【夢日記】2019年3月23日
私は引っ越し先の部屋の下見に来ている。思っていたよりもそこは窮屈で、押入れも狭く、満足に家具を置けそうにない。私が不満に思っていると、それを察してか、隣に立っている仲介業者が言う。
「それでは、次の物件にご案内いたします」
そこはヨーロッパふうの巨大な図書館だった。その書庫には偉大な歴史家の講義録が陳列されており、本棚一個では足りず、書庫の一列を一人の著者がまるごと占めている。私は感動を覚えてしばらくそれらの背表紙に見入っていたが、やがて中世の宗教哲学について書かれたタイトルに目がとまり、手にとってみた。権力に不満を覚える民衆を統治するために国家がいかに宗教を利用し、またいかにその教説をねじ曲げてきたかということが書かれてある。そしてバックグラウンドに広がる映画のようなムービー。
仲介人に肩を叩かれるまで私は本来の目的を忘れてその世界に浸っていた。
そうして次の物件に向かって行くのだが、どうやら私は物件を案内されているつもりが歴史を遡っていたようで、いつのまにか古代の世界に来ている。その部屋には覆いものの向こうでなんとあの神武天皇が座しており、家来たちと「朱」という色について会話を交えているところだった。どこから這入ってきたのかわからないが、私たちはその部屋の奥まったところに隠れており、神武天皇の御顔までは拝見できない。私が何か口を開こうとすると、仲介人に気づかれてはならないと忠告される。それで私たちはその場を去った。
気づけば現代に戻ってきている。私は風通しの良い高校の学舎で、男やもめと女についての詩を書いていた。
「(……)
憂いを帯びることがあったら
考えてみるといいかもしれません
気球が出ている蒼い空
(……)」
【感想コーナー】
夢の記憶をたどっていると頭がぼんやりとしてきて、また眠りに落ちそうになる。おそらく脳がθ波を発しているからだろう。この脳波は眠りに落ちるときや、ひらめきが訪れるときに出ていると言われている。とはいえこの手の話は眉唾ものなので、本当かどうかは知らない。
夢日記の執筆には毎回ひどい困難が伴う。夢体験を終えたあと、現実に付された自分の役割を思い出すまでのわずかな時間にそれを行わなければならない。すべてを書き留めておくのは当然無理だ。なので断片的な状況を表す単語を楔のように打ち込んでおいて、あとからそれを目印にストーリー仕立てにする。だが、この作業のなかである種の文脈というものが必然的に生じ、そこから欠落している部分は、それこそ夢想をもって補わなければならない。じっさい、今日の夢日記で書いたことも本当にすべてが起こったのかといえば微妙なところで、大部分の事実が改竄されてしまっている。しかしこの文章を読んだ人間はこの人の身にはこんなことが本当に起こったんだなと信じ込むしかない。
そしておそらく、ヘロドトスが考えたような歴史というものもこのようにして編まれたのだろうと思う。
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