第2話
「果乃はもう帰るの?」
「うん、わたし帰宅部代表」
「何言ってんだ、じゃあまた明日ね」
カラカラと笑って夏子が言う。夏子はバスケ部でも活躍していて、練習も手を抜いていないのはきっと夏子の良いところなんだろう。
「もうすぐ試合だね、応援いくね」
「ありがとう!果乃もバスケ部入ればよかったのに」
「今更だよ〜、じゃあまた明日」
「うん、バイバイ」
中学ではバスケ部だった。でも、今は帰宅部だ。夏子の頑張りを見ていると、たまにギュっと心が熱くなる。
「寄り道しよっか」
熱い気持ちはやり場がなくて、そのまま家に帰ったってなんか虚しくなるだけだ。私はいつもならまっすぐの道を左に曲がった。
「せま…」
だんだんと狭くなる道。
垣根と垣根が徐々にくっつくように狭まってくる。もしかして行き止まり?
「お、穴」
垣根の下の方に人がギリギリ通れる穴がある。
ガサガサと枝にぶつかりながら穴を抜ける。
「…綺麗」
そこには石畳みの坂道と町並みが広がっていた。少しずつ出てきた夕焼けに町全体が赤く染まってきていた。
ふと、目にとまった看板に
〝雑貨屋こちら
と、書かれた黒板が置いてある。
文字ですら味のある雰囲気。
カランカランと店内に響くチャイム。なんとなく私は雑貨屋に入っていた。
店内にはひとつひとつ違った味を出している小物や、ヘアゴム、ピンにアクセサリー。どれも違ってすごくかわいい。
ヘアピンくらいなら。
シンプルにストレートな黒髪の私の髪にも合うかもしれない、そんな浮かれた気持ちにさせてしまうほど、本当に可愛い商品ばかりだった。
「じいちゃん、変わるよ」
誰かの声にハッとした。それほど私は夢中になっていたのか。
「え、花山くん?」
声の主は間違いなくあの花山くんだった。
「あ、中川さん」
驚いた様子の花山くん。
「それじゃあ、千景、あとは頼んだ」
「いってらっしゃい」
おじいさんを見送ってしばらく沈黙。
「中川さん、家この辺?」
「あ、えと、いや…」
「あ、中川さん。俺のことわかる?席前後の…」
「わ、わかるよ」
いや、あなたは有名人だよ。むしろ私を知っていたのが驚きだよ。
「あ、えっと、1年間よろしく、中川さん」
照れたように柔らかく笑い、その髪の毛が窓から差し込む夕陽に透けていて綺麗だった。
「うん、よろしく…」
すごく見とれた。
そしてすごく緊張した。
「なんか、緊張する」
「え、花山くんが?」
「うん、俺緊張するタイプ」
「そんな風に見えないね」
「そう?」
花山くんがモテる理由がわかる気がする。
「あ、もうこんな時間!」
「5時だね、急ぎ?」
「うち6歳の弟がいて、今日親いないから」
「そっか、じゃあまた明日、学校で」
「うん、バイバイ」
勢いよく扉を開けて、外にでた。
その日、私は透き通るような、花山千景を見た。
今までは後ろ姿だけだったから、なんかくすぐったいような、そんな感覚。
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