神にはなれねぇGEEK LIFE 

低迷アクション

神にはなれねぇGEEK LIFE 

神にはなれねぇGEEK LIFE


 はじめに…情報通信技術の飛躍的な発展とグローバル化の急速な進展、技術に文化が

音速トップギアを振り切りそうな進化を見せた、ボーダレス社会において、あらゆる

価値観、存在が現実化した昨今…これは、そんな世界に乗り損ねた堕落者達の物語である。


場面①(舞台は日本、午後の暑い日差しを受けて、

今にも傾きそうなあばら家の縁側に二人の男がいる。1人は軍隊ヘルメットを


被った強面。もう一人は金髪、優男風の青年だが、同じく外に設置された衣類を

干す物干し竿は装飾剣に自動小銃と言った“異質な感じ”がある。)


軍曹:(全く、この世は“神”が多すぎる。空飛ぶ巫女さんや、魔法少女に、

怪獣擬人化とか、戦艦擬人化とか、過去の英雄、英霊、美少女&美少年?イケメン?

とにかくあらゆる面で神がかった魅力に能力満載の奴等が溢れかえった昨今…


そこにあやかろうと、あわよくば乗っかろうとする俺達の“転職活動”は今日も

失敗、不採用の封筒が満載ナウって現状…)


そんな考えを抱きながら、前を見れば、ルームシェアの同居人、いや、勝手に

こっちが転がりかました半強制的相棒“ルシ”がボンヤリ立ち竦んでいた。

とりあえず声をかける軍曹。


軍曹:「オイッ、あんま直射な陽射し浴びてっと、ゆで卵になっぞ?頭?」


ルシ:「おうよ…」


優男のルシが金髪を掻き上げ、こちらを向く。目は若干のうつろ。

ああ、完璧に茹で上がってるな、コリャッ…軍曹、室内に引っ込み、冷蔵庫から

アイスキャンデー2本を取ってきて、一本は自分、もう一本をルシに放る。


軍曹:「まぁ、あれだ。よん中、“いいね!”って事ばかりじゃねぇが、とりあえず

上手いモン、食っときゃ何とかなる。そこからメイクな笑顔を元に、いい事も

クリエイト!スマイル、スマイルだぞ?」


ルシ:「軍曹…」


軍曹:「オウ?何だ?」


少し、声音が戻った感じのルシに、安心した軍曹が問い返す。


ルシ:「それ、俺の買った奴…」



場面②(縁側に腰かけ、アイスキャンデーを食べる二人。手持ちがない軍曹としては

無言に耐え切れず、会話を切り出す。)


軍曹:「で、どうだったのよ?あの、何か魔術使って、昔におっちんだ奴等呼び出して

戦う奴。魔法とかそーゆうの得意なんだろ?おたく?」


軍曹の声にルシは頭を振り、答える。


ルシ:「駄目だってさ。何か実務経験はクリアなんだけど、そーゆう戦いに参戦する資格が

   足りないんだって。資格取るにはイギリスとかドイツで必須科目をクリアしなきゃ

   いけないらしい。


   時々、天然モノの資格者もいるらしいけど、俺は該当しないって。むしろ、

“貴方自身で戦った方が早いでしょ?”なんて、担当の眼鏡っ子に

言われたよ。」


軍曹:「まぁ、おたく個人の方が、明らか強いからな。えっ?じゃぁ、あれは?

異世界転生モノとかは?何か凄いじゃん?あれ、ハーレムじゃん?」


軍曹の再びのポジティブ的問いかけにルシ、厳しめな視線を返答として返す。

慌てて気づき謝罪する。


軍曹:「ワリいっ“そこ”から来たんだもんな。おたくは…」


しばしの沈黙…申し訳なさげな軍曹に、ルシが“もう怒ってないぞ”アピールで言葉を返す。


ルシ:「そっちはどうだったの?海軍の司令官?提督の口は?」


ルシの言葉に、先程の彼と同じような仕草で軍曹が答える。


軍曹:「筆記で落ちたわ。やっぱ、あれだな。指揮官連中なんて、ただ、艦砲背負った

   嬢ちゃん達に“出撃”と“お疲れ”+ちょっとムフフなご褒美ご期待の仕事なんて

思っちゃいけねぇな。管理職として、それなりの実績と見識、知識がないと駄目だわ。


まぁ、考えてみりゃ、俺達“前線”の現場上がりが、

がその経験を活かして、現場ならではの判断や、配慮が出来るなんて、

息まいてみても、それを証明する資格と頭がなければ不採用。時代がどんだけ

ハイスペックになっても、行政や役所、人事部なんて、その辺は昔から

何も変わってねぇよ。」


ルシ:「わかるよ。全く、その通りだな。」


軍曹:「一応、女子高生達の戦車隊の教官職と、飛行ユニット付けた女の子達の空戦指導

   官も最終まで行ったけど、駄目だったわ。


戦車は敵車輌を破壊する事を教えるものでなく、あくまでスポーツ的な意味合いが強く、


空の方は飛んでる敵を倒すのでなく、救出やパレード、空を駆ける美少女達の

肢体をいかに映えさせるかの技術が必要だってさ。


確かに俺が教えれば、MBT(主力戦車)を手榴弾一本で大破させる術から、

竹槍一本で、最新鋭のバトルシップと音速の戦闘機とやり合う事を

伝授できる自信がありありだけどよ。


そーゆうのはお呼びじゃねぇんだとよ。」


ルシ:「だよなぁ…」


二人にしばしの沈黙が流れる…思い出したように軍曹が喋る。


軍曹:「そう言えばよ!三軒隣の山田さん家に押しかけ系の魔女っ娘ちゃんが

来たらしいじゃん?」


ルシ:「ああ、見た!見た!ちっこくて、素直クールな感じの子だったよな。

   背丈に似合わない大き目帽子がポイント高しだわ。」


楽しそうに話すルシに軍曹も続く。


軍曹:「マジで、超カワッじゃん!?それ!!ウワーッ、スゲェ見てぇなぁ。」


ルシ:「ついでに言えば、商店街で買い物してたら、狐耳のおねーさんいたぜ?

   正直、俺の地元はケモ耳多かったから、あんまりグッとこないと思ってたけど、


   こう現代風景にファンタジー要素が絡むコラボ感は新しいな。」


軍曹:「いいよなぁ、そーゆうの大好きだよ。俺も。」


盛り上がる二人だが、しばらくすると再びの沈黙…そして堰を切ったように

会話が繰り出されていく。


軍曹:「てか、あれだよな?こんだけタイミングとチャンスが溢れかえってる世の中なのに

   何で、俺達には来ねぇ?提督にも魔術師にもなれねぇ?別にあーゆう神がかった

連中みたいな能力はいらねぇよ。


   せめて、その傍に、清掃員とか、お手伝いさん的な感じでもいいからさ。なぁ、ルシ?」


ルシ:「そうだね。確かに、俺なんかは、結構あの子達サイドに近い所にいた訳だけど、

結局“敵”としてしか関わりなかったもんな。だから、そっち側に加わろうとしたら


資格云々の話だもんな。これには参ったよ。ドラゴンだって、魔術だって、

呪いだって、ドンと来いなのに、あの子達みたいな、周りのご同輩共から言わせりゃ、“マジ神”の存在にはなれない。触れる事すら出来ない訳だ。」


両手を振り上げ、舞台役者のように肩を怒らすルシに、軍曹が続く。


軍曹:「あれかな?俺さ。考えたんだけどさ。これからはさ、病弱キャラで行けばいいかな?

   ハロワだって“何か、もうどうでもいいです”っていうアピやってる奴の方が係の人

   の関心を引くらしいじゃん?


  なんかさ。“守ってあげたい!何とかしてあげたい!”的な感じのさ。そうすりゃ、

女神様的なアレも、特殊能力系女子も手を差し伸べてくれるかもしんねぇ。」


軍曹の提案に一瞬輝くルシ、だが、すぐにシュンとなる。


ルシ:「その提案ノッタ!!って言いたかったけど、駄目だわ。俺、再生能力半端ない。

   多分、命3つ分くらいの割合だわ…」


肩を落とすルシに軍曹も自分で言っておいてから、約数秒…ガックリとなる。


軍曹:「俺もだわ。戦場でのあだ名は“死神に嫌われている”

対戦車ヘリのロケット弾喰らったけど、3日で治った。」


ルシ:「…何かさ、俺達“中途半端”なんだよな。常人とは違って、そこそこの能力は

あるから、通常社会では、何となく生きづらい。けれども、神がかった能力連中側に

行けるほどではない。所詮はGEEK!クソッタレで惨めな生き方さ。」


軍曹:「だよなぁ~っ…」


二人のため息と一緒にゆっくり、午後が過ぎていく…



場面③(夕方、崩れかかった二人の家の前を1人の少女が泣きながら、歩いていく。

    着ている服は普通だが、衣類を突き破り、背中から生えた翼が、彼女を

    “異能”の存在という事を示している。)


軍曹:「なぁっ、ルシ?」


ルシ:「ん?何だ?」


軍曹:「あの“おねーちゃんがぁ~、おねーちゃんがぁ~!”

   と説明しがちな彼女はナニモンだ?」


ルシ、少女の方を見ながら。


ルシ:「ああ、そう言えば、買い物であった、町内会の斎藤さんが言ってたよ。

 この町に住み始めた“ハーピィ”さん一家の長女が、昨日から帰ってこないって。」


軍曹:「ハーピィ?あの歌声で惑わす鳥ねーちゃんか?確かに、あの子も翼生えてっけどさ。」


ルシ:「そうそう、俺みたいに、こっち住み始めた子達。だけど、能力的にも珍しいし、

   ルックスもGOODで可愛い。何より異能だし?利用価値多しって事で、


人身売買組織が目ぇ付け始めてるって、ハロワの人が言ってたよ。」


軍曹:「情報元ハロワなの?凄くね?ハロワ?だけどよ?


そんだったら、警察は?いや、警察じゃなくてもいいや。あの子達のご同輩、

神がかった連中は?ヒーローに、魔法少女はどうしたよ?」


軍曹の声にルシが両手を上げ、小馬鹿にしたように肩をくゆらす。


ルシ:「オイオイ、時代は、神様級の連中が溢れかえった、

マジで、ボーダーレスワールドだぜ?既存的価値観なんて一切合切皆無!

に壊された世界じゃ、毎日のように世界存亡の危機をどっかのヒーローが救い、


異世界からの恋人とか、空から女の子が降ってくるような非現実的ラブコメは

日常茶飯事、オールジャンル!そんな世界にとっちゃ、小さな出来事。取るに

足らないモンさ。


あのハーピィちゃんだって、1人じゃない。色んな種類や

デザインの子達がそれこそ、何万、何十億と、同時に存在している。


だから、問題ない。きっと何処かの誰か、異能の神がかった誰かが救うさ…


多分…きっと…」


喋りながら、肩を少しづつ落とすルシの様子を見た軍曹が、低く笑い、言葉を返す。


軍曹:「オイッ、語尾終わりが随分、自身無さげだな。それとも迷っているのか?

   “自分が何とか出来ないか?”ってさ。そう思ってるんだろう?ルシ?」


ルシ:「・・・・・・ああ、まぁ、そうだけど。しかし、止めとこう。俺達は神様じゃない。

   つまり“万能”じゃない。アイツ等はいい。

タイミングよく、あの子のおねーちゃんの居場所がわかって、


敵もそれなりに強いけど、ラッキー重なりまくりで勝利して、あの子達から笑顔。

ついでに法的損害も一切なしの感謝をもらう。まさに神の成せる所業。俺達GEEK

野郎に出来る事じゃぁない。」


軍曹:「確かに…そうだな。ちげぇねぇ!だけどよ。そう言った神様レベルの連中だって

   “最初からそうだったわけじゃないだろう?”勿論、素質に運命的な出会いもあったと思うよ。だけど、何も努力をしなかった訳じゃない。


エスカレーター式に昇りつめた神様を崇める奴なんて、誰もいない。それなりの苦行と人のために何かを成した奴が、それになれるんじゃねぇの?」


軍曹の言葉にルシは何も答えない。だが、軍曹は気にせず、笑い声を上げる。


軍曹:「それによ。お前?あれだぞ?言ってるワリには、かなりその気だよな?物干し竿の魔剣、何で、手元に置いてんだよ?」


ルシ:「・・・・・・」


軍曹:「まぁよ、言ってみて、ヤバそうだったら、帰んべ。どうせ、明日は一日暇。

   食後、午後からアイスキャンデー一本だけど…の運動には丁度いい。


   ちなみに加えるなら、あのハーピィっ子の太もも、めっちゃしゃぶりてぇし、

   タイプな顔だ。手前勝手で申し訳ねぇけどよ。」


ルシ:「俺もだよ。」


軍曹:「ミートゥ~、堪らないねぇ~、そんじゃぁいっちょ行くか。」


ルシと軍曹、それぞれの得物を手に縁側から消える…



場面④(舞台は変わって、翌日の昼、傾きかけた家の縁側に軍曹とルシの2人が座っている。昨日と全く同じような二人の様子。違うとすれば、軍曹もルシも、それぞれ

   顔に絆創膏を貼っている事くらいだ。)


軍曹、顔のテープをいじりながら。


軍曹:「いやぁ、やっちまったな。」


ルシ、ボンヤリ前を見たまま。


ルシ:「うん…」


軍曹:「久しぶりに暴れたから、派手にやりすぎたな。ホントに…

まぁ、敵も山ほどいたし、何かでけぇ機関銃撃ちまくってたから、

仕方ないっちゃぁ、仕方ないよな。」


ルシ:「やりすぎだよ…(ボソッと呟く)」


軍曹:「(目を見開き)やりすぎ?それはお前だろ?俺だって、相手から奪ったロケット砲

   やら、鉄砲やらを撃ちまくったけど、決めてはお前だぞ?何、御自慢の魔剣

“絶対、封印解かないから、任せて☆”とか言ってたのに、あっさり解放しやがって。


おかげで、奴等のいた倉庫どころか、港湾一帯、火の海やん?捕まってた異能の子達

一杯、救出して、報奨金出たのに、その金全部、返済に充てたじゃん!!」


軍曹の剣幕に、ルシも目を見開き、吠え返す。


ルシ:「軍曹もだろ?組織の奴等、半殺しで、奇跡的に死者いなかったけど、政府が3日前に設けた“狂戦士法案特別徴収対策”の要項に当てはまったって、

税金とられたじゃん。その分も含まれてる事、忘れないでほしいな。


相手のボス格の人なんか、自分の足と手が逆方向にエビぞりして、最後は互いを

掴めるまでになってたやん!?」


軍曹:「何おうっ!だぞ?こんにゃろう!あの場合、仕方なかったろうがぁっ!」


ルシ:「何が仕方ないだよ!この野郎!!」


叫び、掴み合う二人。そんな二人に道から、涼し気な、音色の良い声がかかる。

振り向けば、昨日助けたハーピィの姉と妹が並んで立っており、二人に向かって

一礼し、その場を楽しそうに去っていく。


争いを止める二人。


軍曹:「まぁ…いろいろあったけど、良かったな。」


ルシ:「うん…」


しばしの沈黙…先に口を開くのはルシ。


ルシ:「なぁ、軍曹。」


軍曹:「ん?」


ルシ:「俺達、神様的な連中には、なれないけどさ。こーゆう事をするのも、

何か悪くないじゃん。さっき軍曹が言ってた、人のためにとか誰がために。

的な感じで、何かいいじゃん。てか、


俺達がなりたかった神様ってさ。

こーゆう事を大事に出来る人がなるんじゃないの?」


軍曹、少し考え、言葉を話す。


軍曹:「実務経験に、意識はバッチシか。」


ルシ:「そうそう、だからさ。これを仕事に…」


軍曹、遠くを見つめ、考えながら。


軍曹:「・・・・・少し、考えさせてくれ。」


ルシ:「待つよ。時間はタップリじゃん?」


軍曹:「職無しだからな。」


お互いの掛け合いに、笑う二人。その上を雲がノンビリ過ぎていく…(終)



 

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