第二章 悪魔四天王「赤石のフィゲロア」との決戦

第1話 『勇者になったと言うのに何故弱体化せねばならぬのだ!?』

「でだ、どうして我輩たちはこんな山岳を進んでいるのだ?」


 王国から出発した時の賑わいから一転、鳥のさえずりのしか聞こえないこの静けさ。


「明日の正午、平地の方で王国軍が魔王軍を誘導する手はずになっています。その間に我々はこの山岳から迂回しフィゲロアが手薄になった所を奇襲して倒します。」


「奇襲とはまた卑怯な手だな」


 悪魔である我輩が言うのもなんだがな……。

 って今の言葉にベルトラの顔が歪んだ、この作戦にはあまり良くは思ってないのか?


「私だって騎士道としてどうかと思いますが仕方ありません。こうでもしないとこの人数で太刀打ちなんて出来ませし、なによりフィゲロアの固有魔法は強力すぎますので一撃で倒すしかありません」


 まぁそうなるか、フィゲロア相手には有効な作戦ではある。平地では固有魔法の効果が薄い、石に囲まれたこの山岳こそ奴が最も力を発揮できる場所、あやつは戦闘狂のクセに自分の有利な所でしか戦わないからな~。戦闘が大好きな腰抜け……それが我輩の感じてる奴の評価だ。


「ね~ね~ずっと気になってたんだけどフィゲロアってどんな奴なの? あと固有魔法って何?」


「そんな事も知らんのか。悪魔四天王の一人「赤石せきせきのフィゲロア」、巨漢で四つ目と四本腕が特徴の奴だ。固有魔法ってのは稀に生まれて出てくるそいつしか使えない魔法の事だ。フィゲロアの固有魔法は石を粘土の様に柔らかくしたり、オリハルコン並みに硬くしたりと硬さを自由自在に変える事ができるのだ」


 赤石の由来は魔力の影響で石が赤く光ってたから我輩が勝手に付けたんだがな。あやつのおかげで今の魔王城が簡単に作れた、あの力がなかったら下手すればいまだ建設中だったかもしれぬな。


「お~なるほど~確かにそんな魔法は知らないし使えない」


 納得したのかこいつポンッと手を叩いたが、今度は我輩の方に疑問が出てきたぞ。


「そもそも魔力の事や魔法を使えるになぜ固定魔法のことを知らん?」


 エリンが不思議そうな顔で首を傾けた、考えるときのクセなのか?


「そういやそだね、なんでだろ……。う~~~ん……よくわかんない!」


「よくわかんないって! それですませるなよ!」


「だって考えるとなんかこう頭の中がごちゃごちゃ~になってわっしゃ~ってなって頭痛が痛くなっちゃうもん」


 駄目だこいつ、いろんな意味で駄目だ。


「私はあなたが何故フィゲロアの事をそこまで知っているのか不思議です。それに一般人と言いながら基本以上の魔力を持ち、兵士の様に鍛えられた筋肉が付いてますし……」


「うっ!」


 しまった、つい流れでベラベラとしゃべってしまったぁ! 何とかごまかさねば。


「そっそれはだな~……え~と……そう!我輩は悪魔四天王マニアでな、旅人が訪れた時や噂話を聞いたりと結構詳しいんだ。魔力は生まれつきなんだからしょうがないではないか! 体の方は~~~~ほっほら体が弱いって言ったろ? それを少しでも鍛えて良くしたいと思ってな! 密かに鍛えてるのだ!」


 どうだ!? 今のでごまかせたか!?


「はぁ、なるほど……」


 これはごまかせて……ないな、ベルトラのあの目は疑っている。他に何かないか……何か――。


「――っ!? デール! 上!」


「へ? グフッ! グヘッ!!」


 エリンの奴が我輩に思いっきり体当たりをしてきたと同時に我輩のところが爆発した。普通は助かったと思うべき所なんだろうだが、エリンの頭が我輩のみぞおちにクリティカルヒットの上に落馬した先には石があったらしくそこで頭を打ってしまった。これでは助かったのかどうかもわからんではないか。


「ソコニイルノハ人間カ?」


 攻撃してきたのはあの下級悪魔の二人か!? おのれ~下級のクセに我輩に攻撃をしてくるとは何たる――そうだ、戦闘を利用して奴らに我輩の事を伝えれば!


「このあたりの見張り番か!」


 まずい、ベルトラの奴がしゃしゃり出てきた。


「待つのだ! ここは我輩に任せろ」


 お前が戦えば我輩の事を伝えられないではないか!


「アタシの出番だね!」


 お前もかーーー!!


「いっいや、一度一人の力を試してみたいのだ、せっかく天使の剣に選ばれたのだからな」


「はぁ……」


「いやいや、今のデールじゃ……」


 二人の視線完全に我輩を弱者としか見てない。ここまでの言動や行動でそう思われていても仕方ないが、しかし今はこうするしかないのだ!


「うるさい! いくぞおおおおお! おりゃあああ!」


 出来る限り鍔迫り合いで密着できるように剣の角度を調整してと……。


「ギギッ!」


 よし、うまくこいつに貼り付けたぞ。あとはあの二人に聞こえないように小声で。


「おい、我輩の話を聞け」


「ハァ?」


「こんな姿であるが我輩はデイルワッツだ! アルフレドかアナネットに話を聞いておらんのか!?」


「ナニイッテヤガル! デイルワッツ様ハ魔王城ニオラレルワ! 人間ノクセニデイルワッツ様ノ名ヲカタルトハユルセヌ!」


 やはりもう一人の我輩がいるというのか。アルフレドかアナネットの奴らは何をしているのだ。


「くそ!! って、うおおお予想以上に力負けをする。こうなればファイアボール!」


 え? 我輩の指先に小さな火が灯ってるだけ? なんで?


「ファイアボール!」


 やっぱり小さな火が灯ってるだけ……おかしい、普通ならもっと大きい火球を飛ばせるはずだぞ!?


「ヒャッハハハハ! ナンダソレハ! ファイアボールトハコウスルノダ! ――ファイアボール!」


「うおおおお!? あぶねぇえええ!」


 何とか避けれたが当たってたら死ぬとこだった!

 ってもう一人、魔法を撃つ準備をしている!? やばい、あれは避けられない!


「何遊んでいるんですか、はぁっ!」


「ナッ!? ギャア!」


「貴様! ウゲッ!」


 ベルトラが一瞬にして二人をぶった切った。不覚にもかっこいいと思ってしまった、人間のクセに……。

 それに比べて我輩は無様だ、なんて無様な姿をさらしておるのだ。


「お~ベルすごいね~」


「このくらいは普通です、むしろ……」


 うっ痛い、今受けた傷よりもベルトラの奴から放たれる視線が物凄く痛い!


「そんな目で我輩を見るな、そもそも我輩にも結構な魔力があったのだぞ!? それが今はこれだけ……」


 こんな火じゃ焚き火をするときに火種としか使いようがないぞ。


「魔力を吸っちゃったから当たり前じゃん、アタシが魔力を送らない限りデールは普通の人間と一緒だし~」


「勇者になったと言うのに何故弱体化せねばならぬのだ!?」


 本当にただの呪いの剣じゃないのか、これは!?

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