カウンター越しの女

寂尊・D・世良

第1話

会社員 28歳 会社員終わりにいつものスナックに行くのが楽しみ、スナックの女に逢うのが楽しみか。

それぐらいしか楽しみのない男。趣味なし女なし。

ここ半年通い続けているが、いつ行っても必ず居るスナックの女に恋心を寄せる、少し単純なのがこの男の良い所かもしれない。

話をしたくても自分から声をかけられない。声をかけてくるのを今日も待っている。

クールビューティー、彼女を表す言葉がこれで合ってるのか、でもこれ以上の素晴らしい言葉を知らないこの男には十二分に表現できているだろう。

今日もその横顔に見惚れてしまう。

女が視線に気付いてこちらに目を向ける、自分は目を逸らす。

甘ったるくもない、冷た過ぎでもない、スナックの女が声をかける、いつものパターンだ。


何時もいる事にある日疑問を持つ。

営業で昼間そのスナックの前を通った時、スナックの女は店先を掃除していた。

太陽の下で見るスナックの女はやはり美しかった、通り過ぎるとき、自分に気付いたのか、軽く会釈してきた。自分も軽く会釈を返す。

スタッフが店先の掃除をする、至極当たり前の事だと思った、むしろ好感を得た。


が、その考えはスナックを通り過ぎて駅まで向かう道の途中で気付いた。

前日、いや、今朝5時頃まであの店で、自分はあの店であの女と呑んでいた。

歩いてきた道を振り返った、20メートルも離れていない先でスナックの女は近所のオバサンと楽しそうに話していた。

着物は代わっているが、確かにあの女だった。

自分はまだ若い、1日寝ないぐらい大したことではないだろう、が、あの女はお世辞にも若いとは言えない。

丁度良く熟した女。今が最も実っているとでも言えばいいのか、とりあえず20代だったのはそれなりに昔に当てはまるだろう。

とにかく体力の問題や、睡眠のことを考えるとスナックの女が今そこで掃除してるのは少し違和感を感じた。

 今日も行ってみるか。

流石に今日行っても休んでいるだろうが、何故か休んでいることを確認しないことには落ち着かなくなってしまう、そんな確信に似た疑問が自分の胸をチクリと突いてきた。



 仕事終わり、今日は普段より早くスナックにたどり着いた。昼間のことが気になり仕事を早く終わらせてきたのだ。

スナックの前に立つ。

溜飲を下げる。

ネクタイを緩める。

深く呼吸をする。

なぜだ、いつもはこんなではない。

店先に着いて5分は経っているだろう、なかなか入れない。

何を臆している、何にだ?

妙な感覚に体を支配されている。

1歩が出せない、偶然店に入る他の客がいれば自分もその波に乗って入れる、それが平日、それもスナックに辿り着くには少し早い時間帯、それは望みが薄く思えた。

店の中からは笑い声が聞こえる。

よし。

意を決して入る。

カウンターのみで、8人も入ればいっぱいのスナックは店に入ればすぐに店の中全てを見渡せる。


見渡せた、見渡せたカウンター越しに女はいた。

一目見て分かる女がいた。

女の前に座る、昼間と同様軽く会釈してくる。

先ほどのことが嘘のように落ち着いていた。

納得出来たんだ。何故何時も居るのか。

簡単なことだったんだ。

コースターの上にはいつも頼む水割りが作られていく。

乾き物が差し出される。

彼女達はクールビューティーだった。

「「どっちに気があるんですか?」」

双子ならではのシンクロ率は見た目だけではなく、

男心をくすぐる内面もリンクしていた。

僕はこれからもここに通うだろう、

カウンター越しの女を求めに。

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カウンター越しの女 寂尊・D・世良 @jack_d_sera0522

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