ゆみりとゲーム その3
中年女たちの視線が一斉にゆみりに集中する。この無遠慮な目線もゆみりは嫌だった。
「あら~っ! 可愛らしい子!」
中年女の一人が奇声を上げた。それにひっぱられるように、他の女も反応してゆみりに殺到する。
「お嬢ちゃん、いくつ? 十歳くらい?」
「あ、さっき余計にジュース買っちゃったのよ。あげようか? 今日は暑いものねぇ」
「あら、そのゲームはなんなの?」
矢継ぎ早に繰り出される言葉の奔流にゆみりはなすすべもない。ただただ硬直して事態の収束を待つほかなかった。
「今日は、お姉さんとお出かけ?」
そこで中年女はなつみに目を遣る。
「もう、お姉さんも可愛いわ! 美人姉妹ね」
姉妹なわけがない。二人は同い年だ。勝手になつみの妹にされ、ゆみりは強い憤りを感じた。
「そんな!」
なつみはひときわ大きな声を上げる。一刻も早く、姉妹であることを否定してほしかった。
「可愛いだなんて、嬉しいです!」
見当はずれの返しに舌打ちしそうになるのをぐっとゆみりはこらえる。
「もう、お上手なんですからー」
そう言ってなつみは相手の肩を叩く。なつみまで中年女軍団の仲間に見えてきた。
ゆみりは隙をついて、中年女の壁をすり抜けた。猛ダッシュで隅っこの席へ飛びつく。
「あらあら、どうしたの?」
中年女たちが不思議そうにゆみりを見つめる。だけど、何らおかしなことはないだろう。ゆみりの態度はいたって普通だ。逆の立場に立ってみればいいのだ。本当に遠慮知らずな連中である。
「あ、ごめんなさい」
そこになつみが割って入った。
「あの子、少し人見知りなんです。だから、大勢の人に囲まれるのは苦手で」
別に人見知りなわけではない。こういう相手の都合も考えない人間が嫌いだというだけだ。勝手なことを言わないでほしい。
「あら、そうなの? ごめんなさい」
だけど、なつみのおかげで、ゆみりは難を逃れたみたいだった。おばさんたちは、ゆみりとなつみに交互に頭を下げてくれた。
そして、改めてなつみに向きなおって。
「ちゃんと妹さんの面倒見てて偉いわねぇ」
だから妹ではない。今こそきちんと釈明してほしかった。
「いやいや、そんなことないですよー」
心底照れているかのようになつみは答えを返す。期待した馬鹿な自分を呪った。
「ゲームするんじゃないんですか!」
やけくそになってゆみりは怒鳴った。なつみはちらとゆみりに目を遣って、手で合図をした。
「それじゃ、待ってますから。失礼しますね」
「待たせちゃかわいそうだものね。妹さんと遊んであげなさい」
最後の最後まで癪に障る会話だった。
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