『ユートピア』


「―――!」


「……――っがぁ!」


 掠れながらも絞り出せるようになった声。嫌に不健康な白い光に照らされた部屋の中、細めた目が壁に貼られたポスターを捉える。


「『ユートピア』……」


 懐かしい文字列を読み上げると、三世紀近く前に聞いた無機質な説明を思い出した。

_____________________________________


「我々LNEが提案するテラフォーミングプロジェクト『ユートピア』は完全無欠の計画です」

「最新鋭のロボット群による地球環境の改善及び電脳上の仮想空間による幸せな生活を保障。無論費用はLNEが全て負担いたします」

「みなさまは少し長い夢を見ているだけ……その間にこの腐れ切った星は緑あふれるユートピア理想郷へと変貌を遂げるでしょう」

_____________________________________


 人間のコールドスリープが技術的に確立し、医療等の観点から使用も許可されたのが2019年。国際環境連盟(通称LNE)は環境汚染により人間が生息するには適さなくなりつつあった地球を再生させることを目標とし、超長期プロジェクトを立ち上げた。


 人間をコールドスリープさせて意識のみを電脳上に隔離。死ぬことも終わることもない安全な生活を提供する。その間地球ではロボットが環境整備を行う事で地球は甦り、人間の居住地としての質を取り戻す。


「嘘だろ……愛衣……」


 戻ってきた。それはつまり今までの282年がまやかし電脳に戻ったことも意味していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三度目の人生はディストピアで にとろげん @nitrogen1105

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ