クソみたいな小説

「はあ~……。今日も幼馴染み家が近いというだけで無条件の好意を寄せてくる異性委員長やけに強い責任感を主人公にだけ発揮してくる異性先輩帰宅部にも拘らず何故か関わりのあるやたらと仲の良い異性の先輩あいつ他に友達がいないのかと心配になるほど頻繁に現れる他校の異性に休み時間の度に絡まれて疲れたな……」

「幼馴染みに対してその言いぐさは酷いんじゃない?」

「げっ、いたのか」

「『げっ』じゃないわよ!  好きな人にそんな風に言われる気持ち考えたことある?」

えっ、なんて?耳鼻科行け

「……もう知らない!」

「あっ、おい! トラックが!!」

「へ?」


パパー! ドンッ! キキーッ!擬音だけの雑な事故描写


「嘘……だろ…………。う、うわあああああああああああああああああああああああああ」


 あまりにも唐突な出来事に、感情が追い付かなくて、なにも考えられなくて、涙が止めどなく溢れ続けた。泣いて、泣いて、ようやく涙が止まった頃、気がつくと見慣れぬ場所読者は見慣れている中世ヨーロッパ風の城の中にいた。玉座に腰かけた国王と思わしき人物大抵無能が、口を開く。

 

「よく来てくれた、異世界の勇者よ。どうかこの国を、この世界を救ってはくれないだろうか」

いやいや世界を救うとか無理無理目上相手に平気でタメ口を使う安易なキャラ付け。第一、自分の幼馴染みも助けられなかったのに、世界なんて救えるわけが……」

「私からもお願いします」


 そう言って玉座の陰から現れたのは、ドレスで着飾った幼馴染みと瓜二つの女性大抵本人だった。 


「幼馴染み!? お前、幼馴染みか!?」


 彼女が生きていたという事実に、驚きと喜びのあまり、彼女の下へと駆け寄って思いきり抱き締めた。

 

「良かった、無事で良かった! もう会えないかと思ってたぞ、心配かけさせやがって!! もう絶対に離さないからな!!」

な、ぶ、無礼者! は、離れなさい!初対面の異性に抱き締められるという一種の恐怖体験なのに何故か赤面しがち


 近くにいた従者から無理やりに引きはがされたことで、幾分か冷静になった。


「どなたか存じ上げませんが、別の方と勘違いされているのではないでしょうか。私はこの国の王位継承権第二位、第二王女第一位が作中に登場することは無いです。改めて、勇者様、どうかこの国を救っていただけないでしょうか」

「そうだな、この国を救ってくれた暁には、娘をお前にやろうではないか」

「ちょっと、お父様! そんなこと、急に言われても困ります!大抵満更でもない表情しがち

「救うっつっても、何をすればいいんだ?」

「実はこの世界は、魔王率いる魔物の軍勢によって滅亡の危機テンプレに立たされておるのだ」

「なるほど、なら魔王を倒せば世界が平和になって幼馴染も元に戻るんだな明らかに飛躍した論理なのに大概その通りになるメタ的察しの良さ!!」

「事情は分からぬが、どうやらやる気になってくれたようだな。では、勇者の世話はこの国の騎士団長危機に瀕した国の国防最高責任者とは思えないほどに時間と余裕が有り余っている人に一任しよう。きっと力になってくれることだろう」

「王国騎士団団長だ。よろしく頼む。まずはこのステータスプレート都合の良い道具で勇者殿のステータス物語が進むにつれてインフレ起こしてどうでも良くなる数値を見てみよう。勇者殿の実力の程が分からなくては、話が始まらないからな」


 団長の指示通りにステータスプレートに触れると、ぼんやりとステータスが浮かび上がった。


ステータス

レベル主人公だけやけに伸びが良い数値 5

STRさも共通言語かのように出てくる略語 34

INT VIT DEX AGI以下略

BMI変なところで発揮される作者の独創性 23 


「ほう、BMI23か……」結局回収されることない意味ありげな伏線


 団長は何やら呟くと、国王に向き直り、言い放つ。


「王よ、彼に関しては全て私に一任下さい。必ずや立派な勇者に育て上げて見せましょう」

「うむ、任せたぞ。勇者よ、精一杯励むが良い」

「はい!」


 こうして俺は、世界の危機に立ち向かうために、団長の下で日夜修行に明け暮れ、気が付けばこちらに来てから一月が経とうと異常に短い上に大抵省かれてしまう修行風景していた。勇者の資質のおかげ実に都合の良い設定かステータスの伸びも良く、この国の中で勝てない相手はいなくなったので、勇者として旅立つこととなった。


 旅は過酷を極めた物語の一番面白い所はダイジェストでお送り致します。灼熱業火、氷点下、猛毒の大気、強酸の雨を始めとする生きる事さえも困難な環境の数々、襲い来る魔物の群れ、魔王軍幹部の狡猾な罠、危機に瀕して混乱した民衆の暴動、性根の腐りきった貴族の悪意、第二王女の危機、幼馴染の意識の覚醒、信頼できる仲間たちとの出会い、龍との死闘、仲間の裏切り、歴代勇者の試練、深まる友情、各地に散り散りになる仲間たち、些細なすれ違い、死別、強敵との邂逅、敵対を越えた信頼関係……。目の前に立ちはだかる壁は、一つずつ壊して、倒して、乗り越えてきた。一人では出来なかったことも、仲間がいたからこそ、乗り越えることが出来た。


 そんな、長きに渡る旅も、ついに終わりに差し掛かろうとしていた。


「この扉の先に、魔王が……」

「また『罠でしたー』なんてのはもうゴメンだぜ」

「こんな濃密な瘴気は味わったことが無い……。間違いなく魔王はこの先にいる」

「そうと分かれば、さっさと突入してちゃちゃっと倒しちゃおうよ!」

「そうだな。皆、これが最後の戦いだ! 気を引き締めていくぞ!」


 仲間たちが頷いたのを見て、扉を押し開ける。部屋から溢れ出してくる瘴気の量に、思わず咳き込んでしまいそうになるのをぐっと堪えつつ中に入ると、禍々しいオーラを放った女魔王が立っていたラスボスだとしてもハーレム物だと仲間になりがち


「よく来たな、勇者よ」

「おん……な……?」

「魔の頂点に立つ者が女とは想定外だったか? 人類の長たる勇者でさえこの有様とは、やはり人間は劣等種だな。話にならない。無駄な偏見に囚われて想像力が欠如している。世界を次の段階へ進める為にも、人間を絶滅させることは不可欠だな。評議会を通さずとも、この有様を見れば頭の固い元老院の連中も理解してくれるだろう」

劣等種? 評議会物語終盤で突如出てくる次の展開への伏線? 一体何の話をしてるんだ?」

劣等種に語る事など何もない実は作者が何も考えてないだけ。貴様らはここで朽ち果てる運命なのだ!」

「俺たちは生きて元の世界に帰るんだ! 女だからって容赦はしない!とか言いつつ最後とどめを刺さなかったりする ここで終わりにしてやる! 行くぞ、最初っから全力だ! 覚醒! 開眼! 属性解放!行き過ぎたインフレの成れの果て 龍鎧着装! 英霊憑依! 百鬼無双! Blood of Mythical Instinct! リミッター全解除! 全力全開フルバースト! うおおおおおおおおおお! 秘伝奥義・真説・森羅万象百華百裂斬・改!」


 放たれた技は、確実に魔王に直撃した。強力な奥義の余波が、魔王の間の壁を跡形も無く消し去る。しかし、


「……この程度か。いくら劣等種とは言え、傷一つ付けられないとは期待外れも甚だしいな」

「なっ、無傷!?」

「もういい。目障りだ、消えろ」


 その瞬間、魔王を中心に莫大な質量を持つ波状の何かが発生し、空高く吹き飛ばされ、成す術も無く地面に叩きつけられた。衝撃で意識が朦朧とする。咳き込むと同時に夥しい量の血が喉から溢れてくる。肋骨が数本折れ肋骨簡単に折れがち、それが内臓を傷つけてしまっているようだ。圧倒的な力の差に、痛みに、足がすくみそうになる。それでも、


「ほう、まだ立ち上がるか、劣等種」

「……当たり、前だろ」


 この世界に来る前の自分だったら。仲間と出会う前の自分だったら。ここで諦めていただろう。しかし、この世界に来て人と出会い、仲間と出会い、多くの願いや思いを託されてここまで来たのだ。


「背負ってるものが、違うんだよ。もう俺一人の命じゃねえんだ、こんなところで負けるわけにはいかない」

「面白い! ならば来い勇者! 貴様が立ち上がり続ける限り、何度でも叩き潰してくれようではないか!」

うおおおおおおおおお最後は気合で何とかしがち!」


 こんなありふれたクソみたいな小説なんてもううん実を言うとなんだかんだこういうの好きなんですよねざりだ。


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実験ルビ小説 西藤有染 @Argentina_saito

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