満ち欠け

綿麻きぬ

 夜の帰り道、ふと私は空を見上げた。寒さが凍みる冬の夜。息を吐くと白くなる、そんな帰り道。


 あぁ、月が綺麗だ。真ん丸で明るくて、綺麗だ。


 そんな月を見てあることを思い出した。古い記憶の話だ。少し、付き合ってもらおうか。


 それは私が中学生の時のことだった。私にはお付き合いしている人がいた。二人とも付き合ったことがなく、付き合うという行為は初めてだった。


 そんな世界では一つ不思議な現象が起こっていた。それは月が大きくなるというものだった。


 そんな中、君が言った一つの言葉が私の胸の中にトゲのように残ってる。


「三日月ってね、寂しがり屋の化け物が食べてるんだよ」


 それは私から見たら馬鹿馬鹿しく、でも何故か惹かれた。


 それに私はなんと答えたかは覚えてない。君の話に乗っかったのか、それとも否定をしたのか。


 君のその話には続きがあって、それがきっと私に印象付けているのだろう。


「それには理由があってね、その化け物は友達がいないんだ。人間って自分とは違うものを排除しようとするでしょ?」


 まぁそうだろ、と私は思った記憶がある。何を当たり前のことを。


「でね、そうやって月に追いやられた化け物は一人で寂しく月で過ごしてたんだ。」


 かわいそうだね、そんな冷めた感情を持った。まるで他人事のように。


「そんな日がいくらか過ぎたときね、化け物は月が大きくなってることに気がついたんだよ。そうそう、昔は月が満ちたり欠けたりしなくて、ひたすらに大きくなってたんだよ」


 そんなバカなことがあるか。月は昔から同じ大きさに決まっている。そして、満ち欠けはする。そう、決まってる。


 そう言った私に君はまぁまぁ落ち着いてとたしなめた。


「何が月を大きくしてるか分かる?」


 いいや、分からない。月は地球に天体が衝突してできた。そんな所から地球の欠片とか? 理屈ぽいことを私は答えた。


「う~ん、おしい! 答えは人の欠片だよ。人が無くしてった欠片だよ。」


 私は思わず、人肉を想像してしまった。ぎょっとした表情が出ていたのだろう。君は笑っていた。


「違う、違う、なんていうんだろうね。思いとか、願いとか、感情とか、そんな感じのもんだよ。それをね、化け物は食べてるんだよ。」


 なんでか、その疑問は直ぐに解けた。君は当たり前のように言った。


「人が無くしたものを食べれば人と同じになれると思っているんだよ」


 その時私は直感的に分かった。だから、化け物は化け物なのだと。人が無くしたものを食べてるから化け物なのだと。そして、それを取り込み、人が無くしたもので構成されているから化け物なのだと。それは人から見れば自分たちが無くしたものを持っている、つまり人間とは何かが違くなる。だから化け物なのだと。


 君は一息ついて言った。


「まぁ、そういうことだよ。欠けていくのは人の欠片を食べているから、満ちていくのは化け物が食休めをしてるから」


 君はもう一息ついて言った。


「月が大きくなっていったら化け物は人間になれたんだろうね」


 あぁ、こんなことを私と君は話していたのか。君は化け物だと自分で言っていたのに。僕は信じなかった。その後、君は消えた。


 それ以来、月は満ち欠けを始めた。君が現れる前みたいに。


 これで古い記憶の話は終わり。


 そして今日、また世界は不思議な現象が起こっていた。

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満ち欠け 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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