僕の小説には吸引力が足りない
西藤有染
僕の小説には吸引力が足りない
小説家になるのが幼い頃からの夢だった。
その夢が、先日、ついに叶った。
人気若手作家たちの短編アンソロジーに、自分の作品が収録されたのだ。
たった1作品だけではあるが、それでも書籍化されたことには変わりない。
出版社から話が来たときは飛び上がって喜び、発売日には書店に行ってその本が本棚に並んでいるところを眺めては、気色悪い笑みを浮かべていた。それくらい嬉しかったのだ。
しかし、その喜びにいつまでも浸っていることはできなかった。
「どうして、誰も僕の話に触れてくれないんだ!」
作品を世に出したからには、やはり世間の反応が気になるというもの。
発売からしばらく経ってから、ネットやSNSで、自分の名前を検索してみたが、見事に誰にも触れられていなかった。レビューサイトを探しても、掲示板を探しても、自分の名前が1つもヒットしないのだ。
同じアンソロジーに収録されている他の作家さんの作品についての感想は、良く言うものにせよ悪く言うものにせよ、いくらでも見つけることができた。それなのに、自分の作品について触れている文章は一切見つけられなかった。
好きの反対は無関心とよく言うが、つまり、僕の小説は読者の関心を引けていないということだろう。
読者の関心を、興味を引くにはどうすれば良いのだろうか。何が足りないのだろうか。何が必要なのだろうか。
僕は三日三晩、寝食を惜しんで考え続けた。そして、三日目の夜が明けた頃、僕は答えに辿り着いた。
僕の小説に足りないのは、読者を
引き付ける力、つまり吸引力だ。
吸引力をつけるにはどうすれば良いのか。
さらに思考を重ね、1つの結論に辿り着いた。
そして、それを実現するべく、すぐに行動に移した。
月日が流れ、長い年月を要して、ついに求めていたものが完成した
これだけの吸引力があれば、読者を引き付けることができる。
そう信じて、僕は、この作品を世に送り出した。
●
彼が開発した単行本型掃除機は、小回りの効く本体と、その小ささからは想像出来ない程に強力な吸引力を兼ね備えた家電として、主婦の間で大ヒットした。単行本然とした見た目は、掃除機なのにインテリアとして部屋に置いておけると、さらに人気を呼んだ。
彼は、発明家として有名になった。
彼の作品が惹き付けたのは、読者ではなく、掃除好きの主婦たちであった。
僕の小説には吸引力が足りない 西藤有染 @Argentina_saito
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