第33話

「ひょうり ただしき、さん…」

「ハハハ、音だけじゃ分からないよね、私の親も一体どういうつもりで付けたのか。苗字も苗字で珍しいのに下の名前も難しいとは、小さい頃は本当に苦労したよ」

神主…ではなく俵里さんの目線はこちらを向いているが、意識は僕を飛び越えて遠い過去を思い出しているようだ。

「いやー。こんな場所で仕事をしていると、自分の名前を新しく教える機会なんて滅多にないからね。久し振りに新鮮な反応を見れて嬉しいよ」

悪戯をした子どもの様な顔をする俵里さんは、やはり鑑定屋の兄弟だと僕は思う。



「さて、軽く自己紹介も終わったことでしょうし、本題に入らせてもらっても良いかしら」

テーブルにコトンと湯呑を置く柚木さん。

「ああ、そうだったね。新しい友人が出来たことに、つい嬉しくなって口が軽くなってしまっていたよ」

俵里さんは、いつの間にか取り出していた扇子で扇ぐ。

「本題って言ってもね、実のところ最近はホットな話題が全然無いんだよね。ユウト君の件が一番盛り上がったくらいなんだ」

「どんな小さなことでも良いから、変化があったことを教えてちょうだい」

「そうだね…」

俵里さんは扇子を閉じて、その先を顎に当てる。

「私たちには何の関係もないことだけれど、この街に”狩人”が入ったらしいよ」

「またよりによって血生臭い奴らが来たわね」

「お陰で街の空気がピリピリしていて居心地が悪くなってね」

俵里さんは眉間に皺を寄せた。

「来る人来る人みんな殺気立っていて私も気が滅入りそうですよ。そうだ!夏木の御令嬢、私のボディーガードとしてアルバイトをするっていうのはどうです?」

「私があなたのボディーガード?そんなもの必要がない癖に何を言っているのよ」

「こう見えて怖がりさんな性格なんで強盗なんて現れた日には、有りもの全部持っていかれてしまうよ」

俵里さんは身体を縮めてブルブルと震える素振りをする。

対する柚木さんは、その姿を見てハイハイと手を振る。

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僕と彼女と怪異と。 やまむら @yamamura

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