怨毒鳥、笑みを捨て
白河の清きに……
学校生活とは、たった一人の生徒で構成されるものでは無い。様々な性格、思想、立場、状況を備えた大量の生徒達が、時に笑い合い、時にぶつかり合って生まれる「共生環境」である。
学校祭――《仙花祭》の三日目、そして最終日を迎えた今日、花ヶ岡の生徒達の多くは笑顔で最後の瞬間まで楽しみ続けた。
以下は、ある生徒同士の会話である。
やっほー、斗路ちゃん。凄いお客さんだったねぇ今年も。
お疲れ様です、矧名さん。矧名さんには色々とご迷惑をお掛けして……至らぬ私をお赦し下さい。
いやいや、流石は斗路ちゃんだなぁって思っていたんだぁ。…………それでね。ちょっと話があるんだぁ。今、時間…………良いかなぁ。
えぇ、大丈夫ですよ。どうされましたか?
……誰もいないよね。
はい?
……その、ね。私……目付役を辞めようと思うんだ。
………………訳をお伺いしても?
詳しくは聞かないで欲しいな。唯、その……色々と疲れちゃって。
……もし、札問いの立ち会いによるものでしたら、無理に参加しなくとも良いのですよ? 矧名さんは多くの生徒から支持を得ていますし、技法の講習会専門、という風に――。
うぅん。それも、ちょっと疲れるから。ごめんね。本当に身勝手なんだけど、もう、一杯一杯なんだ。
……申し訳ありません、私が矧名さんがご無理をなさっているのを気付いていれば……。
止めてよ、斗路ちゃんは何も悪く無いから。ほら、目付役って色々と責任も生じるじゃない? やっぱり私には辛かったんだなぁって……。
はい……。でも、寂しくなりますね……。
だからさ、そこで一つ……私も考えたんだ。今まで一杯斗路ちゃんにお世話になったから、何か少しでも、恩返ししたいなって。
恩返しだなんてそんな……お気持ちだけで充分です。
私、詳しいじゃない?
えぇ、矧名さんのお陰で、対処法講習会も大変に有意義なものに……。
そこでね。金花会の外郭団体的なものを作ったらどうかなーって思ったの。
外郭団体……と言いますと?
結局さ、賀留多の場から
確かに目付役だけでは完全な取り締まりは難しいでしょうが、しかし……そういった事は初めてですから……。
最初は難しいよ、失敗も多い。これは分かっているよ。でも……
……賀留多の免許制、ですか。正直、私としては余りに息が詰まるような気がして……。
だよね、やっぱりそうだよね。考えていた時、私もやり過ぎかなって思ったもん。けれど…………悪い人はいる。このままだったら、花ヶ岡は無法地帯になっちゃうかも。最初はキツく縛っちゃうけど、しばらく様子を見て、緩めるってのもアリだと思うなぁ。
矧名さんの仰る事は正しいと思います。唯、ある程度の緩みは……賀留多文化の平和的維持に不可欠だと考えます。『白河の、清きに魚も住みかねて――』ともありますし。
流石は斗路ちゃん。深謀遠慮こそが目付役だもんね。……じゃあさ、こう考えたらどうかな。目付役の負担を減らす為に外郭団体を設立する、って感じ。時々辞めちゃう子もいるでしょ、あんまり負担が大き過ぎて……。私もその一人なんだけどさ……。
確かに……私達と同時期に試験を合格した方も、大分辞められましたね……。
まだ引っ掛かるなぁ、って感じ?
……申し訳ありません。私は生来が変化に馴染めないものでして……。
いやいや、謝る事じゃないよぉ。斗路ちゃんみたいに慎重派がいるからこそ、私も、何て言うのかな、ドドーンと派手な意見を出せる訳で。それに――斗路ちゃんぐらいだもん、私の話を真剣に聴いてくれるのは。
そのような事は無いと思いますが……矧名さんのお話をいつも皆さんは興味深く聴いているかと。
ううん。聴いていないねぇ。正確には……面倒臭い女だって思われている気がしてさぁ……。
まさかそのような事は……。
賀留多の免許制の件だってそうだよ、それとなーく斗路ちゃん以外の人に話してみたんだけどね。皆が「なるほどねー」とか、「そういう考えもあるなー」とか……生返事って感じなの。だから……斗路ちゃんが聴いてくれて、意見も言ってくれて……本当に嬉しかったんだぁ。
…………。
だーかーら。これからも斗路ちゃんを助けたいなって考えたから、そして――花ヶ岡の大事な文化を守りたい。私は目付役を降りるけど……賀留多への愛情まで無くなった訳じゃないよ!
…………。
これからも、ずっとよろしくね、斗路ちゃん!
……えぇ、此方こそ……。
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