消しゴム

ラン藻類

消しゴム

 「消しゴムのおまじないって知ってる?」陽子は教室の床に落ちている消しゴムを拾いながら尋ねる。

「なにそれ?」結香は尋ねる。

「消しゴムに緑のペンで好きな人の名前を書くの。そのことを誰にも気づかれずに使い切ると、両思いになれる、っていう」

「あー、あったねそういうの。私の中学では青色のペンを使うことなってた」

「中学校ごとにバリエーションがあるんだね」陽子は頷く。「この消しゴムに名前が書いてあるなんてことはないよね?」

 消しゴムのケースを外してみると黒い文字で名前が書いてあった。角が落ちて丸くなっている側を左側にして「結香吉澤」とはっきり書かれている。消しゴムは結の字がちょうど半分使われたところだった。

「結香さん、モテますねぇ」陽子が絡んできた。

「でも、このおまじないなんか変じゃない? 名前が黒字で書いてあるし、なにより吉澤結香じゃなくて、『結香吉澤』になってるところもおかしい」

「中学校ごとにバリエーションがあるんだよ」と陽子。「でも、私がおまじないに気づいてしまったから、この消しゴムの持ち主は結香と両思いになれないね」

「なんでそんな意地悪な事言うの」

「そりゃそうもなりますよ。私は結香の彼女なんだから。結香を狙う男がいれば嫉妬もしますよ」陽子は頬を膨らませる。

「あたし、男の子より女の子のほうが好きだよ。女の子は柔らかいし、いい匂いがする」

「恋敵は女の子かもしれないよ」

「陽子は陽子。他の女の子とは違う」

「じゃあ、私の好きなところ挙げてみてよ」

「忘れ物を見つけてくれるところ。この間ミスドの席を立つ時に、あたしの席を確認して、忘れそうになったスマホを見つけてくれたよね。あたし、抜けてるところがあるから、そういうのはとっても助かってる」結香は陽子の頭を撫でる。「今回もそう」


 陽子はまだ結香の言ったことの意味がわからずぽかんとしている。

「その消しゴム、あたしのだよ。結香吉澤って書いてるのは、消しゴムが削れて名字が読めなくなるのをなるべく遅らせるため。黒字で書かれているのは手近なボールペンで書いただけだから。妬いてる陽子を見たくて、意地悪なことをした。ごめんね」

 もう、と膨れて、陽子が結香の胸を叩いてくる。結香はそんな陽子を可愛いと思った。

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消しゴム ラン藻類 @ransourui

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