第3話




昨日はなかなか寝付けなかった。


なんでか花山くんの柔らかな笑顔が頭から離れなかった。


でも、花山くんて…



「果乃、お昼たーべよっ」


「うん、お腹減ったね」


夏子が私の席にきてお弁当を机に置いた。



「ねえねえ、千景〜。今日みんなでカラオケ行くけど、いかなあい?」


「俺、今日バイトあるから」


「え!千景バイトしてんの⁈どこでどこで⁈」

「私も、千景いるならそこでバイトしたーい」


「お前らな、千景にだってプライベートはあんだろうよ」


花山くんの周りにはお昼休みになると人だかりができていた。男子はいつも固定して隣の席の佐藤くんたちだけど、女子は代わる代わるいろんな人がくる。


今だって学年で一番可愛い、名前なんだっけ…


その子が話しかけに来ている。



「果乃、相変わらず人気者だね、花山」


花山くんに背中を向けている状態の夏子は小声で言った。


「本当に、まあ、でもなんかわかるわ」


「あれ、果乃?そんなに花山と知り合いだっけ」


「あ、いや、そんなしゃべったこととかはないけど、雰囲気?」


「ああ、雰囲気か。でも花山どこでバイトしてるんだろうね?」


「あー。ね、きっとバイトでも人気者だろうね」


もしかして昨日のがバイトかもしれない。でも、なんとなく夏子にいうのも違う気がする、というか自分だけの秘密にして言いたくなかっただけかも。


気がつくとお昼の時間は終わりに近づいていて、花山くんの周りの人たちも自分たちの教室に戻っていた。


「あ、5時間目始まる」


「本当だ、私ちょっと教科書借りてくる!忘れたんだった!」


「いってらっしゃーい」


夏子が教科書を借りに行ったところで、今日のお昼休みが終わった。






「はい、号令~」


先生の号令とともに5時間目が始まった。


「プリント配るぞー」


前から回ってきたプリントが花山くんから私の手に渡る。


「中川さん」


「へ?」



プリント、



と、四つに折られたノートの切れ端だった。


「何これ…」


そう言いかけたけど、花山くんは前を向いてしまった。

ええ…何よ。




ノートの切れ端を開いてみた。

花山くんの字…綺麗。

男の子とは思えないような丁寧な字で書いてあったのは


「え…」







今日、もう一回じいちゃんの店来てくれない?

俺、バイトだから。








やっぱりバイトだったんだ、とか。

なんで手紙、とか。

花山くん私になんの用事?とか。


気になることはいっぱいあるんだけど…


花山くんの背中を見つめながら、一瞬でいろんなことが駆け巡る。そもそもこれ、どうやって返事するの?




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