プロローグ:希望は潰えた
ビキンッ、ビキンッ
–––金属が互いに擦り付けられた時の雑音、または黒板を爪で引っ掻いた不快な音が一面に鳴り響く。業火に包まれた戦場で私は漏らす。
「なんで……?」
私は懸命に詠唱し、杖を振る。光は他を追随させぬ速度かつ様々な軌道で対象に向かいっていく。しかし『弾かれる』。一つ一つ確実に。
「なんで……⁉️」
汗は手の甲から杖を握る手のひらに伝って今にも滑り落ちそうだ。
……違う。違うのだ。手が震えている。体が怯えているんだ。目の前の現実に。
ビキンッ、ビキンッ
『彼』は私が放つ弾幕を全て撃ち落とす。私の努力の結晶を一つづつ、着実に。私の自尊心を軽々と崩していく。これは決闘ではない。一方的な『殺戮』だ。
「なんで……」
『彼』は私との距離を縮めていく、堅実に。今、私にははっきり見える。彼の後ろにいる。
『死神』
血塗られた鎌を持つローブ姿の使者が、私に『死』を届けようとゆらりゆらりと近く。体は全く言うことを聞かなくなっていた。歯はカタカタと耳障りな音を立てている。
杖はもう手から離れて、もう一度持つことなんてとてもできなかった。
そしてついに私の目の前にたどり着いた。文字通りの『詰み』。
「……助けて」
「言いたいことはそれだけか?」
『彼』ササミヤアラタを私は見くびっていた。
私は確信した。彼は巷で言われているような腑抜けた英雄ではない。正義のヒーローとして崇められるような存在でもない。
彼は『死神』だ
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