【詩】植物園
不思議の国にありがちな
おあつらえ向きの小庭園
ニンフェットたちの幻影が
跳ねまわり 舞い上がり
倒れこむ赤い魔法の敷石
ここでキスした恋人たちは
百年後には骨へと変わる
しつらえられた白塗りの
アーチ、ベンチ、柵のごと
みどりの蔓と腕を組み
風のまにまに 思い出を憩って
樫の葉をうちふるえさせた
においやかなる愛技の花園
肥満したヒマラヤスギに擁される
幾千もの薔薇の姉たち
そのひとつにて
「魅惑」と名付けしものあれど
待つことに倦み 誘惑に疲れ
もはや香気をつゆも発さず
他人の流すなみだを見ても
その不感症の治るすべなく
顔を伏してはため息をつき
こうべをたれて眠る姫かな
生命の襞が過密に絡まり合い
あたかも操を守るかのごとく
肉厚の花弁をきゅっと閉ざしたきり
窮屈な自己に窒息してしまった
白、黄、紫と
射的さながら三段に並んだ
典雅なる半球状の大菊よ
顔として 生殖器として 排泄器として
あるいはあわれな脳として
未練に苦しみもがきながら
覚めない夢をみつづけている
おまえたちが
いちばん傷ついている
それでも
老嬢のようにしわがれた
エーデルワイスよ
南国の王に飽きられた
ヘリコニアよ
ただれた肌いろの腕をもつ
アキニレよ
おまえたちは
まどろみとうつつのあわいに溶けゆき
天と地とが仲違いした
あの日の薄靄のさなかに
消えてゆくのだとしても
いまいちど
あたたかな光のなかに若やぎ
浄福にみたされる時が
来るだろう
そして私は
いつか心が絶望に打ちひしがれたとき
これら存在の語ったことばで
詩を書く時が
来るのだろう
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