第28話 episode:28

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テストまでの数日間、毎日強制的に勉強をさせられた麗がやつれた頃、事件はおきたのであった。






「いや~これだけやれば、さすがの麗も赤点は大丈夫そうだな!!」




特別室3では、四天王と佐々木幸太郎という異色なメンバーが麗を囲んでいた。




「はははははは・・・。はははは・・・。」




「麗が勉強をしているところを初めて見たけど、確かに随分人間らしくはなったわね。」




「梨々花ちゃん・・・ひどいよ~~~~!!」




「本当の事を言ったまでよ。」




「春野さん、お疲れ様。今日はここまでにするか。」




「幸太郎君~~~~!!!」




涙を流しながら幸太郎君に抱き着こうとする麗を梨々花が直前で阻止をする。




「ちょっと、それ以上幸太郎君に近づかないでよね!!!」




「あれ~梨々花ちゃん~嫉妬かな?」




勉強から解放された麗は梨々花に仕返しを仕掛けていた。




勉強でのストレスを発散するために麗にとって日課となったのは


“梨々花へのからかい”であった。






「ちちちち違うわよ!!麗が寄ると幸太郎君に馬鹿が移るでしょ!!」




「馬鹿を感染症みたいにいうな~!勉強ができないのも個性なの~!!」




「けど、幸太郎君が頭良いとは、驚いたな~!」




梨々花たちが通う私立東宮高校は、全国的にもお金持ちが通うことで有名な高校である。




その中で一握り金銭面ではなく頭脳で入学する特待生が存在し、その一人が幸太郎であった。




「この学校は、成績がいいと学費が完全免除だからなぁ、めんどくさいけど勉強はサボれないかな。」




「特待生だったとわね。麗も見習いなさい。」




「私はどうせお金で入学しましたよ~だ!!」




場の空気が和んだところで、それぞれ身支度を始めた。




「幸太郎君~梨々花ちゃん今日はお迎えが来ないみたいだから家まで送ってあげてよ~!!」




麗の提案に梨々花は顔を真っ赤にする。




「お迎えは別にこれ“んんん!!”




言いかけた言葉に急いで麗が口を塞ぐ。




“せっかく一緒にいるんだから!チャンスだよ!!”




麗のささやきに梨々花は幸太郎へと視線を移す。




「今日はさちかの迎えもないし、別にいいけど。」




「?!」




「まぁ。どうしてもっていうなら、送らせてあげてもいいけ“ドスッ!”




梨々花が言いかけた言葉を次は麗から繰り出されたストレートパンチによってかき消される。




「何するのよ!!」




“梨々花ちゃん、可愛く!か・わ・い・く!!!!!”




「幸太郎君・・・送ってください。」




「じゃあ、先に下駄箱に行ってるから。」




先に教室を出ていく幸太郎を梨々花以外が優しい笑顔で送り出す。






「おおお~梨々花!2人きりでデートじゃないか~!!」




「デデデデート?!」




いきなり飛び込んできた単語に梨々花の頭からは湯気が出る。




「これは俗にいう・・・“放課後デート”だね!!」




「さぁ、梨々花。勝負の時ね。」




こんな思いを今までしたことがあっただろうか。




幸太郎が下駄箱で自分を待っていると考えただけで胸はドキドキと音をたて、


足取りは宙を舞っていた。




「じゃあ、梨々花は先に行くわよ。」




「「「落として来い!!」」」




3人は梨々花を笑顔で見送った。




「梨々花ちゃん、完全に乙女の顔になっていたね~。」




「恋は人を変える。」




「まさか、あの男嫌いな梨々花がね~ははは!!」




「梨々花ちゃんばっかりずるいな~~~!!」




「麗の恋愛・・・まずはテストを合格してから言って。」




「華恋の言葉はいつでも胸に突き刺さる~!!」




「unavoidable」




「あなばい・・・ん?なんて?」




「やむを得ない、だったかな?」




「ええ。」




「言語を変えられても~やっぱり突き刺さる~!!」




梨々花の去った特別室3はいつも通りの空気であった。








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一方、ただならない空気を自ら振りまいているのは、




夏目梨々花であった。




廊下を歩く彼女の姿は、溶けかけているロボットのような状態であった。




(なんでこんなことに!2人で帰るなんて、こんな経験今までないうえに恋愛小説でも勉強をまだしていない分野じゃないの!!)




顔を赤く染めて、いつもより険しい表情の梨々花をみた周囲はいつもと違う方向でざわつくのであった。




(2人で帰るなんて、もしかして・・・もしかしてだけど・・・)




“付き合ってるように見えるんじゃ・・・”




その瞬間、梨々花は顔を手で隠して下駄箱まで突然の全力疾走をするのであった。




「梨々花ったら何考えてるのよ~~~!!!!」




廊下へ響きわたる梨々花の声を周囲は更に心配そうに眺めていた。






いきなりのキャラ崩壊をおこした梨々花であったが、先についた幸太郎を見つけると急に冷静を装った。




「あら。さえない顔で梨々花の事を待ってるなんて無礼ね。」




「さえなくて悪かったな。」




先に進む幸太郎を周りにばれないように、丁度いい距離感を保ちながら進む。




(これじゃあ梨々花がストーカーしてるみたいじゃない。)




全然話もできない状況に嫌気がさした梨々花は、学校から離れるにつれてゆっくりとその距離を縮める。




ようやく2人が一緒に歩くまでに随分長い道を使ってしまった。




「・・・。」


「・・・。」




無言な帰り道ではあるが、なぜかそれが気まずいとか疲れるなどといった感じはしない。




むしろ“心地いい、落ち着く”といった状況に梨々花は不思議を覚えていた。




「幸太郎君はなぜ麗に勉強を教えているの?」




沈黙を破ったのは梨々花であった。




これは純粋な疑問である。




幸太郎の脳内をよぎったのは




“このことは内緒だよ!”といった春野和子の闇深い笑顔であった。




「別に・・・なんとなく。」




「なんか不自然すぎるわよね。まぁいいけど。」




勉強会は幸太郎に会える好都合な状況であるため、梨々花もそれ以上は考えないようにしたのであった。






「ほら、家見えてきたぞ。」




気が付けば見慣れた建物が並び、その先には夏目家の豪邸が広がっていた。




(早!帰り道早すぎるわよ!!!)




「今日もお疲れ。」




別れる空気になるが、それを避ける術を梨々花は持ち合わせていなかった。




「ええ。また明日。」




梨々花は仕方がなく大きな門をくぐる。




2つの影が離れていく。




(こういう時間はあっという間に過ぎていくのね。)




本日梨々花は、勉強では学べないことを一つ学んだのであった。




「ただいま。」




いつもより重く感じる体で、大きなドアを開ける。




「おかえりなさいませ。梨々花様。」




そこにはいつもと変わらず笑顔で出迎えてくれる桐の姿があった。




「今日は疲れたわ。」




“幸せで。”と梨々花は心の中で囁いた。




「そうでしたか。では鞄をお預かりいたします。」




「ありがとう。」




鞄を預けた梨々花は、その足で廊下へと足を運ぶ。




「やぁ、おかえり。遅かったね。」




「?!」




聞きなれない声といるはずのない存在を確認した梨々花は思わず立ち止まる。




「なんであなたがここにいるのかしら。」




「そんな怖い顔をしないでおくれ。」




爽やかな笑顔で立っていたのは“東條 響”であった。




「あなたの味方であるお母様はアメリカに旅立ったわよ。何しに来たのよ。」




「今日から一緒に住むことになったのだよ。」




「?!」




梨々花は自分の耳を疑った。




「一緒に住むですって?!」




この男は馬鹿なのか?




「誰がそんな変な考えに許可を出すものですか。」




「これは亮子さんが決めたことだよ。亮子さんの許可は出ている。」




お母様はいったい何を考えているの・・・


梨々花は怒りを通り越してあきれていた。




「梨々花は絶対に認めない。早く出ていきなさい。」




「君に認めてもらわなくてもかまわないよ。」




その言葉に、梨々花の頭では“プッツン”となにか切れる音がした。




「フフフ。あなたが出ていかないなら私が出ていくからいいわ。」




そういうと梨々花は進む方向を変えて玄関へと走った。




どうかしてるわ。


お母様もあの男も頭がどうかしている!!!




「梨々花様?!」




玄関を開けたとき後ろから桐の声がする。




「桐!梨々花は家を空けるわ。この家は任せたわよ!!!」




そう伝えると梨々花は勢いよく玄関を飛び出したのであった。




「梨々花様・・・鞄も待たずに大丈夫なのでしょうか・・・。」




桐は心配そうに梨々花の出ていった玄関を見た。




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今までもお母様に色々と仕掛けられた際に飛び出したことがあった。




しかし、現在はいつもと状況が少し違っていた。




「鞄が無いじゃない!!」




イライラしていたばっかりに手ぶらであることに気が付かなかった。




(携帯も財布もない・・・。)




だからといい今更家に帰ることもできず、ただ道をトボトボ歩いていた。




「え?!梨々花?!」




俯きながら歩いていた梨々花を驚かせたのは。




前から両手にスーパーの袋を持った幸太郎であった。




「こ・・・幸太郎君・・・・。」




「家に帰ったのに、どうしたんだ?」




知っている顔に安堵した梨々花はその場にしゃがみ込んだ。




「?!どうした?調子でも悪いのか?」




「ちょっとランニングをしていただけよ。」




「?状況がよくわからないけど。調子が悪いなら家までまた送るけど。」




「家には帰らない!!!」




駄々っ子家出美女に頭を抱える幸太郎の姿がそこにはあった。




“ぐぅぅぅぅぅう~”




しゃがみ込んだ梨々花から聞こえたのはお腹の音であった。




「?!」


「??」




今の絶対に聞こえたじゃない!!


なんか言い訳を・・・




「お腹空いてるのか?」




「別に。」




“ぐぅっぅぅうぅぅ~”




梨々花のお腹は正直であった。




「なによ。お腹が鳴ってるけどなにか文句ある?」




「別にお腹ぐらい誰でも鳴るだろ。」




「今日はほんとに最悪な日だわ。消えたいくらいよ。」




ただならぬ梨々花の雰囲気を幸太郎は察する。




「俺の家、この辺だけど・・・飯食いに来る?」




「へぇ?」




予想外の言葉に次は変な声が出る。




「さちかもいるし。今から作るからすぐには食べれないけど。」




「・・・。」




(幸太郎君の家?・・・家?!)




「全力でお邪魔するわ!!」




さっきまでとは打って変わり全力の笑顔で梨々花は立ち上がった。






そして梨々花は幸太郎の家へと行くことになったのであった。






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夏は短し、恋せよ乙女 ぽんず @ponzponz

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