第5話
「おい。この棚も運びだそう。そっち側を持ってくれ。」
「はい。」
「これが終わったら、次は冷蔵庫だな。」
便利屋が男の部屋にあるものを整理していた。
あれから2週間後、男性の親族がたまたま部屋を訪ねてくると、男性は死んでいた。風呂場で倒れており、両手には丸い水晶玉が大事そうに抱かれていたそうだ。
「気味の悪い水晶玉ね。
ダンボールに入れてゴミ捨て場に持っていきましょう。」
男性の親族が何か感じたのか、台座ごとダンボールに入れゴミ捨て場に持っていってしまった。
便利屋もリサイクルできそうなものが終わって不用品をゴミ捨て場に持ってきた。
「ずいぶん大きい水晶玉ですね。」
「そうなのよ。兄にこういうのを集める趣味はなかったと思うから、不思議よ。」
「あとは、衣料を整理すれば終わりますよ。」
「本当?助かるわ。女一人じゃとても片づけられなかったもの。」
捨てるものは捨て、リサイクルするものはトラックで運びだし、全ての処分が終わったのは夜だった。整理が終わり、妹が男性の遺体を改めて見た。ひどい風貌になって腐敗が始まっていたが、表情は嬉しそうにしていた。それがまた疑問だった。
全員が帰ったあと、ゴミ捨て場に人影があった。
あの骨董品店の店主だ。黒い外套に黒い帽子を被り、肩までの白髪を一つにまとめている。
「幸せな夢の中で眠ることになりましたね・・・。
この水晶はまた貰っていくことにしましょう。」
ダンボールをひょいと手に取ると自分の黒い車の荷台に乗せて、夜の闇の中に車を走らせていった。
人魚の水槽 タナカアヤ @ayatem
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます