第3話

少女が目覚めたのは、温かなベッドの上だった。


「きっとここは天国なんだわ!お父さん!お母さん!」


そう言ってドアを開けると、豪華な調度品が並ぶリビングのソファには、両親ではなく、一人の紳士が座っていた。


「やぁ、目が覚めたかい?」


それから少女は『御主人様』のお屋敷で生活することになった。お屋敷には少女のような子が何人もいた。


「はい、先生。答えは75です」


お屋敷の中には教室があり、昼間はそこで勉強をした。少女は『マリア』と呼ばれた。


「マリアは歌が上手だね」


午後、御主人様が帰られると少女達は御主人様の側でそれぞれ好きなことをして過ごす。絵の上手な子、ピアノの上手な子、ダンスの上手な子。マリアは歌が得意だった。御主人様は歌も躍りもピアノも何でも出来て、みんなに教えてくれた。


「マリア、歌っておくれ」


御主人様の為に心を込めて歌う。それが何よりの喜びだった。





「さあ、みんな出掛けるよ」


休日には御主人様はみんなを連れ出した。

そうは言っても、お屋敷の敷地内だった。

お屋敷には遊園地も動物園も映画館もあってサンドイッチやクッキーをバスケットに詰めて暗くなるまで遊んだ。


一度だけ、御主人様はお屋敷以外のとても大きな遊園地を1日貸切りにしてみんなを招待してくれたことがある。あんなに楽しかったことは生まれて初めてで、やっぱりここは天国なんだとマリアは思った。






マリアが18歳になったある冬の朝。


「お前は側にいておくれ。私の後を継いで欲しい」


御主人様は震える手でマリアの手を握り、そう言った。18歳になると皆このお屋敷から出てゆく決まりだったが、マリアだけは違った。


「この世界を、より良い場所に…」


そう言って御主人様は天に召された。

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