第8話 『前途多難だね~……』
謎の我輩が空から消えてからあっと言う間だった。
我輩は銀の鎧にアルムガムの守護獣である鷲の刺繍が入った白マントを着せられ、旅の荷物を持たされ、馬に乗せられ、城の門の前まで連れて行かれた。我輩に気がついた先に居たベルトラが門番との話を切り上げ我輩の右に並び猫口になる……なんで猫口になっておるのだ?
「勇者デールのご出立である!」
野郎の野太い声が晴天の空に響き渡る。
ガコンと鈍い音を立て大きな門の扉がゆっくりと開いていくのを眺める、これが開ききれば我輩どうなってしまうのだ……。
「さぁデール殿、行きましょう」
右にいるベルトラは猫口が消え我輩を一瞬だけ見て凛とした声で馬を進ませてる、やる気満々といったところだ。
「デール! アタシたちで魔王のデイなんとかをボッコボコにしてしてやろうね!」
デイルワッツな……左にいるエリンはふよふよと飛びながら拳を振りながら進んでいる、こっちもやる気満々。
「……」
何故そんなにもこいつ等はやる気満々なのだ、我輩はそんなノリについていけないぞ。
大きな門の扉が開ききった視界には大勢の人たちが歓喜に沸いている、こいつ等もか……。
「勇者ばんざーい!」
「デール様! 魔王を討ち取ってください!」
「ゆーしゃさまー、がんばってー」
老若男女の声援が実にうるさい……。
「勇者デールよ! 必ず、必ず魔王デイルワッツの討伐を成し遂げるのだ! 皆も頼んだぞ!」
背後の城のテラスから威厳に満ちた声が響く、王冠をかぶり、豪華なマントを羽織、威厳のある口髭を生やしたこの国の王ライリーが叫ぶ、そんな大声を出さなくても十分聞こえておるわ。
「ハッ! お任せを!」
ベルトラは直立し拳を握り胸に当てそれにわざわざ答えてる、いちいち反応しなくても良いと思うのだが。
「アタシ達におまかせあれ!」
エリンもふよふよと飛びながら手を振ってそれに答えてる、お前まで返事してしては我輩もするしかないではないか……。
「……ハイ……お任せを……」
なんとも力のない声なのだ、我輩でもこれはどうかと思うがしょうがないではないか……何せ……。
――どうして我輩が我輩を討伐しに行かなければならぬのだ!
※
アルムガムの城を出てから数分くらいか、そういういえば今我輩たちはどこに向かってるのだろう。
「おい、男女騎士」
我輩の一言でベルトラが振り返って、ものすごい睨んできた……だから何でそんな目で我輩を見る!
「私はベルトラ・トゥアンです! 後男ではありません、お・ん・な・で・す! いい加減にしないといくら勇者だからといってもたたっ斬りますよ!?」
「わかったわかった……で小娘のベルトラ・トゥアン、我輩たちは一体どこに向かっておるのだ?」
「ベルトラだけで結構です。後小娘ではありません、先月で25になります!!」
25? 人間からしたら大人だろうが、我輩からすれば小娘どころか幼児ではないか……。
「でなんでしたっけ? ああ、向かってる場所でしたね。私たちは現在アルムガムに侵略している魔王軍四天王の1匹、フィゲロアのアジトに向かっています」
正確には悪魔四天王の1人なんだがな……まぁそんな事別にいいか。
うーむ、フィゲロアか……あいつは戦闘狂だから今の我輩の事を説明しても聞く耳も単だろうな、そもそも謎の我輩が出てきた上にこんな姿じゃフィゲロア以前に他の同胞にすら何を言っても無駄かな。だがいくら同胞とはいえ我輩に攻撃を仕掛けてくれば対応せねばなるまい、我輩だって死にたくはないからな。
「向かってる場所は分かったが、もう一つ気になることがあったのだが」
「はぁ……なんですか?」
そんな嫌々な顔をするもんじゃないぞ、まったく。
「門番と話を終えたあとお前は猫口になってたんだが、あれはなんだ? この辺りの風習か何かなのか?」
まだベルトラの事は良く知らないが、こいつはあの様な間抜け面をするようなタイプには思えないし。
「あ、アタシもそれ気になった~猫口のベルすごいかわいかったよ~」
「――――――――――――」
あれ? ベルトラが真っ赤な顔をして固まった。
「お~い、ベル~? どうしたの~?」
「……あ……その……そんな顔してました……?」
我輩とエリンは同時に頷く。
「いにゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
急に奇声を上げベルトラが馬から飛び降りて、頭を抱え出したぞ!?
「びっくりした……おい! どうした!?」
「……れろ」
「あん? よく聞こえんぞ?」
「今すぐ忘れろ!!!」
「ちょま!?」
ベルトラの奴涙目で剣を抜いて我輩に向けやがった!
「待て! 落ち着け! その剣をしまえ!」
「シャーーーーーーーー!!」
話を聞いてない!! 我輩はこんな所で死ぬのか!?
「ベル! ストップ! スト~ップ! どうどう」
どうどうって馬じゃないんだから……ってベルトラおちつちゃったよ、すげぇなこの精霊。
「……不覚、あの時気を抜いていたのか……見られたから隠してもしょうがないですね。……実は私は昔から笑顔になるとあのような顔になってしまうのです、普段はそうならないように意識しているのですが……ああ……」
すげぇ落ち込んでる……ここはなにかフォローするべきなのか? はぁ……魔王である我輩がこんな男女にフォローとはますます情けない。
「まぁ良いではないか、硬い顔より間抜け面の方が貴様には良く似合うと思うぞ」
さすが我輩ナイスフォローだ。
「ちょ! デール! そんなのフォローになってないよ!!」
「……ね」
「あん? だから良く聞こえるように――」
「死ねぇえええええええええええええええ!!」
えええええ!? なんでそんなに怒ってるのだ!?
今のどこに怒る要素が――。
「おい! 剣を振り回して追いかけてくるな! 何をそんなに怒る必要がある!?」
「いいから死ねぇええええええええええええええ!!」
「ぎゃああああああああああああああああああ!!」
「……これは前途多難だね~……」
「こらああああああ、精霊えええええええ!! 見てないで助けろおおおおおおおおおお!!」
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