終
あれからの有給休暇は特にやることもなくて、テレビをつけて、部屋に転がっているだけの毎日だった。
目にも留まらない早さで時間が流れる。もんやりも少しずつ流れ出して、気が付けばもう二週間が経っていた。
同棲していた部屋を目指したせいか、彼が世界から居なくなった今では幽霊としてそこに居るような気がして、会えなかったあの数日よりも寂しくは無かった。
電車越しのデートを続けていた頃なんかより、よっぽど身近に感じているからなのか、眠ると決まって彼が夢に出て来る。夢だから内容なんてすぐに薄れてしまうけど、彼が出てきたことだけはちゃんと覚えていて、その度、彼という存在を追っているだけに思えた。
自分の中で彼が消費されて、どんどん小さく曖昧になる。
同時にもんやりも何処かへ消えて、だんだん心が楽になる。
それがもんやりを晴らす方法なのかと、気が付けば涙を流していた。
『あれからもう五年ですか。早いですね』
テレビから向こう側のニュース番組が流れていた。怪異を閉じこめた日の特集だ。
『当時は色々な商業施設を犠牲にする訳ですから、かなり反発もあったみたいですけど、希少生物の数が安定するにともなって経済も落ち着いて……』
いったいそこに何の関係性があるのだろう。希少動物の出荷をしているでもあるまいに。
『だから、結界の維持のために進んで入った陰陽師の方には、頑張っていただいて……』
本当は国が陰陽師の力を危惧して結界の中に閉じこめたというのに、国が書いた台本通りに綺麗ごとをキャスターが話す。
半分妖怪だから出られないし、怪異からしたら閉じこめた本人なのだから、不満の矛先を向ける先になって、国としては良いことしかない。
だから、私はここに居る。居なくちゃいけない。
今日も、明日も、これからも、彼の偽物に囲まれ、もんやりを忘れてしまわないように。
仕方がないを繰り返しながら──
山手線の内側には化物が住んでいる 阿尾鈴悟 @hideephemera
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