら?


『私を見つめてどうしたのですか?』


 これは賭けだな、それも相当な――。


「……クス、フハハハハハ!!」


 何、不安になっているのだ私! 天界の者達に必ず復讐してやると決めたじゃないか、賭けだろうと何だろうとやってやるさ! 計画開始だ!!


『……マスターが壊れた』


 となると、このアブソーヘイズをひとまず隠さなければならんな……とはいってもこの呪いが解ける前提だが、無理だった時はその時はその時だまた考えればいい。

 さて、隠すとなるとやはり人間界の何処かだよな。人間界? ……そうだ、人間界に来ているあの天使がいるではないか! それを利用してやろう。



 この天使のおかげである少しは魔力が回復できたが……思ったより多くはなかったな。まぁ仕方ないか、こいつは下級天使だからな、それより本来の目当ての物を探さないと。


「……えーと、あったあった。結界石」


 後はアルムガムにこの結界石と……アブソーヘイズを持って行くだけだな。

 せっかく吸収した魔力をここで使うのは勿体無いが、こればかりはしかたない。


「アブソーヘイズ、悪いな――」


『え? マスター何を言って……』


「――消えろ……はああああああああああ!!」


『マッマスター! まさか私を!?』


 アブソーヘイズの【意思】が魂として存在するのならばその魂を消し、固有魔法の魂定着を利用しアブソーヘイズの【私】を作り出せるはず!


『……あ……ああ……そ、そんな……私が……消えて……い……く……』


 今までご苦労だったな、アブソーヘイズ。


「ふぅ……思ったよりこいつの意思はしぶとかったな。これでこの剣の中身は【私】になったはずだがどうだ?」


『うまくいったみたいよ、【私】』


 どうやら賭けの一つ目は私の勝ちだな。


「そのようだな、では魔力による具現化はできるか?」


『少し待て…………よし、何とか具現化は可能のようだ」


 みたいだな、しかしこれは――。


「すごく小さいな……親指くらいの大きさしかない、これでは蝶にしか見えないぞ」


「といわれても残っている魔力だとこれが限界だしな」


 元の大きさになるのには相当な魔力が必要そうだな……。

 それは今後でいいだろう、今確認しておかなければならない事は。


「肝心のアブソーヘイズのマスター権限はどうなっている?」


「ああ、それなら大丈夫だ。アブソーヘイズの中身が私になっても性能等は使えるみたいだ」


「そうか……ふぅ、やっと呪いから開放される」


 これで私は自由だぁああああああああああ!!

 っと、浮かれてる場合ではないな。え~と、この石でいいか。


「ふん!」


 よし、うまい具合に刺さったな。後はこの石にアブソーヘイズが抜けないように剣先を封印っと、これで私の魔力でしか封印を解く事は出来ない。


「これを持ってアルムガムに向かうとするか、天使エリンの最後の芝居をしに、な」


「その芝居、見たかったが私はアブソーヘイズの中で休眠をしなければならんからな。おやすみ、再会を楽しみにしているぞ【私】』


「あ、ああ……おやすみ【私】」


 アブソーヘイズを媒体にした影響だろうか、普段出す分身とは何かが違うような。

 私というより別人の様な気もしたが……気のせいかな?



 お、あそこがアルムガムか、結構大きい国だな……さてとどこに下りるか……。

 ん? あの大きな建物は城か? よし、あのベランダがちょうどいい場所だな。


「――であるからして……」


「お、おい、あれ……」

「もしかして……」

「そっそんな……」


「おい! 何を騒いでおる! 静かにせんか!!」


「アルムガム王! き、騎士長! 外のベランダを、ベランダをご覧ください!!」


「ベランダだと? 何を……え?」


「む? どうしたと……なっ!?」


 ベランダに下りただけなのにすごい視線を浴びているような……。

 あ、中にいた者達が走って外に出てきた。


「はぁ……はぁ……その白い羽、頭の輪……あ、貴女様は、てっ天使……さまでございますか!?」


 お~お~この姿を見ただけでここに居る人間すべてが膝をつくとはな、話には聞いていたがこんなにも人間が天使に影響を受けていたとは、まぁおかげでやりやすそうだ。


「そうです、私は大天使リカルド様より使いで参りました」


「おお……」

「本当に天使様が……」

「何と神々しい……」

「ありがたや、ありがたや」


 何かすごく泣いている人間もいるんだが、私が来ただけなのにそこまでの事か!?


「それで、天使様……このアルムガムにはどの様な……」


 あ、そうだった。すっかり目的を忘れてた。


「ゴホン、今我々は魔界の悪魔と戦をしています。我々が敗北する事はありえません、しかし悪魔が人間界に逃げ込んだり、もしくは終戦後の残党が人々に牙をむく可能性もあります」


「そ、そんな……そんな事になれば我々はどうすれば……」


「心配は要りません、大天使リカルド様はどんな可能性であろうと未然に防ぐため私をこの地に使わせたのです。これを――」


 人間如きに天界でも貴重な結界石を渡すとはもったいないな。


「おお……周りに泡のような物が……」


「これは結界石の力、これで魔族は入れません。しかし絶対ではありません、そのため戦う力としてこの天使の剣も授けます。もしその時が来るのであればリカルド様に選ばれた者がこの剣を抜く事にでしょう」


 まあ、どんな奴だろうと私しか抜けないんだがな。


「ではこの人間界に祝福あれ!」


「……去っていかれた……おい! 急ぎ天使の剣を宝庫へ! 厳重に警備をするのだ!」


「はっ!」


 よしよし、大丈夫そうだな。

 あ~疲れた……もう硬い演技なんてしたくないわ……。

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