第104話 こら、言葉を探すでない
経験によってものごとの視点は変わりますよね。
先月、会社の駐在員で小旅行(片道300㎞)に出かけました。僕がドライバー。大先輩と同期(女性)、駐在者の高校生の娘さんを乗せて3時間のドライブです。道中、それはもう色々な話をしました。日本で流行っている音楽、大学生時代の思い出、大先輩の息子、娘さんのお話……。そして、その中には恋愛観も含まれていました。
大先輩は言います。
「自分を偽って、良い所を見せようとしたって駄目だと思うよ。素の自分を見せてそれを受け入れてくれる人じゃないと、結局はダメになるんだから」
僕はその言葉に何度も頷きました。
「本当にその通りですよね。僕も最近そのことに気付きました」
そう返しながら、考えの変遷に思いを馳せます。
嫌われたくない。
その一心で八方美人を気取ってきた学生時代でした。少しでも良く見せようと、カッコ悪くて醜い自分を必死にひた隠しにしてきました。しかし「生理的に無理」という言葉が示すように本人たちの意志に関わらず合わない人はいるものです。嫌われたくない気持ちはありますが、嫌われてしまったら仕方がない。近頃そんな気持ちがむくむくと育ってきました。友人たちの恋愛と結婚を見て、人との距離の理想像は様々だと自覚したからです。(※1) 僕は人よりパーソナルスペースが必要な人間なのだ。それが分かってからは、そのことを理解してくれる人が僕は好きです。
だから、こう答えます。
「既読無視でも、声を掛けて無視されてもあんまり気にならなくなってきたんですよね。飾りっ気のない僕自身に興味を持って貰えないのなら縁が無かったんです。どうして学生時代はあんなにびくびくして、傷ついていたんだろうと思います。良い顔して結局剥がれるのであれば、最初からある程度素を見せて見切りをつけて貰った方がお互いのためですよね。それが分かって、近頃は無視されても傷つかなくなりました」
大先輩は納得したように頷いています。僕の経歴を知っている同期(女性)は「え、えと……。ん……」と言い淀んでいました。
――こら、言葉を探すでない。
いっそ「え、そこまで行ったら終わりでしょ」くらい言ってくれたら良いのに、なまじ優しいだけに困っているのが分かる。ほら、高校生も戸惑ってるやん。でも、その優しさは逆に響くから。こういう時は迷っちゃ駄目。すぐにからかうか、バカにしてくれたら良いんだよ……?
優しい言葉だけが良いとは限らないのです。これも経験したから言えますね。人を見極める必要がありますが、案外粗野な言葉の方が良いこともあるのです。
あ、でも「キモ」とか真顔で言われたら泣けます。良いですか、無視はまだいいですがキモイは駄目です。言うなら「気持ち悪い」を可愛く言いましょう。
※1 24時間365日一緒なんて、コンビニよりも身近な存在に耐えられそうにありません。それぞれが好きに過ごす時間があって、それを尊重出来る人が良いと感じています。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888425664/episodes/1177354054888583698
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