プレイグ

美作為朝

プレイグ

 いつの時代でも水は貴重品だ。特にこのアフリカ大陸では。


 行田函太郎ゆきたかんたろう准教授は南アフリカ共和国のスタークフォンテン洞窟を抜けたところで、驚き立ち止まった。急に日差しが頭上から差し込んだのもあるが、眼の前に顔面が完全に見にくく朽ち果てたサファラーズが一人ぼっと立って行田の方を見ていたからだ。

 サファラーズの頬は朽ち落ち歯と歯さえも失った赤黒く変色した歯茎が見えている。

”どうした、函太郎かんたろう?”

「いえ、なんでもありません。死後状態の"Sサファラーズ"に出会っただけです」

”そうか、了解”

 スペルマン教授の声が完全防護スーツの骨伝導の通信機の通じて行田に届く。このウィルス性疾患コード・ブラックに対応する完全防護スーツを着ている限り感染、もしくは人の臭気によりサファラーズに襲われることがないことはわかっていても、人がサファラーズに襲われるとどうなるか散々映像を見ているだけに相変わらず全身から汗がどっと出る。

 それに、シャワーしかここ一年ほど浴びていないので、全身どこでもを汗が流れると痒くて仕方がない。

 しかし、このコード・ブラック対応のスーツでは掻けない。

 外は穏やかな南アの遅い春の太陽が照り、新鮮できれいな空気が満ち溢れているのに、謎の感染症、<LD>に罹患しないようにするためにはこのスーツがどうしても必要だ。

 そして、生きていくためには水が必要なことは海から陸上に上がった生物の必然だ。

 特殊警察や消防隊の化学防護班のような全身を覆っただぶだぶのオレンジのスーツを着て洞窟の近くまでスペルマン教授と二人で手作業でどうにか引いてきた水路までポリンタンクで18リットルの水を汲み行く。

 これを教授と3日交代で行っている。

 暫く歩くと、サファラーズが幾人ボロボロの衣服を着て南ア特有の赤土の土ホコリを巻き上げて歩いている。

 遠くを歩いている姿を見る限りは、日中暇を持て余したごく普通の散歩中の人たちだ。

 だが彼らは死んでいて生きている。いや生きていて死んでいるのか?

 彼らがほぼ人類を罹患させ食い尽くした今、ブリュッセルにあるWHOの国際疾病研究所の発表では自身の肉体の炭素と脂肪をほんの少しづつ酸化させエネルギーに変え行動しているという。

 タコが自身の足を食っているのと同じだ。

 しかし、国際疾病研究所はもうこの世に存在しない。集団のサファラーズに襲われたか隔離に失敗したかわからないが壊滅した。

 メディアも無い今、誰も教えてくれない。

 行田とスペルマン教授もこの<LD>についてささやかに研究しているがたった二人では臨床的推論、証明、実証にまでは到底いきつくはずはない。

 行田は膝を付き水を汲むとスタークフォンテン洞窟が入り口と化している、国際科学技術財団が人類の発祥の地とされる南アに建てたファーストマン研究所に18リットルつまり18キロ抱えて戻る。

 18キロはさすがに大の大人でも重い。体が傾く。

 いつも、このスタークフォンテン洞窟の暗がりに入ると少し落ち着く、最初のホモ・エレクトゥスも同じ気持ちだったのだろうか?。

「第一エアロック、お願いします」

”コントロール、コピー。第一エアロックオープン”

 スペルマンの声が響く。

 行田は力を入れポリタンクを持ち上げ高いセット位置に置きこれまた二人でDIYしたダクトに接続する。

 同時に、第一エアロックが閉じられ、よくある消毒用エタノールの噴霧を全身に受ける。

「第二エアロック、お願いします」

”コントロール、コピー。オブジェクト・フロム・アウトサイド、第二エアロックへ”

「こちら行田、ログ」

 第二エアロックに行田は進む。

 第二エアロックでは、霧状になった、塩素酸ナトリウムを強烈に噴霧される。両手を広げ脇の下まで浴びる行田。

 これで、終わり、このスーツのままセーフエリアのファーストマン研究所に入っていく。

 今のところ、この二つのエアロックで感染とサファラーズの侵入もついでに防げている。

 当初、<LD>は空気感染しないとEU系のヌミビアのの疾病対策センターでは言われていたがこの大間違いがタンザニアでの第一段階での封じ込め作戦を失敗に導き、いまだ生きている罹患者と医療関係者の50万人規模での焼却処分という人類史上始まって以来の意図的な命の選択、大量虐殺へと繋がりアフリカ全土で大暴動がおきた。

 だが、ときはすでに遅かった。もうすでにユーラシア大陸でも、中国、南米大陸でも罹患者は発見されていた。

 エアボーン、空気感染の威力は恐ろしい。事実上隔離する術がない。術がないわけではないが、罹患者が増えれば増えるほど不可能になる。

 グローバリゼーションの手助けもあるかもしれないが、アフリカ大陸から南北アメリカ大陸まで5500キロをたった一週間で<LD>は駆け抜けていった。

 <LD>の病原体はウィルスの大きさと言われる。WHOの顕微鏡写真でもその姿が確認されている。他のウィルスと見た目は何一つ変わらない。

 人体内での潜伏期間は2日。接触してほぼ100%の人間が発病する。例外はない。罹患して臨床的に回復した症例も今の所ゼロ。

 人体に取り込み、3日後、患者は高熱が出て苦しむ。高熱は45度に達しそれと同時に意識を失い痙攣とはまた違う凶暴性をみせ、他人、モノすべてを襲い破壊する。

 とりわけ人には恐ろしい攻撃性をみせ、ありとあらゆる攻撃方を用いいて襲いかかる。

 噛み付く、引っかく、当初はこのときの接触感染で感染すると思われていたわけだがそれもしょうがないといえるかもしれない。

 獣のようの暴れるのはこの高熱が出てからの24時間だけで、24時間後臨床的、医学的には患者は死に至る。すくなくとも心臓の動きは通常の1/8に落ち、血圧もほぼゼロに低下する。仮死状態に陥る。

 この<LD>に罹患した患者にかぎりこの時点で死とみなす法律が世界各国で立法化された。

 意識はない。口頭以外の意思の疎通もほとんど不可能。

 しかし、<LD>の患者はウロウロと徘徊し、人を臭気や匂いで探し、襲う。

 そして本物の恐怖はここからはじまる。

 このあと、首を切り落とそうが、腕を切り落とそうが<LD>の動きは一切止まらない。微弱な脳波からの電流で切り離された体の部位に信号が送られれているとシュペイアー教授の発表が一瞬ネットにアップされたがドイツのこのサーバーはすぐに大量の<LD>の罹患者に襲われダウンした。

 残された処分方法は圧したり酸化つまり焼却したり人体組織そのものの破壊だったがこれが今までの死の概念を超えた恐ろしく手間のかかる処理方法なのは想像に難くない。

 これらも、人類がこの病を封じ込めにことごとく失敗した主な理由でもある。

 米国は中西部で三発の核兵器を使用、五大湖から南北を縦断する長大な城壁を築いたが、先に患者を出していた東部の切り離しに失敗、エスタブリッシュが北東部に大量のヘリで移動したものの理由はあきらかにされていないが作戦は失敗。一方で当時野党だった民主党は上院下院の両議長を連れてワシントンDCを脱出。北大西洋を守備範囲とする第二艦隊所属の空母ドワイト・D・アイゼンハワーに移乗し艦上でアメリカ特別臨時政府を宣言するが、その宣言の18時間後、空母ドワイト・D・アイゼンハワーは、北緯32度62分、西経70度11分地点での交信を最後になぞの漂流を始め行方不明となる。

 これは大国で封じ込めに失敗する典型例となった。

 長い距離を防御するのは物理的に不可能だった。ロシア、中国も似たような土塁、壕をほったり大量破棄兵器を使用したが尽く封じ込めに失敗。

 そもそも首都や大都市圏で罹患者が出ている段階で都市機能は麻痺し中央集権制がどんどん崩壊していった。

 封じ込めに唯一成功しかけたのが英国だった。為政者は英国の南部、ロンドンを捨てほぼ無人の過疎地スコットランド、ハイランド地帯にに首都機能と生存者を早期に移転。

 英国島でもっとも国の幅の狭い地点に絶対防御ラインを敷き、北海油田より引いたパイプランを設置。エターナル・フレームと称し炎の壁を築いた。

 そして超軽量素材のテントを立てそこに住居を求めた。

 これが文明社会で一番成功した例かもしれない。とBBCは伝えていたが

 <LD>の罹患者は船こそ使わないものの数カ月後アイスランドから泳ぎスコットランド北部沿岸ににどっと押し寄せた。と当のBBCが伝えたので事実なのだろう。

 行田はBBCをフォローしていただけである。

 やがてBBCの放送そのものが途絶えた。

 BBCの停波は英国の崩壊、または文明の崩壊を意味する。


 人類は死に絶えた。

 いや、<LD>もしくはサファラーズと進化しこの地球を支配していた。罹患していないものが死に絶えただけだった。


 この人類発祥の地である、スタークフォンテン洞窟のファーストマン研究所はコードブラックのバイオハザード系の細菌をも扱う研究所だったおかげで外部と物理的隔離に成功。

 実際は幾重のフィルターと気圧を減圧に保つことで区切っているだけだったが、今のところ成功している。

 しかし、フィルターの数にも限界がある。永久にここに暮らせるわけではない。

 ファーストマン研究所内部は小さな国際社会と言っても良かった。各国から研究者主に人類学者、医学者だが集められて急速に事態が悪化していくなか、喧々諤々の議論が重ねられた。

 死後だが<LD>の捕獲隔離にも成功していた。しかし、家族を本国に残しているもののが殆どで議論は容易に殴り合いにまで発展したが統一した目標を研究所として見出すことは出来なかった。

 今のところ、この研究所を出ていって帰ってきたものは一人もいない。

 コード・ブラックに対応する完全防護スーツを着たまま出たものでさえもだ。

 所長の華僑かきょうのガオ教授もこの研究所に対する最後の補給のヘリの帰りの便乗って研究所を離れたが誰も顛末は知らない。

 肝心の<LD>のワクチンだが、人類は未だに誰一人作成に成功していない。


 汗を拭っただけで、行田准教授は食堂兼談話室のホールへやってきた、研究所全体をコントロールするコントロール・ルームはこのホールの隣である。

 もうすでにスペルマン教授が円卓の一つに座っていた。スペルマンはユダヤ系米国人。歳は60代なかばで頭はすっかり禿げ上がり、大きな鷲鼻を持っている。背は高く痩せており立つといつも大型の猛禽類を思わせる。

「ご苦労さま」

 スペルマンが言った。

「いや、それほどでも」

 行田が汗を拭きながらが英語で答えた。しかし防護スーツの中は地獄である。

「オービタル04はなんか言って来ましたか?」

 オービタル04とは地球の衛星軌道上をまわるコロニーである。といっても、コロニーとは世界宇宙開発機構が名付けた名ばかりのコロニーで男女は3人づつ6人で生活してい宇宙実験筒というほうが正確である。電力による酸素の生成、筒内で植物の栽培、回転運動による重力の発生、水の清浄化など一応行われているが6人で半永久的に生活するのはギリギリか不可能のラインである。

 実験的に自律的長期滞在の宇宙生活をする実験設備なのである。

「いつもの泣き言や繰り言のやり合いだよ。フィンランドのあたりで光が見えると言っていたよ、わしらでは確かめようもない」

 とスペルマン。

 現在、<LD>に罹患せずに行田が知っている健康な人間はこのスペルマン教授とコロニーの6人だけである。お互い自家発電で交信しあっている。

 このファーストマン研究所もオービタル04と似たり寄ったりの状態である。保存食はたった1年分。水は3日ごと小川に汲みに行き、軍隊でも使用されるアクアタブと呼ばれる消毒用錠剤をその水に倍入れて飲んだり洗濯、シャワーに使用している。

 <LD>は人にしか罹患しない。地球上の他の動物は全く無傷で健康そのものである。遺伝的に2%しか差がない霊長類にすらかからない。

 行田やスペルマンは何度か都市部の防犯カメラの映像をネットで拾えたことがあるが、都市が野生の王国そのものに変化していた。

「NY《ニューヨーク》の様子は?」

 NYとはIラブNYのTシャツを着ていた捕獲した<LD>である。

「おとなしいものだよ」

 もちろんNYには直接は接しない、例によって気圧を若干下げた完全ドラフトの空間に閉じ込めてある。

「最近、少し興味深いウィルスの反応を見つけてね、ちょっと失敬してもいいかね?」

「どうぞ」

 スペルマンは医学者で病理学が専門である。しかも、ウィルス分野がその中でも専門らしい。

 比べて行田は歴史学の人類学者である。フィールドワークも多くこの南アまでやってきたがいかんせん文系で、そこを見透かされて、スペルマンにはお前には細かいことを話してもわからないだろうと言う態度を取られることも多い。

 この研究所に閉じ込められて3ヶ月になるが、お互いの分野にプライバシーも含めて立ち入らないほうがいいのがお互いのためだと最近理解している。


 行田はいつもの固形合成炭水化物と固形合成アミノ酸、とビタミン剤の錠剤の夕食を食べた。ドリンクはめちゃくちゃ苦いアクアタブ二倍入りの南アの小川の水。

 これも、あと一年足らずで絶える。以前は殴り合いの議論にまで発展したが、今はたった二人だ、どうなる??。

 アクアタブで清浄化すれば飲めるのである。そとで農業を行うことが可能ではないかと思うが種がない。貧者のパンと呼ばれたジャガイモもない。一番近くの街まで防護スーツで歩いていくのはどうだろう?。

 わからない。

 気が滅入るのは当たり前だ。仲間は皆無、将来も皆無。落ち込まないようにするのだけで精一杯である。

 行田は日本がどうなったかも知っている。少し前のSF小説のように命の選択をし為政者と生存者だけでロシアのシベリアに逃げた。しかしその後は知らない。

 空気感染するのだ。しかも極寒の地だ。だからチャンスがあるかもしれない、、、。

 そんなことを考えているとうとうとと仕掛けた。


 気が付くと、。

 行田は寝落ちしていた。

 ホールのテーブルに突っ伏して寝ていたようだ。テーブルにはスペルマンのお気に入りのマグカップが置き忘れてある。

 持っていってやろう。そう行田は思った。


 スペルマンの部屋のドアが開いて明かりがついている。行田と同じように寝落ちしていたのだ。

 電力は太陽光発電とバッテリーに頼っているのでとても貴重だ。思わずスペルマンの部屋に入り電気を消しに行く。

 椅子にのけぞったまますーすーと寝息を立てるスペルマン。

 机の上にそっとマグカップを置いた。

 机の上には電子顕微鏡のモニターと数枚のハードコピー、書類が散乱している。

 見る気持ちはないが、つい見てしまう。

 殴り書きの文字。

 why WHY Why.

 スペルマンも家族をアメリカに残してきているという。おそらく全滅だろう。いやサファラーズとして生きているというべきか、、、。

 "タンザニアでの変異"行田に読むつもりはなかった。しかし、目が離れない。手が知らずと書類を持ち上げ読み続けている。知りたくなかった。


 たった数枚のA4の印刷用ペーパーだったが、それで十分だった。



 三日後。スペルマン教授が水汲みに出た。

”第一エアロックを開けてくれ”

 通話機を通してスペルマンの声が聞こえる。

「こちらコントロール、コピー 第一エアロック開けます」

 行田がコントロール・ルームから答える。

 コントロール・ルームの不鮮明な白黒の画面ではオレンジ色のだぶだぶの防護スーツを着たスペルマン教授がポリタンクを持ってのそのそ歩いていく。

”この洞窟に壁画があるのを知っていたか、函太郎かんたろう

「はい、私の専門分野なので、<LD>のパンデミックの前に十分調べました。ミッシング・リンクの説明になりそうな論文を二三作書いてトーキョーに送りました」

”そうか”

「第一エアロック閉めます」

”こちらスペルマン、コピー”

 数分して、スペルマンが重そうに18リットルの赤いポリタンクを持って戻ってきた。

”こちら、スペルマン、第一エアロックを開けてくれ”

「・・・・・・・・・・・」

 行田は無表情のまま答えなかった。

”こちらスペルマン、異常なし、第一エアロックを開けてくれ”

 電子化されたスペルマンの声がコントロールルームに響く。

”おい、どうした、そこにいるのか、函太郎”

「はい、います」

”第一エアロックを開けてくれ、シャワーが楽しみだよ。暑くて死にそうだ”

 行田はさらに間を開けた。

”おい、行田。何をしている。開けてくれ”

「すいませんが、出来ません」

”なにを言っているんだ!?”

「教授の防護スーツの左のブーツの気密テープを少し剥がしておきました」

”・・・・・・・・・・・”

 行田も黙っていた。

”悪い冗談はよせ、早くエアロックを開けてくれ”

「タンザニアでおこなったあとどんな気分で世界を眺めていたんですか?」

”・・・・・・・・・・・・”

 スペルマンが声を失った。

”なぜ知っている?”

「数日前、たまたま見てしまいました」

”君は覗き見たのか!”

「自分の意志か、偶然か自分にもわかりません」

”ここの壁画を君も知っとるだろ”

 スペルマンの声には切迫感があった。

「はい、人類学の私の専門分野です」

”ミッシングリンクの”

「そのとおりです」

”その壁画に付着した染料、それは赤で血液だったんだが、見つけたんだよ、ミッシングリンクの消えた部分をその血液からウィルスのRNAとDNAも復元できたんだ”

「これで、どうして、ミッシングになっているかわかりましたし、実証出来ましたね」

”そのとおりなんだよ。これは世界的いや人類的発見だよ、函太郎”

「彼らも私達みたいに<LD>で絶命したんでしょう、跡形もなくだから化石もない」

”そのとおりだ”

 スペルマンの声は半音上がり狂気を帯びていた。

”まさにそのとおりだ”

「しかし全人類を相手に人体実験をする権利はあなたにはない」

”落ち着け、函太郎かんたろう、私や君、オービタル04が光を報告するみたいにどこかでまだかなりの人間が生きているはずなんだよ”

「甘いですね、そんなはずはありません。ミッシングリンクなんですから。それにもうスペルマン教授も感染されています。明後日には高熱が出て意識を失うでしょう。それより先にブーツから漏れる臭気でサファラーズが集まってきますかね?」

 コントロールルームの小さな外部モニターでは、防護スーツ内のスペルマン教授の表情までは、行田にはわからなかった。

 が、行田の言ったとおり、もうサファラーズが一人、ボロボロの服に失った眼孔から見える腐った脳漿を見せながらスペルマンの真後ろまで迫っていた。

 防護スーツといっても、弱くて柔らかい繊維でしかない。

 サファラーズが伸びた爪をスペルマン教授の肩に手をかけた段階で防護スーツはいとも簡単に破けた。

”ぎゃあああああああああ”

 防護スーツが大きく破れた段階でもう二人のサファラーズが迫っていた。

 スペルマン教授は三人のサファラーズに食われて死んでいった。


 コントロール・ルームでは行田函太郎ゆきたかんたろうがゆっくりと通話装置を切ると外部モニターも切った。

 オービタル04に連絡すべきかとも思ったが、もう興味がなかった。

 行田函太郎はスペルマンのロッカーまで行くと、そこからSIG SAUER P320を取り出した。

 行田は自分の部屋まで戻った。


 しばらくして乾いた銃声がした。

 そして薬莢が落ちる音。

 そのあと、この研究所からなんの音もしなかった。

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