第27話 episode:27
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1日はあっという間に過ぎ、さちかを迎えに行ったその足で幸太郎は春野家を訪れていた。
「本物は初めて見るな・・・。」
「すご~~い!おっきなおうち!!」
大きな家にワクワクしているさちかを横に
幸太郎は重い腕を動かしてインターホンを鳴らす。
“はい。どちら様でしょうか?”
「佐々木幸太郎といいます。春野さん・・・じゃなくて麗さんに用事があってきました。」
少し緊張したせいか、幸太郎の声はいつもより少しかすれていた。
“麗様から聞いています。門をお進みください。”
言われた通りに門を進む2人は庭や玄関を見て、開いた口が塞がらなくなっていた。
「お兄ちゃん。ここ本当に友達の家なの?」
「友達じゃあないけど・・・。まさかこんな豪邸に住んでいるとは知らなかった。」
「幸太郎君~!!」
玄関の外では麗が笑顔で待ち構えていた。
「すごい家だな。」
「え?すごい?なにが~?」
「なにがって・・・。」
「木がたくさん植えてあってよく燃えそうとか?」
「いや、この場合はどう考えても家の大きさの話だと思いますけど。」
「大きさ?梨々花ちゃんの家のほうが大きいと思うけどね~!」
あはは~と軽く答える麗に幸太郎の目は点になる。
「本当にあなた方の感覚は一般常識と離れていますね。」
幸太郎はもう一度春野家を見渡しては、いかに自分が普段違う世界の人と関わっているのかを感じたのであった。
「それで用件は?」
「じゃあ早速本題なんだけど~「待っていたよ~~!」
麗の言葉をさえぎったのは走ってやってきた和子であった。
「あの・・・。」
「ごめんね!驚かしちゃったかな?」
「この人は私の母です~。いきなり登場するから驚いたよね~ごめんね!!」
(いきなり登場したことより・・・)
幸太郎は和子の手に握られている日本酒の瓶に目を向ける。
(こっちのほうが驚いてるかな・・・。)
「ほう~君が幸太郎君か!それに妹さんのさちかちゃんだね!みんなから話は聞いているよ~!さぁ!入って入って!」
幸太郎は“みんな”という単語に反応をするが後には引けない状況もあり、春野家の玄関をくぐった。
「すご~~い!!」
中も驚くほど広くさちかは、はしゃぎっぱなしであった。
「さちか、よそのおうちでうろうろしちゃだめだぞ?」
「は~い!!」
「2人は仲がいいのね~!」
和子はニコニコしながら客間へと案内した。
「さぁ、みんな後は頼むわよ~。」
中には何人かの使用人がメジャー等をもって待機していた。
「これはどういう・・・」
「あなたの寸法を頂戴するのよ~!」
「?!」
状況が読めない幸太郎はただ立ち尽くしていた。
「さちかちゃんは麗のお部屋においで~!!」
「?」
「いいよね~幸太郎君?」
「あぁ。」
そして訳も分からず幸太郎は部屋に残されたのであった。
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「さちかちゃん~ここが私の部屋だよ!」
「麗ちゃんのお部屋もすごく広いね~!!」
さちかは自分の家とほぼ同じ広さの部屋に驚く。
「さちかちゃんも少し体の大きさ測らせてね!」
そういうと麗はメジャーを取り出した。
「どうして?」
「さちかちゃんに浴衣のプレゼントをしようと思ってね~!」
ルンルンの麗は次々とさちかの体を測っていく。
「浴衣?!」
さちかの目は麗の一言によってキラキラと輝いていた。
「さちかちゃんは浴衣好き?」
「着たことないけど、大好き!!」
「着たことないの?!」
「さちかの家・・・びんぼーっていうの・・・。だからそんなわがまま言えないよ~!」
へへへ~と笑うさちかに麗は抱き着く。
「健気!!泣ける!さちかちゃんの浴衣はわたしが可愛いの選ぶからね!!」
その後も麗とさちかの2人はガールズトークで常に盛り上がったのであった。
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「あの・・・春野さん一体どういう状況なのですか?」
「あ~私の事は和子でいいよ!みんなそう呼ぶし~!」
「はい・・・。」
「これはね~簡単にいうと、賄賂ね。」
「賄賂?」
「そう。わ・い・ろ~!!」
「和子さん、サッパリ意味がわかりません。」
「梨々花ちゃんと夏祭りに行くのでしょ?」
和子は、ニコッと悪い笑顔を幸太郎へ向ける。
「?!」
「私の情報網をなめちゃダメよ~!」
「はい・・・。」
「その時に着る、浴衣を作るのよ。」
そのための寸法!とメジャーを片手にドヤ顔を決める。
「浴衣ですか?」
「そうよ~女がせっかくオシャレをしていくのに、男が普通じゃあ絵にならないわよ~!」
「そういうものですか・・・。」
幸太郎が鏡に映った自分を見る。
(どれだけ着飾っても、俺は普通だと思うけどな。)
「幸太郎君。あなたは素敵な人よ。もっと自分に自信を持ちなさい~。」
「自信なんて。それに俺は浴衣を頼めるほどお金を持っていませんよ。」
「そこは大丈夫よ~私がさちかちゃんの分もプレゼントをするわ。」
「そんなことは頼めません。」
「タダでなんて言ってないじゃない~。」
“賄賂”という単語が幸太郎の中で浮かぶ。
「なにか条件があるのですか?」
怪しい物の密売か、それとも誰かの暗殺とかか?と幸太郎は悪い答えをひたすら考える。
「察しがいいけど、幸太郎君が考えているようなことじゃないわよ~。」
“麗に勉強をしてもらうこと。”
和子は梨々花たちと同じ条件をだしたのであった。
「そんな事・・・」
「そんな事?あなたは麗の成績と性格をなめているわよ~。全然そんな事レベルじゃないわよ~!」
「どちらにしても、浴衣なんて高価なものは受け取れません。」
“ガラッ”
2人の話をさえぎったのは麗の部屋にいたさちかと麗であった。
「お兄ちゃん~!!麗ちゃんが浴衣をプレゼントしてくれるんだって!!」
浴衣で大はしゃぎをするさちかを見て幸太郎が固まる。
「さちかちゃん、浴衣着るのが夢だったんだって~!!」
麗の一言にさらに釘を打たれる。
「さぁ、幸太郎君?どうするの?」
和子は再び悪い笑顔を幸太郎へと向ける。
「・・・う。条件はわかりました。しかし、浴衣のお代金はいつか必ずお返しします。」
「ふふふ~律儀ね。条件の事、あなたならそう言ってくれると信じていたわ。」
和子の思惑通りに進み、幸太郎は深いため息をついた。
「お兄ちゃん!お祭り楽しみだね!!」
「当日、着付けをしてあげるから2人ともいらっしゃいね。」
「は~い!」「お願いします・・・。」
そうして佐々木兄妹と春野親子の初対面は幕を閉じたのであった。
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夜はあけて、現在は朝の教室。
梨々花は大量の教科書を片手に、とある人物の机に向かっていた。
「あ!梨々花ちゃん~おはよう~!今日は早いね!」
麗の机の上には、大量の旅行パンフレットが並んでいた。
「今年の夏休みはどこに行こうか~迷ってるんだよね!」
ハワイは行き飽きちゃったし~グアムもいいな~逆にヨーロッパとかアメリカも・・・
ペラペラとページをめくる麗の机に、大量の教科書を置く。
「ん?なぁに?これ?」
仁王立ちしている梨々花に麗は顔色を変える。
「麗。勉強をするのよ。全力で。」
「今なんて?」
「べ・ん・きょ・う!!」
「・・・?!」
「今日の放課後から始めるからね!秘密の花園に連絡をいれておきなさい!」
わかったわね?とさらに睨みをきかす。
「ぃゃだ!!」
「今なんて?」
「いや~~~~~~~だ~~~~~!!!!!!」
麗はアンハッピーな誘いに席を立ち廊下へと飛び出す。
「逃がさないわよ!真琴!華恋!!」
廊下にはよく知る2人の人物が並んでいた。
「勉強を嫌がる悪い子は~どこの誰かな~~~?」
「もう逃げられない。」
真琴と華恋は並んで麗を待ち構えていた。
「絶対に勉強なんてしないもん~~!」
反対側へと逃げようとした麗の視線に映ったのは
「春野さん。今日から勉強をしてもらいますよ。」
「幸太郎君?!?!」
「「「?!」」」
幸太郎の登場に麗は逃げる足を止めて、廊下にしゃがみ込む。
「なんで幸太郎君が?!」
あとから廊下に出てきた梨々花も目を疑う。
「勉強なんて・・・絶対にいや~~~~!!!!!!」
朝の廊下には、状況が読めない4人の視線と麗の悲鳴が響いていたのであった。
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