お仕事その10 「竜なんて瞬殺ですよ」

「ん~、今日も疲れた・・・」


やっと明日休みとれた・・・。

ここ最近ずっと働いていたからさすがにヘトヘトだよ。

今日はもうゆっくり寝よ・・・。


異世界転生管理局。

それは何も、職場だけでの仕事ではない。


ジリリリリッ!


「・・・んぁ・・・?」


ジリリリリリッ!


「・・・電話ぁ・・・?なんだよ、こんな遅くに・・・」


ぐっすりと寝ていた真夜中に、耳をつんざくような大きな音で無理やり目を覚まされた。しかもこの音、緊急連絡のときになるやつじゃん・・・。

うわー、いやな予感しかしない・・・。


「はい、レインですけど・・・」

「レーネぇぇぇ!!」

「・・・お休みなさない」

「ちょ、待って待って!私の声を聴いた瞬間に電話切ろうとしないで!まだ何も言ってないから!」

「・・・何か聞く前に私は夢の中に逃げたい・・・」


てんやわんやな焦りきった声が受話器の向こうから聞こえてくる。

異局・転生課所属 ワルツ・ル・ワッパー。私の同期の女の子だ。


「・・・なによ、ワルツ・・・。今度は何したっての・・・」


一言でいえばトラブルメーカー。

この子に関わるとろくなことが起きやしない。


「ほら、つい先日、異世界に送る契約をしたお客様がいたじゃない?」

「ああ、珍しくしっかりとしたお客さんだった人ね。お金も景気よく払ってくれて、確か、大分いい状態で向こうに送り出したはずだけど」

「うん、その人。最強の『邪竜』として転生する契約になってたんだけど・・・。その・・・」

「その・・・?」

「・・・。あ、あははは」

「なに、その乾いた笑い!?怖すぎるから止めて!」


事実、ワルツがやったミスのせいでこの異局が潰れそうになったこともあったりなかったりする。ホント、今度は何をしでかして・・・。


「・・・そのー、間違えちゃって・・・」

「・・・間違えた?一体何を・・・」

「・・・転生後の姿を」

「・・・つまり、邪竜じゃない姿にしちゃったってわけね・・・」

「・・・はい」

「・・・はぁ、何やってんの・・・」


異世界に転生された人物は、この異局での契約の記憶はない。つまり、『邪竜』の契約をしていてその姿以外になったとしても、本人は間違えられたと思うことは一切ない。でも、お金はもらっているわけだし、もし姿を間違えて転生させたなんて知れたら、この異局の評判にかかわる。


「で?一体何の姿で送ったの」

「・・・む」

「え?」

「スライムに・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


絶句した。

開いた口が塞がらない。


「明日は久々のオフだし、買い物でもいこっかな。なに買おう」

「待ってよ、レーネェェェェ!!お願いぃぃ、見捨てないでぇぇぇえええ。この恩は絶対返すからぁぁああああ」

「服でも買おっかな、結構奮発してもいいかも」

「お願いぃぃぃいいいい、聞いてぇぇぇええええ!!大体、レーネ、新しい服買っても見せる相手いないでしょぉ!」

「あーもう、分かったから耳元でそんな叫ばないで・・・って、ちょっと今、ワルツ何て言った?」

「え?な、なにも言ってないヨ?」

「すげー失礼なこと言ったよね?」

「き、きき、気のせいダヨ?」


・・・まぁいい、とりあえず後でとっちめよう。

今が刻一刻と争うのは事実だしね・・・。


「この件はまだ誰にもバレてないんでしょうね」

「うん、転生してからすぐ気づいたから・・・」

「わかったよ、じゃあさっさと証拠を隠滅しに行くから、異局に集合ね」


---------


「依頼者を送った異世界って名前なんてったっけ?」

「『ラドルヴェ』だよ」

「ラドルヴェか。えっとラドルヴェのマスターキーはどこだったっけ・・・」

「それにしても、どこを見ても鍵ばっかり・・・。こんなとこあるんだね。私、初めて入ったよ」

「ま、転生課には縁ないところだろうしね」


私たちが来ていたのは異局にある異世界への鍵保管庫。

基本、緊急時にどうしても必要になったときのみ使用する、というのが原則で、私自身も滅多に利用しない。

ここの鍵を利用すれば、私たちがいる地球と特定の異世界を簡単に結ぶことができるし、特にマスターキーを使えば、座標を指定することでその異世界の特定の場所へと空間をつなげられてしまうので、過度の使用はいろいろと不要な影響を及ぼすからだ。


「依頼者の位置、感知できた?」

「うん、もうちょっと・・・。あ、いた。座標はね・・・」


ワルツに座標を聞き、準備完了だ。

私は心の中でその座標を思い描きながら、何もない空間に鍵を差し込み右に回す。

マスターキーの効力で、異世界への空間が開く。


「開け、ラドルヴェの扉」


------------


緑が広がる平穏な世界・ラドルヴェに到着っと。


「あ、いたよ、レーネ!」

「お、ホントだ」


そこにはぽつんと一匹青色のスライムが佇んでいた。

はぁ、あんな情けない姿にされてかわいそうに・・・。

ちゃっちゃと転生をやり直さないと。そう思っていたときだった。


「ぐるぅああああ!!」

「な、なにっ!?」


急にスライムの後ろの物陰から大きな声があがる。

どすんどすんと地面が響き、周囲に風が吹きすさぶ。


「あ、あれって、ゴーレム!?」


そこにはスライムの何十倍の大きさを持つ石の塊の化け物、ゴーレムが立っていた。


「ぐるぅあああああ!!」


ゴーレムは何の前触れもなく、途端に腕を振り下ろす。


「きゃあ!!」


離れたところにいる私たちでも立っていられなくなるほど地面が揺れる。

否、揺れるだとかそんな可愛い話ではない。地面が、割れた。


「やばいやばいやばいやばいって!!あのゴーレム、相当レベル高いって!このままじゃスライムの依頼者なんて簡単に殺されるって!」

「あたしが行く!!」

「ワルツっ!」

「あたしのミスなんだもん。絶対にあの人は殺させない!!」


ワルツがいつになく本気だ・・・!


「ぐぎゃぁぁぁぁあぁあああああ!」

「へ・・・?」

「な・・・?」


ワルツがスライムを助けようとしたとき、ゴーレムがまた大きな声を出した。

新たに周囲を破壊しようと意気込む雄叫び、ではない。

断末魔だった。


「・・・レーネ、あれって・・・」

「・・・うーん・・・?」


私たちが見た光景。

それはスライムである依頼者の体が、液体という特性を活かしてか、急にゴーレムの体を包み込むほどに大きくなり、一瞬でゴーレムを溶かしてしまった、というものだった。


「スライムって、物語序盤も序盤に出てくる雑魚敵じゃなかったっけ・・・?」


ワルツは思わず首をかしげる。同じ気持ちは私にもあった。


「・・・ちょっと待って。今、確認してみるから」


私は一通の電話を掛ける。


「はい、ラドルヴェ情報局です」

「私、異世界転生管理局地球支部総務課のレインと申します」

「あ、お世話になっております」

「お世話になっております。すみません、一つお伺いしたいのですが、この世界におけるスライムとはいったいどのような・・・」

「スライム!?レイン様、今スライムと対峙しているのですか!?」


私が言い終わる前に阿鼻叫喚といった声色が電話の向こうから聞こえてきた。

・・・え?そんなテンション?


「え、あ、いや、対峙・・・はしてないんですけど、その、情報として知りたくてですね」

「あ、あぁそうでしたか。えーと、スライムはですね、この世界にはびこる数多くの魔物と比肩しても屈指の危険生物です。出くわしたら即刻退散してください。死にますから」


死ぬの!?そんなにやばいの!?


「そ、そうなんですか・・・。えーと、ちなみになんですけど、竜と比べたら・・・」

「竜なんて瞬殺ですよ、相手になりません」

「へ、へぇ・・・。分かりました、ありがとうございました」


「・・・だってさ」

「・・・へぇ・・・。なんか、釈然としないけど・・・」

「ねぇ、ワルツ。確か依頼者の願望って邪竜になりたいというよりも最強になりたいって話だったよね?」

「うん」

「じゃあ・・・、いっか、このままで」

「え、いいの!?」

「だって、再転生の手続き楽じゃないからしないで済むならしたくないし。今の状況って正式な任務じゃないから保険の手続き超面倒だし・・・。あんまり長居しすぎると上の人にバレるかもだし。本人も見た感じエンジョイしてるみたいだし。・・・もういいって」


・・・まぁ、転生された本人からしてみれば、『スライム!?』ってなっただろうけど・・・、ここはひとつ、泣いてもらった。


【ちょっと教えて!異世界転生!】

Q、情報局って何?

A、その名の通り、その異世界の情報がわかる場所です。

総務課に所属のものはさまざまな情報が必要になりますので、あらゆる世界の情報局への電話番号を把握しています。加えて、不要に情報が漏えいしないよう、専用の端末で連絡しないと繋がらないようにもなっています。

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