第4話

「こっちへおいでよ」


クスクスクス・・・


「こっちへおいでよ」


クスクスクス・・・


人魚の声と笑い声がそこら中から聞こえて、光が目の前を乱反射していた。

眩しすぎて何も見えないため目を閉じていた。


ふと手に冷たい指の感触がした。

冷たいながらも、ぼくの両手を強く握っている。


「目を開けてみて」


ぼくは、おそるおそる目を開けた。

目の前で人魚が光る薄い水色の目で笑っていた。


「本当に・・・ぼくは・・・」


息はしている。確かに水の中で、周りは光を受けた水泡がたくさん浮かんでいる。


「ようこそ。一緒に泳ぎましょう。」


ぼくの右手を左手でつかんだまま人魚は泳ぎだした。

それに合わせて様々な色をした光も後ろへ流れていく。水の流れと水泡と光が次々に現れては消えていく。

まるで自分が水そのものになって流れて行っているみたいだった。

エメラルドグリーンの水の中を紫、オレンジ、黄色などいろんな光が飛び散る。そこへ金や銀の網のようなうねりがレースのように覆いかぶさってくる。


しばらく泳ぐと暗い紺色の水の世界にやってきた。

そこにはぽっかりと三日月が浮かんでいる。


人魚と二人での三日月の上に座った。


「信じられないぐらい綺麗だった。まるで夢でも見てるみたいだよ!」


ぼくは興奮して頬を紅潮させながら言った。

人魚は満足気にほほ笑むと手を上に向けた。すると、丸い宝石の塊のようなものがキラキラ光りながら虚空から落ちてきた。それをひょいとぼくの口に入れた。

食べたことのない不思議な味がした。


「これはなんだい?」


「それは”夢”よ。人の夢。わたしたちはそれを食べて生きてるのよ。」


どこか冷たい光を目に浮かべて人魚は、自分もその塊を口に入れた。

三日月の柔らかい光を受けて人魚の白銀の髪も優雅に輝いていた。


「ぼくは幸せ者だよ。

君みたいな綺麗な人とここでずっといられるんだから。」


人魚の長くゆるやかにウェーブに波打つ白銀の髪に手を触れてみた。

それは驚くほど水のようだった。


「私ももう一人ぼっちじゃない。

あたながいて寂しくないから嬉しい。」


人魚の冷たい白い手がぼくの頬に触れた。






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