お仕事その9 「孤高のフラミンゴ」

「僕~動物が好きで~」

「私もです、いいですよね、動物って」


動物系の異世界転生、それは主に二つに分けられる。

一つは、例えばテイマーなどに転生して、いろいろな動物のお世話をしたい、というもの。多種多様な生物が暮らす異世界において、人気の転生理由だ。

そしてもう一つ、こっちが今回の依頼者の願望だった。


「だから僕は~動物として生まれ変わりたくて~」


人間を辞めて他の動物になりたい。

こういった依頼も比較的多い。皆々人間社会に疲れきってるのか、それとも単純に人間にはないアニマルパワーが欲しいのか、理由はともあれ、動物転生は割かし人気なジャンルだったりする。


「かしこまりました。どの動物になりたいかはもう決めてあるんですか?」

「フラミンゴ」

「・・・はい?」

「だから~フラミンゴだってば~」

「・・・フラミンゴって、あのピンクのですよね?」

「逆にそれ以外のフラミンゴって知ってるの~?」

「いや、知りませんけど・・・」


・・・異世界転生は人気だから比較的よくあるとは言ったけれど、フラミンゴになりたいなんて依頼は初めてなんだけど。ニッチ過ぎない?


「その、本当にいいんですか?せっかく動物になれるのだとしたら、その、ライオンだとか熊だとか、屈強な動物の方がオススメですけど・・・」

「だって~、ライオンとか熊ってベタすぎるというかさ~。ありきたりなの選んでもつまんないし~」


いや、まぁ・・・。本人がいいならいいんだけど・・・。


「・・・わかりました、じゃあ動物はフラミンゴですね。ちなみになんですが、動物に転生して何をしたいんですか?」


この人、のんびりしている間延びした喋り方だし、適当にスローライフでもしたいのかな・・・。


「そんなの決まってるよ~。魔王討伐」

「そこはベタなんかい!!」


思わずつっこんでしまった。


「いやいや、よく考えてくださいよ!フラミンゴですよ?どう考えても魔王討伐に相応しい姿じゃないでしょ!大体、集団行動するフラミンゴ全員が魔王討伐に行きたいなんて思うわけ・・・」

「え~?別に集団戦術をとる気はないよ~?僕は孤高のフラミンゴとして、一匹で立ち向かうから~」

「なおさらに無理ゲーですって!!」


------------


「今日はよろしくお願いしますね、レーネさん」

「こ、こちらこそ、よろしくです、先輩・・・」

「いやですね、そんなに緊張しなくてもよろしいじゃありませんか。私とあなたの中なんですから」

「は、はぁ・・・」


あの後、いくら説得しても依頼者は決意を変えなかったので、私は異局の先輩、転生課のリリー・エドワーと仕事に来ていた。


清楚で可憐な一輪の花、という異名を持つ、異局の男性職員からも多大な人気を集める超絶美人だ。


以前紹介したデュラルは、主に人間を別の人間として生まれ変わらせることを専門としているけど、先輩は人間を別の種類の生物として生まれ変わらせることが専門だ。ただ、正直・・・この先輩とはあんまりいっしょに仕事をしたくないんだよな・・・。


「あ、いましたわね。あの方ですか、依頼者は?」

「ええ。そのー、先輩・・・」

「ええ、分かっています。今日は大丈夫ですから」


ホントかなぁ・・・。

先輩は腰に据えている日本刀を抜き、仕事を始める。


動物転生の場合、人間からまったく別の種族へと転生するため、前の状態を残しておくわけにはいかない。だから、ある程度は転生の対象になる方をばらばらにする必要がある。・・・ただ、ある程度、でいいんだけど・・・。


「あひ、あひひひひ・・・」

「ちょ、先輩・・・?」


・・・まずい。これ、やっぱりいつも通りの・・・。


「あひゃひゃひゃひゃ!!」

「ぎゃーーーーーー!!」


スプラッタ、スプラッタ・・・。

血しぶきをあげて依頼者の体が切り刻まれて・・・うっぷ。

思わず私は目を逸らす。仕事柄、何度かは見てるんだけどいつまでたってもゴア耐性はつかない。・・・先輩の場合やりすぎるから、むしろトラウマになりつつあるし・・・。


「き、気持ちぃ・・・きもひぃ・・・きもてぃ・・・」

「怖い怖い怖い!怖いから!!戻って来て、先輩!!」

「はっ!!」


私の必死な声掛けに、先輩は我を取り戻す。


「・・・わ、私、もしかしてまた、入ってました・・・?」

「・・・はい」

「うぅ~・・・」


かぁ~と先輩は顔を赤くする。

いつも穏やかでおしとやかな先輩だけれど、この切り刻む瞬間だけは人が変わったように興奮する。顔は紅潮し、よだれやら汗やらで体をびちょびちょに濡らしてるし・・・。そんな姿を見られて流石に恥ずかしいのだろう。


「また、やってしまいました・・・。治したいと思っているんですけど・・・。つい、興奮してしまって・・・。だって、だって・・・。人を切り刻むのって、さいっこうに気持ちがいいんですもの!」


・・・怖。この人、異局にいなかったら、絶対つかまってるよ・・・。

うーむ、異局にいなかったから、か。

ここ給料そこまでよくないし、もし私、異局を辞めたらどんな仕事があるのかな。

あ、そうだ。ここの経験を活かして、異世界専門のラノベ作家とか目指そうかな?

例えば今回のことで・・・。


『フラミンゴ転生!集団の中で一匹、魔王討伐を目指した件について』


とか!


「・・・ふっ」


・・・絶対売れねぇ・・・。


次回に続!


【ちょっと教えて!異世界転生!】

Q、動物転生ってもといた動物に憑依させればいいんじゃないの?

A、いえ、元の姿を動物の姿に変身させる形が一般的です。

多少、専門的なことを話すと、元いた動物に憑依させてしまうと、その動物の本能に従って行動してしまうので、今回のような人間目線のスローライフはできません。人としての自我を残したいという依頼がほとんどですが、完全に動物として生きたいという場合は単純に憑依させます。

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